静かな場所で
もうそろそろタイトルが思いつかなくなってきた(はやいわ)
「あの、椿さん。その魔法陣はなんですか?」
王城の一室。そこで何やら椿個人としては必要も無いのに謎に魔法陣を書いていた椿に椿と一緒に居たいという理由で椿のことを探していた花恋が疑問を口にする。
「ん?これか?」
作業が一段落したのか、一度手を離し、立ち上がって伸びをした後
「転移用の魔法陣だよ」
なんてことないように神話級の魔法を行使するための魔法陣だと口にした。
「……すみません。なぜ、魔法陣を?椿さんなら必要ないかと……」
花恋の疑問。それはなぜ必要も無いのにこんなものを作っているのかだ。
「ん?ああ、2人には話してなかったか。これはエミリー達にも使えるように設置してるんだよ」
「なるほど?」
エミリー達にも使えるように。椿を見ていれば、椿の好きな人がエミリーなのだと、すぐに分かる。だがそれはそれとしてなぜエミリーに魔法陣が必要なのかはわからなかった。
そんな花恋の考えを理解したのか、椿は薄らと笑いながら
「ほら、今度神聖国ルリジオンまで護衛依頼を請け負っただろ?」
「はい。そうでしたね。椿さんもあちらに九つの試練があるかもしれないからと引き受けていましたね」
「そう。だからだよ」
なにがだからなのか、花恋にはわからなかった。
「えっと、この転移魔法陣はどこに繋がってるのでしょうか?」
取り敢えず、考えてもすぐに答えは出ないと判断した花恋は椿にこの魔法陣の繋がっている場所を聞いた。
「ルリジオン」
「……え?」
「神聖国ルリジオンだ。その国の中の適当な場所に洞窟作って、そこに設置してきた」
花恋はポカンとなった。
それはそうだろう。好きな人がいつの間にか護衛対象の目的地に一人で赴いて、魔法陣設置しておそらく転移で帰ってきたのだろう。
転移魔法は一度行った場所でないと、正確な座標がわからないから、ルリジオンまで一人で行ったのは確定。
そして、誰にも気付かれない内に、それをこなしてしまった椿のことを凄いと思うと同時に、花恋は一つの疑問が浮かび上がった。
(もしかして、わたくしたちが着いていくっと言ったので、椿さんは徒歩と馬車でここまで来たのでは……)
だとしたら椿の隣に立つどころではなくなる。正真正銘足でまといということに……
「ちなみに勘違いしてると思うから言っとくが、あの日、二人が着いてくるって言わなくても俺は徒歩と馬車でここまで行ったぞ」
「え?そうなのですか……?」
「はぁ、やっぱり勘違いしてたか。当たり前だ。道中に九つの試練があったら目も当てられないからな」
つまり椿は自分のためにここまで徒歩と馬車で来たのだと行った。
それが気遣いだとわかっていても花恋はつい嬉しくなってしまう。
「よし、これで取り敢えず魔法陣は完成したな」
椿は一度魔法陣の様子を確認すると、そう言った。
椿的に満足する出来だったのか、とても満足そうだった。
「後は……装備の点検でもしとくか……」
そう言うと、椿はその場に座り込んでポーチから幾つかの武器を取り出した。
「あの、魔法陣のある部屋で点検しても大丈夫なのですか?」
「ん?誤作動のこと?だったら大丈夫だよ。この魔法陣はMPを流さないと発動しないからな。しかも別の目的で強制的に流されたMPには反応しないようにしてるからここで点検しても大丈夫だよ」
相変わらず頭の可笑しい性能をした物を作るものだと思った花恋だった。
それはそうと、花恋は椿の作業を興味深そうに眺める。ふと、椿が取り出した武器の中で見覚えのない物を幾つか見つけた。
「椿さん。これは?」
「ん?どれどれ」
花恋が指したのは銃と銃弾だった。
「ああ、これは俺の世界の武器だよ。一度作ったんだが、壊れてしまってな。今から修理も含めて点検する」
花恋は銃を興味深そうに眺める。試しに鑑定と、試運転として強欲の権能を用いて性能を確かめてみる。
椿が"錬成"で作り出したもので、弓より早く強力にもかかわらず、魔法のように詠唱も陣も必要ない。しかも弓は練習しなければ真面に放つこともままならないのに対し、銃にはそのような心配は殆ど皆無だろう。これほどの武器が椿の世界には存在するのかと戦慄した。
「ん?なんだ?花恋、銃欲しいのか?」
「……え?いえ、そうではありませんが」
「そうか。まあ欲しかったら言えよ。あげるから」
「椿さんはいらないのですか?」
「うん。使わんし」
実際、椿が一々銃の威力を強化して撃つより、魔法を適当に放った方が楽なのは確かだ。
「まあ花恋の戦闘スタイルにも合わないしな。あ、銃返して。直すから」
そう言って花恋から返してもらった銃を"錬成"で素早く直していく。
「銃、直すのですね」
「まあな。誰か使うかもしれないしな」
もしかしたら椿がもう一度使うかもしれない。だけどそれは今ではないだろう。
万が一があった時のため、念の為に椿は銃を修理しておく。
「よし、取り敢えずこんなもんかな」
椿はそう言うと作業を止めた。どうやら完全に終わったようだ。
花恋はそんな椿をデートにでも誘おうかと思ったが、
「なぁ、花恋」
「!?ひゃい!」
急に呼ばれたため、変な声が出てしまったが、椿は苦笑しながらもスルーした。
「今からさ、街にでも行かないか?」
「……へ?」




