ゆるふわデイズ
サブタイが思いつかないな……
「アンデッド討伐の前に先ずは情報収集ですね!」
依頼を受注したリーリエが戻ると、エミリーはランラン気分でポーチからメモとペンを取り出しながらそう言った。
きっと依頼を遠足かなにかと勘違いしているのだろう。
「では、ギルドの酒場に行きましょう。冒険者から情報を貰えるかもしれません」
光はそう言ってエミリーをギルドの酒場に誘導しようとしたので、リーリエは拘束の魔法で光を捕らえる。
「な!?いきなり何をするだ!」
「何をするんだって……助けてあげたのにその言い方は酷くないかな?」
そう言いながら、リーリエはエミリーになにかの紙を渡す。
「はい。酒場にいる酔っ払いに何かを聞いても期待してる返事は来ないと思うしね。依頼を受ける時に聞いてみたら最近の騒動の概要がある程度記入されてる用紙を貰ったよ」
と、紙をエミリーに渡した。
何気に情報収集も楽しみにしていたエミリーは、少しガッカリした気持ちになったが、取り敢えず自分の身の安全を守ってくれたリーリエにお礼を言った。
「ありがとうございます」
「いいのいいの。それよりもごめんね?エミリーの楽しみを一つ減らしちゃって」
全く、彼女はどこまでも優しい。
「大丈夫ですよ。リーリエさんは私の身を案じてくださったのですし、文句を言うのはお門違いです。ありがとうございます」
そう言ってリーリエから紙を貰ったエミリーは記されていることに目を通した。
そこにはアンデッドは何故か最近大量に出現している。夜の街には出てこないが、下水道などの薄暗く、ジメッとしている場所に大量に出没しているとのこと。しかもアンデッドは夜ならば墓地にも出るが、下水道ほど数は多くないそうだ。
「?下水道なら問題ないんじゃねえのか?」
と、ここでなにか問題でも?と内容を聞いて思った脳筋代表平一は質問をする。
「はい。確かに表面上は問題ありません。ですが、身近に危険な存在がいるという住民のストレス、それに下水道管理の人物がアンデッドに襲われる可能性もあります。下水道は生活において使用された水が通る場所です。清潔に、とは言わなくとも最低限の安全は確保すべき場所なのです」
エミリーの言葉に、平一は完全には理解しなかったが、取り敢えず安全を確保しなくてはいけないということはわかった。
「じゃあ、下水道に様子を見に行こうか」
光もやる気充分といった感じで聖剣に手を当てる。
そうして一行は一番近くにある下水道の入口に来たのだが……
「くせぇな」
「ああ。臭い」
「鼻が曲がりそうな匂いです……」
上から平一、光、エミリーがそれぞれ感想を言う。下水道は最低限の手入れしかしておらず、元から汚いため、かなり臭い。
「うーん。これはちょっと予想外」
リーリエもこの下水道の有様には苦笑いを浮かべている。
「このままじゃ臭くて満足に戦えそうに無いね」
光は顔を顰めながらそんなことを言う。臭すぎて満足に戦えず、負けてしまいました。なんて、どれだけかっこ悪いことか。
「こんなもの、上里くんなら……」
椿なら、この程度突破できる。そう思って呟いたのだが、
「いやいや、椿だって人間だよ?この匂いはきついと思うけどね」
リーリエがそんなこと言うくらいには臭かった。椿は消臭は出来ないので、臭いをどうにかすることはできないと言い、光は静かに驚く。
椿なら、なんでもできると思っていたから、それだけできないこともあると言われた時の衝撃は大きかったのだ。
「まあ、もしかしたら消臭できる能力をその場で創るかもしれないけどね」
リーリエは苦笑いを浮かべながらそう言うが、光には聞こえなかった。
「なあエミリー様よ。これはどうするんだ?流石にこの環境で戦いたいとは思わねえよ?」
平一はここで戦うのは勘弁してくれと頼む。
「そうですね。少し、浄化しましょうか」
エミリーはそう言うと神聖魔法を発動させる。
「"陽聖"」
浄化系神聖魔法"陽聖"。これは周囲一体の汚れを浄化する魔法だ。掃除などでよく使われる。
そしてそこにエミリーは更に手を加える。
「第一魔力炉解放。擬似限界突破」
椿から与えられていた魔導具で、擬似的な限界突破を用い、"陽聖"の効果を昇華させ、周囲一帯を完全に浄化する。
「すげぇ」
平一はただただ驚き、光は手を握りしめる。椿は一人の少女にこれほどの力を軽々と授けることが出来るのだと理解し、また負けた気がしたのだ。
「凄いね神聖魔法。水が天然水のように綺麗だし、空気も凄く美味しい……」
「はい!私一人の力ではここまでの即効性はありませんが、椿さんの力を借りればこれほどまでの浄化ができるようになるのです」
