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九つの試練 ~強欲の間~

 椿が奥に進むと、既に花恋とリーリエが待っていた。


「あ、椿さん!」


「遅かったね。そんなに強かった?」


「まぁ、そこそこ」


 リーリエに返事しながら、椿は二人の様子を見る。リーリエは少し服が汚れている程度だったが、花恋は服に血が付着していて、拭いきれていないのか、口元には血がついていた。


「花恋。ちょっと」


「?どうかしましたか椿さん……むぐっ」


 花恋を呼んで、近づいてきた花恋の口元を優しく拭う。


「むむぅ……」


 暫く口元を拭って花恋を解放すると、花恋は不満そうな表情で椿を見てきた。


「なんですか椿さん。急に口を触って……」


「いや、だって花恋吐血しただろ?口に血着いてたぞ?」


 花恋はえ?という表情をすると、顔を真っ赤にして、口元を拭いだした。

 そしてある程度拭うと、花恋はリーリエを軽く睨んだ。


「リーリエ。口元に血がついていたなら、言ってくださっても……」


「いやー。私も言おっかなとは思ったんだけどね。けど花恋的に言わないほうがいい気がしてね」


「全然よくありません!」


 二人は試練を終えた後なのに、疲れを感じさせない元気さを見せてくれたおかげで、椿の気も少し楽になった。


「はいはい、二人ともそこまで。奥にバンボラがいるはずだからみんなで宝玉貰いに行くぞ」


 椿は手を叩きながら二人に近づく。

 二人は椿の言葉に気が付き、そのまま前に向かって歩く。


 暫くすると、広い場所に到達した。

 その広間に足を踏み入れると、更に奥から椿にとっては見慣れたゴーレムが歩いてきた。


『やぁやぁ!今回のクリア者は3人か。初めてのクリア者が三人も来るとなると、僕としても久しぶりに人と話せて嬉しい気持ちもあるが、それと同時に三人もクリアしたことに対する複雑な気持ちも出てきたね。簡単な試練では無かったと思うんだけどね』


 花恋とリーリエは始めてみたバンボラを興味深そうに見ていた。

 椿は花恋とリーリエの前に出る。

 バンボラはそんな椿に対して訝しむような視線を向ける。


『んん?君、試練はじめてじゃないよね?』


「ああ。ここで4つ目だな」


 もう4つ目。次クリアしたら折り返しだ。


『そっかそっか。そして後ろの女の子二人は君の仲間かな?』


 バンボラは花恋とリーリエを少し観察すると、真面目な雰囲気に変え、三人を見た。


『さて、ここに無事に辿り着いたということは、試練クリアだよ。ちなみにここが何を司る試練か予想はついてるかな?』


「強欲だろ?」


 花恋とリーリエが悩む暇もなく、椿は答えを出した。


『ほう?なぜそう思ったのかい?』


「簡単な話だ。入ってすぐに出てきた俺が深層意識で欲していた(花恋)。俺が帰りたかった場所。それだけでも予測するのには充分だった」


 それを聞いて、花恋とリーリエもハッとした表情になったが、それと同時に、疑問顔になった。


「では、椿さん。わたくしたちの偽物は……?」


「それも簡単な話だ。強欲の試練ではその力を得るために真の意味で己を越えてもらう必要があったのだろうな」


「え……?それは、なんでなの?」


「さあな。そこまではわからん。続きはバンボラにでも聞こう」


 そう言って椿は改めてバンボラに向き合う。


『お見事だよ。少ない情報で、よくそれだけの考えに至れたね。さすが他の試練をクリアしているだけある』


 バンボラはわざとらしく手を叩きながら賞賛の言葉を送った。


「御託はいい。さっさと説明をしろ。凡そ宝玉の能力となにか関係があるんだろ?」


 バンボラははぁとため息を吐いた。

 リーリエはそれを話す気になったのだと解釈し、聞く体勢になった。やはり興味があるようだ。


『強欲の力。それは己の欲を満たす力だ』


 バンボラはゆっくりと話し始めた。


『人には満たしきれない欲望がある。もちろん叶えられるものもあれば叶えられない欲もある。そんな数多の欲。人間が生まれ持った矛盾した欲。長生きしたい。死んでみたい。有名になりたい。隠棲したい。都会で生きたい。野で生きたい。一人の人間でも、矛盾の欲を持つ。この強欲の権能は、そんな有り得た未来を覗き見、体験することが出来る力だ』


 花恋はいまいち理解しきれていないのか、首を傾げている。


『強欲の権能。それはあったかもしれない未来を見る。仮定未来視』


「……数秒先の未来を見る。では無いのか?」


 かつてクラスメイトの1人が言っていた未来感知の技能。それに類似する技能かと考えたが、


『それもあるが、それだけではない。過去、取り返しのつかない過去に、あの時こうしていればというあったかもしれない未来を見ることが出来る』


 だからこその仮定未来視、か。

 それを聞いて椿のリーリエは苦しそうな表情をする。

 そんな能力、後悔を産むだけかもしれないと。


 戦闘中に簡単に数瞬先の未来を見るだけなら便利な能力だ。未来感知よりもその精度は高いだろう。

 だが、後悔を覗き見るなら、その使い方は椿的にはおすすめしない。それはリーリエも一緒だった。


「えっと、ということはこの先どういった困難が待ち受けるのかも見ることが出来ますよね?」


 リーリエはそういった花恋の方を驚いた顔で振り向いた。

 椿も一瞬ポカンとした表情で花恋を見たが、すぐに微笑を浮かべた。


「そうだな。何もこの力は悪いことばかりじゃないな」


 便利な能力に自分たちが使えばいいのだ。


『さて、それじゃもういいかな?』


 そう言いながらバンボラはいつの間にか展開していた魔法陣から宝玉を3つ取り出した。


『これを取り込めば君たちに強欲の権能が与えられるよ』


 花恋とリーリエは少し躊躇ったが、椿はなんの迷いもなく宝玉に触れた。その姿を見て花恋とリーリエも満を持して宝玉に触れた。


「……無事に、貰えたか」


 ステータスを見ると、確かに技能に強欲の権能が追加されていた。


『さぁ、これで君たちにも力が与えられたはずだ。ここはなんにもない部屋だからね。奥の扉から元の場所まで転移出来るよ』


 そう言いながら、バンボラは奥に設置していた扉の鍵を開けた。


「そこから、本当に帰れるのですか?」


『……あれ?疑ってる?』


「そりゃ、私も花恋も。あんな試練体験したあとじゃ疑うのも無理ないと思うけどね」


 バンボラは『それもそうか』と言いながら笑っていた。


「じゃ、いくか」


 椿はその扉の中に足を踏み入れた。


「ま、待ってください!」


「待って椿。置いてかないでよ」


 花恋とリーリエも後から着いてくる。


 椿が最後に振り返った時、バンボラは薄らと笑っているような気がした。

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