椿の気持ち
最近一話あたりの文字数が少なくなってきた……
装備の点検を終えた椿と花恋は現在、王都で所謂デートをしている。
(ど、どういうことですか!?)
ちなみに花恋は内心パニック状態だ。
ちなみにリーリエがなぜ居ないのかと言うと、リーリエは現在エミリーと何かをしている。それが何かは花恋にも椿にもわからないが、やはり王女と族長の孫娘。権力の差こそあれど、立場が似通っている二人にはなにか通ずるものがあったのだろう。二人は現在仲良くお茶会をしている。
(リーリエ、助けてください!)
だが、和んでいるリーリエとエミリーとは別に、花恋の内心はパニック状態だった。
確かに花恋は椿をデートに誘おうとしたが、まさか椿から誘われるとは夢にも思わなかったのだ。
そもそも、誰が想像するのだろうか。
他の子のことが好きな男からデートに誘われるなど。現代日本の基準で考えると、クズでしかないが。
だが、花恋は緊張しながらも自分の前を歩く椿に大人しく着いていく。
「そろそろ腹減ってきたし、どこかで食べるか。花恋はどこがいい?」
ちなみに現在の時刻は昼頃だ。
「そ、そうですね……わたくしは軽食で大丈夫です」
花恋はあまり沢山食べる方では無いので、そう言うと椿は「わかった」と言って、近くにあった喫茶店に入っていった。
慌てて花恋も後に続く。
二人は喫茶店に入ると、それぞれ珈琲と軽食を頼んだ。
「椿さん、なぜわたくしを誘ったのですか?」
もしかしたら椿が花恋と出かけるのをデートと認識していないかもしれないと考え、敢えて誘ったと言う。
椿はその事に「うーん」と暫し悩む素振りを見せると
「たまには、こういうともいいんじゃないかなって思っただけだ」
少し照れたようにそう言った。
そんな椿の反応が少し、可愛くて、花恋は思わず笑ってしまった。
花恋が笑ってるのを見て椿は少し拗ねてしまったが、まあ大丈夫だろう。
そして店員によって運ばれた珈琲と軽食を食べて店を出た。
デートなら普通、ブティックに行くと思うのだが、今のところ花恋はそこまでオシャレに興味深々という訳では無い。元々鬼人族の里には服の種類がそこまで多くなかったこともあり、花恋はオシャレに特別興味がある訳では無いのだ。
なので、現在二人は色々な店をゆっくりと見て回っている。
たとえ雰囲気が違うかろうと、二人がそれで良かったら、それはデートなのだ。そうに違いない。
ちなみに花恋は椿の出かけられるというだけでかなり楽しんでいたが、椿は内心パニクっていた。
椿には当然異世界でのデートなど知らない。日本でのデートもそこまで知っている訳では無いが、異世界よりもマシだろう。
異世界には日本での定番と言えるデートスポットである遊園地も水族館も映画館も何も無い。つまり誘ったはいいものの、正直何をしたらいいのかわからなかった。
「あ、椿さん。闘技場があるみたいですよ!」
そこで、花恋がキラキラした目で闘技場を指さしていた。
「ん?花恋闘技場でいいのか?」
「はい!」
この瞬間、異世界での定番デートスポットは闘技場となった。
椿の花恋は中に入ってチケットを購入する。観戦するのにチケットが必要みたいだ。
今から一番近い時間帯では、Bランク冒険者どうしの戦いがあった。この世界ではBランク冒険者もかなり上位の存在。民衆が気になるのも頷ける。
賭けの倍率も同じくらいだった。
「花恋、賭ける?」
「いえ、わたくし賭け事はあまり得意では無いので」
ということで、賭けはしないことになった。正直、賭け事なんて強欲の権能使えば簡単に答えがわかるのだが、それは面白くないと思っている。
そして適当に飲み物を購入して席に着いたタイミングで決闘が始まった。
「へぇー。結界で観戦者に対する被害を軽減してるのか」