と、エミリーは自慢げに胸を張った。
その後、一行はエミリーが通路を浄化しながら慎重に進む。
気配はリーリエが感じ取っているが、リーリエは最低限の情報しか言わない。エミリーが「これも冒険者というものです!」と言ってきかなかったからだ。一応、危険が迫った時、エミリーたちの手では負えない事態が迫った時はリーリエが前線に出る。だが、それ以外は常に後ろで見守っている。
エミリーは第一魔力炉に内包していたMPで無理矢理限界突破している状態。しかもこれは擬似的な限界突破なので、方向性がいる。エミリーは今は神聖魔法のみが限界突破している状態。だから神聖魔法以外は普段のエミリーなのだ。
第一魔力炉は椿の満タンくらいのMPが内包されているので、半日程は限界突破を使ってもMPが無くなることはないだろう。
「っと、空間に出たな」
一番前で歩いていた平一がそんなことを言った。光が後ろから見ると、確かに広々とした空間があった。
「下水道の管理者の休憩所みたいなものでしょうか?いずれにせよ、ここを臨時の拠点として活動しましょう」
そう言ってエミリーは魔法石を取り出し、地面に投げつけた。
この魔法石は、椿が作ったもので、"次元天蓋"が内包されている。魔法石を壊すと、そこを中心として結界が展開される仕組みだ。
「へぇ。これで安全に戦えるわけか」
基本は外で。危険になったら結界に逃げるができるようになったわけだ。
「安全性も考えた結界。さすがエミリー様ですね」
「え、えぇ。そうですね……」
実は、この魔法石は椿が念の為と言って作った渡しただけだったりする。ちなみに効力は国宝級で、それがポーチの中に残り20個ほどある。
「あとは、これも使いましょうか」
エミリーは再度ポーチからアイテムを取り出すと、MPを流し込んだ。
「エミリー様、それは?」
光がエミリーのしている行動に疑問を持ち、質問を投げかける。
「これですか?これはMPを込めながら、念じることで念じた種類の生物を誘き寄せる効果を持っています。今はアンデッド系を念じましたので、暫くすればアンデッド系モンスターが襲ってくると思います」
エミリーはそんな危険なものをさらっと出していた。
ちなみに、このアイテム。人間にも通用したりする。まあ人間は意思がはっきりとしすぎてるので、寝たきりの人物とかではないと、あまりきちんと発動しない。椿ならそれ全部無視して呼べるけど。
「では、そろそろいい時間ですし、お昼ご飯にしましょうか」
そう言って、エミリーは2人分の弁当を取り出した。
「……え?」
光は困惑する。それはそうだろう。エミリーが昼ごはんを食べようと言いながらポーチに手を入れたのだから、てっきり自分たちの弁当も持っているのだと思ったのだ。
そんな光と平一を見て、エミリーは「あっ」と言葉を零すと、
「すみません。元々光さんと平一さんは一緒に来る予定ではなかったので、用意していませんでした……」
エミリーは申し訳なさそうな表情で謝る。別に自分が悪い訳では無いのに、そんな表情を見せられると、罪悪感が生まれるから不思議だ。
「いえいえ、大丈夫ですよ!無理して着いてきたのは俺たちですし、きちんと昼ごはんは用意していますので!」
光はそう言いながら、荷物から携帯食料を取り出し、平一にも渡す。
不味くはないが、上手くもない。質素な味が平一と光の口の中を満たす。
「これ、美味しいね。誰が作ったの?」
「本当ですか!?実は、以前から料理にも興味がありましたので……その、今日は自分で作ってみました」
「え!?これエミリーの手料理!?凄く美味しい!将来はいいお嫁さんになるね!」
「お嫁さんだなんてそんな。まだ、婚約者も正式には決まっていませんし……」
ほのぼのと続くガールズトーク。
「なあ光」
「……なんだ?平一」
「……これさ、俺たち必要だったか?」
「…………言うなよ、悲しくなるだろう」
そして、昼食も無事に終了したタイミングで
「エミリー、来たよ。アンデッドの大群が」
リーリエの感知能力(範囲縮小版)にアンデッドの気配が引っかかった。
「!!わかりました。光さん、平一さん、出番です」
エミリーは剣を一振抜き出すと、結界の外に出た。
「わかりました」
「おっしゃ!ちょうど暇してたし、暇潰しにはなるだろ!」
勇ましく、光は聖剣を抜きながら、平一は拳を握りしめながら前に出る。
その直後、エミリー達が入った入口がある通路とは全く別の通路から大量のアンデッドが出てきた。
「さあ、開戦です」




