下水道の決戦~終戦~
アンデッドが不敵に笑った瞬間、光と平一とエミリーの3人が同時に走り出した。
アンデッドは3人に接近されないように風魔法で吹き飛ばそうと"風爆"を放とうとしたが、
「"魔断"」
エミリーがその魔法の発動を妨害した。
『ーーー』
驚いているアンデッドにエミリーはしてやったりと笑みを浮かべる。
椿は魔法の発動までに周囲に流れる魔法の流れで魔法の発動を予知することができると言っていた。
エミリーはある程度それを抑えられるが、椿には簡単に見抜かれる。椿はそもそも完全に抑えている。
しかし、このアンデッドの魔法程度なら、今のエミリーでも魔力の流れを読み、完全に封殺することが可能だ。
そうしてエミリーが作り出した隙を、3人が無駄にせずに接近に成功した。
(やった!)
光は歓喜を覚え、しかし次の瞬間には気を引き締める。このアンデッドの強さは理解した。接近したと言っても、対応される可能性も十二分にある。
光も平一もエミリーもそれをよくわかっていたので、3人は同時に攻撃を仕掛ける。
光は下から剣を振り上げるように。
平一は左側からかかと落としを。
エミリーは右側から剣を振り下ろすように。
それぞれが攻撃仕掛けるも、
「……防がれたね」
リーリエはその戦闘を見ながらポツリと呟く。
視線の先では、3人の同時攻撃はアンデッドに完全に防がれていた。
エミリーと平一の攻撃は、それぞれ手で受け止めていた。平一の足は足首を掴み、エミリーの剣は手首を掴むことで当たらないようにしていた。
そうして、光の剣は剣の側面を足で抑え、振り上げられないように止めていた。
無事に3人の攻撃を受け止めることに成功したアンデッドは、そのまま手で掴んでいる2人をそれぞれ投げ飛ばした。平一は右側に、エミリーは左側に力一杯投げ飛ばされたことにより、2人は空中にいて踏ん張れないこともあったが吹き飛ばされてしまった。
だが、アンデッドがいくら強くても、2人も決して弱くはない。紛れもない強者である2人を投げ飛ばしたことにより、踏ん張るために足を剣の側面から地面に降ろしていた。
それにより光は剣を持ち上げ、今度は突きの要領でアンデッドにこうげきを与えようとするも、それすらも受け止められてしまった。だが、
「見事な真剣白刃取りだね。だけど、君がいくら強くても、超人的な反応速度を有していても防げる部位は限られている」
光は
「その両手、封じさせてもらったよ」
アンデッドの武器のひとつを確かに奪った。
だが、この武器は光が一人で戦っていた場合は逆に自分の武器を奪われているという状況だが、今は仲間も一緒に戦っている。光は、2人を信じていた。
だが、このアンデッドは魔法も使える。得意の風魔法で光を吹き飛ばそうとアンデッドは魔法の準備をするが、
「"盲毒蝶の夢"」
いつの間にか接近していたエミリーが毒を仕掛けた。
本来、アンデッドに毒は通用しないのだが、アンデッドは膝をついた。
「やった!」
実は、エミリーが仕掛けたのは神経毒だった。上級魔法にも分類されるほど強力なこの魔法は、アンデッドの脊髄を確かに蝕んだ。
「よっしゃ!これでようやく攻撃できるぜ!」
平一は自慢の拳を握りしめ、パンチの嵐をアンデッドにお見舞する。
「毒がいつまで続くのかわかりません!速攻で勝負を終えてください!」
「おうよ!元からそのつもりだァ!」
平一は一心不乱に攻撃するが、ふと野生の勘により危険を察知した平一は瞬間に後ろに向かって跳んだ。
平一が跳んだ瞬間に、アンデッドの周囲に斬撃の嵐が飛ぶ。
風属性魔法"斬風"だ。椿も、普通に斬った方が強いし、もっと強い魔法があるので普段は使わないが、こういう時には役に立つ中級魔法だ。
「脳からまともに信号が送れない状況でも、魔法を唱えますか……」
エミリーはその事実に戦慄しながらも、再度浄化の光を放つ。
『ーーー』
アンデッドにはわからなかった。自分には浄化が効果はないと理解しているはずなのに、それでも撃ってくる理由が。
「くたばれやぁ!」
だが、浄化の目眩しによりその隙をついた平一が殴り込んでくる。
平一の渾身の攻撃はアンデッドの顔に直撃し、吹き飛ばした。
「光さん!」
「最後はお前が決めろ光!」
エミリーと平一が光を呼びかける。
「ああ。わかった」
それに、高円寺光は応えた。
「悲しいことも苦しいこともあったのかもしれない」
光は静かに聖剣を頭上に構える。
「人を救ったこともあるのかもしれない。だが、」
そうして、光は目の前の敵を精一杯睨みつける。
「人の道を外れ、罪なき人々を恐怖に陥れる存在になってしまった。その罪を悔い改め、懺悔せよ!」
そうして、光は今の自分が出せる精一杯の聖剣の力を解放しながら、アンデッドに斬り掛かる。
「斬裂風花!!」
光の攻撃は、確かにアンデッドの体にくい込み、吹き飛ばした。
「ハァハァ」
光はそのまま、聖剣を地面に落とし、膝をついて倒れる。
本来ならば、きちんと倒せたのか確認しなくてはいけないが、肉体の状態ですぐにわかった。
アンデッドを倒した際に発生した経験値が確かに、自分に蓄積されている。
「やった、倒した……」
喜びも束の間。光と平一はそのまま意識を手放してしまった。
「はぁ。やっぱり無理してたんだね」
「はい……すみません」
「いいよ別に。エミリーが生きてくれてたんだから」
リーリエは気絶した光と平一、そして光が倒れたと同時に同じく倒れて動けなくなっていたエミリーを結界の中に移動させていた。
現在はリーリエはエミリーの治療中だ。
「それにしても、倒せたからよかったけど、これで倒せなかったらどうするつもりだったの?」
リーリエは実は、幾度となく助けに入るつもりだった。
あのアンデッドは確かに強かった。正体こそ不明だが、3人をこれほどまでに追い詰める程の実力。
リーリエはエミリー達では荷が重いと判断して助けようと何度も思ったが、それを察知したエミリーは、その度に視線で「助けなくてもいい」と言ってきたのだ。
「……ですが、ここでリーリエさんに助けてもらっていては、ダメな気がしたのです」
エミリーは静かに天井を見つめながらそういう。
きっと、エミリーはこれからも自分が納得するまで無茶するのだろう。ならば自分はそれを止めつつ、できるものはやらせ、隣で助けるべきだと判断した。だから、
「今は、少し眠ってなよ。回復はしておからね」
「ありがとうございますリーリエさん……」
「いいよ。ゆっくり体を休めてね」
リーリエの言葉を聞き、エミリーは静かに意識を手放した。