使われているのは"天蓋"だった。
「はい。もし結界が完全に破壊されると、その時点で決闘は終了みたいですね」
「なるほど。じゃあどうやって勝敗決めるんだ?」
「怪我の度合いでしたり、体力やMPの消耗具合で決めるそうです。ちなみに怪我は専用の回復術師が待機しているそうです。ルールとして、対戦相手を殺すことはご法度みたいですね」
ルールを確認している間に入場してきた二人の冒険者。ステータスは中々に高めだ。レベルは勇者である光よりも圧倒的に高く、ステータスも光よりも少し下ぐらいでこの世界の住民にしてはかなり強い方だ。
そうこうしているうちに決闘が開始された。
二人とも剛剣士のようで、重量のある大剣一本で戦っている。
途中危ない場面で他の観客が声を上げたりしているものの
「なんというか、あれだな。思ったよりも本気じゃないな」
「それは……やはり殺してはいけないルールですので、躊躇ってしまうのでしょう!」
花恋も決闘者をフォローしているが、花恋もあまり楽しくないようだ。
花恋は椿のそリボーンの戦いを見てることもあって、そっちの方に惹かれている。
「なぁ、花恋。なんで決闘なんて見ようと思ったんだ?」
椿の疑問点。花恋がなぜ決闘を見ようと思ったのか。別に興味があるのもいいし、期待していたよりも面白くなかったのなら、それはそれでいいとも思っている。
「それは……わたくしが椿さんのことを好きになった理由の一つが、椿さんの戦っている姿なのです」
「……ん?」
急に自分の好きなところを語られて困惑している椿を背に、花恋は言葉を続ける。
「ですから、同じ戦闘であり、大衆に魅せることを目的とした決闘も楽しめると思ったのですが……」
椿には適わなかったようだ。
椿はそんなことを言われて照れるやら、恥ずかしいやらでなんとも言えなくなった。
やがて決闘が終わった。
ちなみに双方の名前を椿は覚えてなかったので、どっちが勝ったかも知らない。
ちなみに花恋は結局、後半はそこそこ楽しんでいた。やはりなにか楽しみを見いだせたのだろう。
日本に帰ってから、日常的に戦闘を求められたら困るなと椿は考えたところで、いつの間にかリーリエと花恋は日本に一緒に行くものだと考えていたことに気が付き、微笑を浮かべた。
「まったく……」
想像以上に惚れたもんだな。そう思った。
「椿さん。楽しかったですね」
メインストリートで歩く中、前に歩いていた花恋が後ろに振り向きながら言った。
「そうだな。最初こそ微妙だったが、最後は中々に楽しめた。やっぱりそういう魅せる戦いが上手いんだろうな」
ちなみに決闘王者はSランク冒険者だそうだ。椿なら片手間に奪えるきがするが、魅せる戦いは出来ないので大衆受けしないだろう。
「それで、そろそろ帰りますか?」
そう言って王城に向かって歩き出した花恋の手を掴んだ。
「え?」
「悪い花恋。もう少し付き合ってくれ」
そう言って椿は、花恋の手を握りながらゆっくりと目的地に向かって歩き出した。
着いたのは王都の中でも、自然がそこそこある丘の上に建っている飲食店だった。
その中に椿は花恋を伴い入っていく。
「椿さん。このお店は?」
「悪いな。デートの締めにこの店に来たいなとはおもってたんだ」
椿の口から確かにデートという単語を聞いて、花恋は少し照れながら、案内された席に座った。
王都を一望できる窓際の席に。
「綺麗……ですね」
王都の夜景は、東京のタワマンで見た景色には劣ると思うが、この景色にはそれにも負けない魅力があると椿は思っている。
花恋と椿は夕食をそれぞれ頼んで、夜景を眺めた。
この夜景は、王城のテラスで見るのも良かったが、ここで見るのもこれはこれで違う見方ができていいなと椿は思った。
