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待ち受ける、最奥の巨人

 その後も椿の花恋は順調に進んでいた。だが、椿と花恋のステータスは下がり、技能は失いつつあった。


「また、技能が無くなったな。今回は極限突破か」


 今まで使ったことがない技能が無くなったことに少し安堵した。有用な技能が無くなるよりはマシだったからだ。だが、椿は既に全魔法適正や万能感知を失っている。


「そうですね。わたくしも鬼化以外の必要な技能は殆ど失ってしまいました」


 そう言いながら花恋も自分のステータスを確認する。

 ステータスは軒並み下がり、技能は権能と種族固有の技能以外は殆ど消えている。


「二人とも万能感知が無くなったことだし、不意打ちの対処が難しいな」


 もう既に試練は中盤を終えようとしていた。モンスターの強さ自体は怠惰の試練同様、最後まで変わらないのだろうが、いかせん二人のステータスが下がりすぎて強敵になりつつある。


「今はステータスに頼らない技と駆け引きでなんとかなってはいますが、それもいつまで続くかはわかりませんし」


 再度前方から襲いかかってきたそこはかとなくオーガやオークに似ているモンスターを二人で撃破する。


「はぁ……この剣とか使うの久しぶりだな」


「ですが、技能は無くなっても形はなんとか体が覚えていてくれてよかったです」


 そう。椿の花恋は技能が失くなっても剣術は使えたのだ。

 そもそも技能は先天的なものと後天的なものの二つがある。

 先天的なものは世界がその人に与えた才能といえる。その生まれ持った才能はその人の確かな力となって残るものだ。

 後天的な技能は己の力でみにつけた技能だ。例えば椿は最初は剣術の技能を所持していなかったが、訓練をすることによって手に入れた代物。その人の努力が世界に認められ、技能として改めて身につけられるものだ。

 ちなみに嫉妬の権能はその権能により、無理矢理世界に介入して力を得るものだ。


 つまり、椿と花恋はお互い努力して手に入れた剣術や格闘術は問題なく使える。あとはステータスだけだ。


「はああ!」


 そして現在は花恋が鬼化を発動させながらオーガ相手に近接戦を仕掛けているところだ。


「花恋はすごいなっと」


 椿も襲いかかってきたオークの攻撃を剣で受け流し、流れるように斬撃を加える。


「うしっと」


 剣の強化の魔法も使えないので、完全に素のステータス。権能の力を使おうにも、あれについてる魔法にも詠唱やらなんやらが必要なため、面倒で使えない。MPの最大値も減ってるし。