「椿さん。ありがとうございます」
「……どうしたんだ?いきなり」
「いえ、きっと里に居ただけでは、このような景色を見ることも出来ませんでしたし、冒険も出来なかったと思います。ですので……」
花恋は今の生活に満足していた。だから椿に感謝の言葉を述べたのだ。
「なぁ、花恋」
「はい」
花恋は椿の方を見ると、真剣な目をしていることに気がついた。
その目を見た瞬間、もしかして……という考えも浮かんだが、反対に悲しい未来も見えた気がした。強欲の権能でも無意識に使ったのだろうかと思い、改めて技能を抑え込める。
「二人がさ、俺に着いてくる時告白、してくれただろ?」
「……はい」
やはりその話しかと、花恋は覚悟をゆっくりと決める。
「俺さ、今少し気持ちに余裕が出来たことだし、ゆっくりと考えてみたんだ。花恋とリーリエのことをどう思ってるか」
花恋は何も言わない。何も言えないのだ。返事を聞くのが怖くなってくる。
だけど、答えを聞かないと前には進めないとわかっているので、椿を止めたりしない。
「きっと、俺はエミリーが好きなんだと思う。過ごした時間は短くても、確かに俺はエミリーに惚れたんだと、そう思った。ひとりぼっちでこの世界に来た俺に、初対面にも関わらず本気で俺の事を心配してくれて、話してくれるエミリーのことが……」
「……はい」
「でも、俺は無意識に花恋とリーリエのことも欲していたんだと思う。強欲の間でエミリーよりも花恋が出てきたから。一緒に入ったのが二人だったからエミリーじゃない。そういう可能性も考えたが、それ抜きにしても二人のことは大切なんだと思う」
だから、と。椿は言葉を続ける。
「俺は花恋のこともリーリエのことも好きだ。でも、それはあまりにも不誠実なことだと思った。好きな女がいるのに、それにも関わらず別の女を好きになるなんて……」
「ですが、この世界では椿さんのいた世界とは違って、一夫多妻制がありますが……」
「もちろん、それは知ってるよ。でも、それとは関係なく、俺がそう思っただけだ。でも、それが二人の気持ちを蔑ろにしていい理由にはならない」
椿は改めて花恋の目をしっかりと見た。
「だからさ、もう少しだけ待っててくれないかな。いつになるのかはわからないけど、エミリーにしっかりと気持ちを伝えた後、もう一度二人にしっかりと返事するからさ」
それが今の椿にできる精一杯の誠意だった。
女の子に好かれたことも無く、告白されたこともしたこともない男の、誠意の。
何他の女の子キープしてるんだよ!と、色々な人が怒ってくる可能性もあるが、それは一旦置いておく。
「……全く、椿さんは酷い人です。勇気を出して告白してきた女の子に、待ってくれだなんて」
「それについては悪いと思ってる。でも……」
「はい。そんなところも含めてわたくしとリーリエはあなたを好きになったのですから」
花恋は少し笑った。
「では、これでひとまず関係が落ち着いたことですし、わたくしも椿さんの呼び方を変えますね」
「え?なんで?」
「それはエミリーさんの呼び方がわたくしと同じ『椿さん』という呼び方なのでわかりにくいと思ったのです」
「……声でわかるかと……」
「いいえ、文章で読んでる方にはわからないはずです!」
何言ってんだ?と椿は思ったが、決して口には出さなかった。
「では、改めてよろしくお願いしますね。椿『くん』」
そう言いながら、花恋は手を差し出してきた。椿もその手を握る。
「ああ。こんな男だけど、よろしく頼む」
「はい!」
その後、届いた夕食を食べた2人は、手を繋ぎながら王城へと戻って行った。
やばい……これ書くのに二日かかった……
強欲の間での花恋バージョン書くよりは短かったけど……