「ふっ」


 花恋は再度近づいてきたオーガを蹴り上げ、そのまま胴体にパンチを与える。


「やっぱ、種族固有の技能が消されなかったのは強いな」


 椿はオークの首をはねながら呟く。

 後天的、先天的問わず、その種族が必ず持っている技能。それが種族固有技能だ。

 鬼人族ならば鬼化。妖精族ならば羽による飛翔と羽の隠蔽、見分けるための鑑定の目といったところだろう。


「椿くん、終わりましたよ」


「そうだな。ありがとう花恋」


「はい!椿くんも大丈夫でしたか?」


「大丈夫だったよ。おいそれと回復魔法が使えないから慎重に進もうか」


 そう言って二人は再度手を繋いで進む。

 魔法が使えたら……と椿は思考するが、そんな無い物ねだりをしても無駄だと自分に言い聞かせる。

 詠唱破棄も高速詠唱も詠唱省略も失くなった今では、純粋に超超長文詠唱を唱えるしか方法はない。しかも通常魔法は今は適正が無いから使えないし。


 椿は握る手に力を入れる。花恋はそれを感じて、そして今椿がどういうことを考えているのかがわかり、悲しい気持ちになった。

 花恋たちは既にこの試練にありとあらゆるものを吸われ尽くしたあとだ。残ってるものはあまりない。


 ステータスも平均20程度まで下がり、技能も権能と種族固有の技能、そして椿には言語理解が残っているだけだ。


「感覚的には、そろそろ終わりだと思う。こんなにステータスも技能も失くなったし、あとは今までと比べるとちょっと強くなったボスが一体配置されてるとかかな?」


「その可能性は高いですね。それにしても、ここはリーリエには難しいですね」


「だな。得意の魔法は途中で封じられ、近接戦もリーリエは余りできないからな」


 リーリエを連れてくるのは辞めようと、そういう結論に至った。


 そのまま、時折襲ってくる敵を倒しながら、確実に奥へと進む。


「!椿くん。なにかがいます」


 野生の勘でも働いたのか、花恋はそう忠告してくる。


「了解。俺もできることをするから」


「はい。無茶はしないでくださいね?」


「花恋こそな」


 そう言って、奥に足を踏み出す。そこには、巨大なゴーレムが立ち尽くしていた。


『gigigagaga』


「いや、お前の声文面にまで出てくるのかよ」


 椿が今までのモンスターは文面に声が出なかったのに、明らかな優待遇に不満の声を零していると、そいつは殴りかかってきた。


『gagagagagaga』


「しかも物理かよ!」


「椿くん!」


 椿は冷静に、ポーチの中から大盾を取り出して、自分のゴーレムの間に置く。この盾は下に地面に突き立てるための部位があるので、多少支える力が弱くても、問題なく守れる優れものだ。椿の地属性魔法による補助があれば、永遠に削れることの無い盾が完成するのだが。

 ゴーレムの拳が盾に当たり、衝突している隙に椿は脱出。その瞬間に地面から抜け、支えを失った盾は壁に向かって飛んで行った。


「花恋!」


「わかりました!」


 花恋は鬼化を発動させ、ゴーレムに打撃を加える。


「痛っ!」


 椿が遠距離から見ると、花恋の攻撃は確かに効いているが、反動ダメージの方が大きく見える。

 このままでは、花恋が倒れる方が先だろう。


「疾っ!」


 椿は槍を取り出してゴーレムに投げるが、魔法による補助が無いと、投擲の技術がない椿では、見当違いの方向に飛んでいくしかなかった。


「はああ!」


 その間にも、花恋はゴーレムを撹乱し、確実に攻撃を与えている。

 だが、鬼化の自己修復能力があっても、再生よりも受けるダメージの方が大きく、花恋は今にも倒れそうだった。


「くそ。なにか方法は……」


 椿はポーチを探りながら、適当な武装を取り出す。


「花恋!一旦退いてろ!」


「は、はい!」


 花恋が離脱したのを確認すると、椿はゴーレムに向かって作りたての爆弾を投げる。


「渾身の力作だ!有難く喰らっていけ!」


 そしてゴーレムの右足が爆発で砕けた。


「凄いです、椿くん……」


 だが、ゴーレムは未だに健在だ。


「では、あとはわたくしが!」


 花恋は再度立ち上がって、攻撃を仕掛けようとするが、


「待ってくれ、花恋。もうひとつ試したいことがあるんだ」


 そう言って、椿はポーチから銃を取り出した。


「それは、確か椿くんの世界の……」


「まあ、さっきの爆弾もそうだけどな。ちょっと見ててくれ」


 そう言うと、椿はゴーレムの残った左足に向かって銃を三発ほど発砲した。

 だが、それでも足は砕けることなく、少しヒビが入っただけで、まだそこに確かに存在していた。


「花恋」


「わかりました!」


 椿の意図を直ぐに理解した花恋はゴーレムに向かって走り出す。それを見たゴーレムは花恋の姿を見ると、攻撃するために左足に力を入れて……


『ga……gigigaga?』


 その瞬間にバキバキバキと、嫌な音を出しながら左足は崩れ去った。


「まあ、あれだけヒビ入れられりゃ、そりゃ踏ん張るだけで崩れるわな」


 椿の目的ははじめから銃で足を砕くことではなかった。ゴーレム自身に砕かせることだった。そのために、少し力を入れるだけで崩れるように撃つ場所をわざわざ狙ったのだ。


「椿くん!」


 花恋は跳び上がった。かかと落としでも決めるつもりだろう。空中で器用にも回転しながらゴーレムの頭に向かって落ちていく。


「じゃ、倒れろ!」


 椿は再度ゴーレムの首に向かって数発撃ち込む。花恋が壊しやすいように。


『gigigagaga』

 ゴーレムは抵抗しようとするも、崩れた足が邪魔で腕も満足に動かせなかった。


「はああああ!」


 そして、花恋のかかと落としが決まり、ゴーレムのそのからだは崩れ去って行った。

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