所詮偽物
刀と刀がぶつかり合い、両者の覇気で周囲の空間が震える。
だが、二人はそれを気にもせず、更に攻撃を続ける。
「閻魔一刀流ーー閻空斬」
椿が放った飛ぶ斬撃は、偽椿の振るった閻魔によって切り裂かれた。
『閻魔一刀流ーー神閻』
偽椿から超音速で振るわれた攻撃に、回避は待ち合わないと判断した椿は
「"半空"」
空間魔法によって攻撃から逃れた。
"半空"は自分を少しの間だけ空間から一歩ずらすことによってあらゆる攻撃から逃れる魔法。欠点として、使うと解けるまで動けないという弱点もあるが、今回は問題ないと判断した。
そして至近距離まで近づいた偽椿の胸ぐらを掴むと
「"震空破"」
殴り飛ばした。この魔法は空間に干渉した衝撃波を放つ魔法だ。本来は殴る必要も無かったのだが、殴った際の攻撃も加えることで、ダメージの上強を期待したわけだ。
だが、空間の揺れをその身に受け、四肢は砕け、身体は既に崩壊しそうになっているにも関わらず、偽椿はそのまま技能である自動再生の効果と、再生魔法によって身体は五体満足で回復した。
「我ながら、反則だと思うんだけどな、その能力」
『何を今更。お前が作った能力だろ?』
自動再生は椿が嫉妬の権能を用いて創り出した能力だ。あれば楽だなと気軽に創った力が、ここまで厄介だとは今まで思ったことがなかったが。
決定打がない。リーリエみたいにお互いが全く同じ行動をするからでは無い。単純に椿は椿を倒すための火力がない。手数がない。
だが、押し切られることもない。故に互角。
「……武装展開」
椿はかねてより用意していた武器を全て出現させる。
空間魔法により拡張されたポーチから取り出された大量の武器。その全てに椿は浮遊能力を付与している。
『ほう、それはまだ準備段階ではなかったか?』
「出し惜しみをする気は無いからな"獄炎"」
炎を放って牽制をしつつ、椿は武器を偽椿に向かって飛ばす。
「"神速"」
更に超音速機動で偽椿に接近する。勿論手には〈閻魔〉を装備しながら。
『"魔弾"』
だが、準備段階だった武器はたった一つの魔法によって打ち砕かれた。
そして砕かれた武器の欠片を幾つか回収してから
「"錬成"」
地属性魔法によって、その欠片を上手い具合に融合していく。
『何をする気かは知らないが、阻止させてもらおう』
そう言って偽椿の前に現れた"炎帝""嵐帝""水帝""地帝"。
四属性の最上級魔法に戦慄しながらも、椿もまた同じ魔法で対応する。
『さすが俺、この程度では対応されるか』
そうして手に〈閻魔〉を装備しながら確実に接近してくる。
『閻魔一刀流ーー閻龍王』
そして、椿の右腕は切断された。
「ちっ!」
右手に持っていた、製作途中の物は右手と共に地に落ちていく。
「"血液硬化"」
椿は切断部にて燃えている炎を瞬時に消し去ると、右腕の切断部から垂れ流された血液を硬化させ、弾丸のように偽椿に向かって飛ばす。
『その程度で、傷付くとでも?』
「思うわけないだろ?」
椿はそう言いながら空中を蹴って距離をとる。
右腕を再生させながら地面に落ちた製作途中の物を手元に転移させる。
「"虚無砲"」
椿はソルセルリーを屠った魔法を放つも、偽椿も同じ魔法を使い、情けない音が鳴りながら消えてしまった。
『ははは!万策尽きたか!?なあ!』
再度振るってくる刀を、椿は作っている途中の物を収納しつつ、刀を持って対応する。
ギィィン!という音が鳴って刀と刀が衝突する。その隙に椿はナイフを持って首を跳ねようとするも、偽椿に首を硬化されて防がれる。
『強いなぁ。やっぱり、強い。凡そ人間が持っていていい力じゃない』
「……なんだ?急に」
今までそれらしい話しをしてこなかった偽物からの急な言葉に困惑しながらも問いかける。
『いいや、ちょっとした雑談だ。精神的に攻めてもいいが、それはこの試練のコンセプトじゃないからな。それは他の試練でしてもらえ』
椿は全身に雷を纏わせながら偽椿に蹴りを放つ。それを軽々と回避する。
振るわれる刀を椿は紙一重で回避する。
「"影分身"」
虚像の分身を創り出し、本体は距離をとる。
『逃げても無駄だぞ?お前なんかじゃ、俺には勝てないとその身に叩き込んでやる』
そう言って、偽椿は"神速"を発動させながら接近するも、その途中で何かが偽椿の頬を掠めた。
『……はぁ?』
偽椿が思わず一度停止し、頬に触れると、そこから微かに血が流れていた。
『何をした?』
そう言って、椿を見ると、思わず絶句した。なぜなら、その手にはこの世界で見たことがなかった武器、銃が握られていたからだ。
「お前が何を思ってたのかは知らねぇが、喋りすぎたな。お前が本当に俺なら一手でも多く相手を殺す手を考えろ」
と、傲慢な態度を取る椿に偽椿は思わず睨みつける。
『いつ、銃なんて作ったんだ?この試練に来た時にはお前は銃なんて持ってなかったはずだ。現に、俺は銃なんて持っていない』
「はぁ?決まってるだろ?作ったんだよさっきここでな」
と、椿は戦闘中に作ったと公言した。
『な!?お前は互角の相手と戦いながら、新しい武器を作ったと言うのか!?』
偽椿は察していた。先程、椿が"錬成"を発動した際に、銃を作り始めたのだと。
『……苦悩しなかったのか?全く同じ相手だぞ。打開策なんて簡単には見つからなかったはずだ』
「したさ。だがな、そんなこと考えるだけ無意味だと気づいたからな」
そう言って、改めて銃を向ける。銃と弾丸の素材には、魔力を浸透しやすい金属を用いているため、硬度や威力も筋金入りだ。
不味いと判断した偽椿は迎撃しようとするも、それよりも速く、椿が放った弾丸は偽椿の体を貫いた。
弾丸には"果てなき深淵"を付与しているため、当たった瞬間に偽椿の体を蝕み始めた。
『最後に問おう。なぜ、俺を追い込めた?』
「何を簡単なことを。相手がどこかのタイミングでコピーした俺なら、その時の俺よりも強くなればいいだけの話だ」
つまり、椿はこの短時間で己を越えたということだ。
『全く、この化け物め……少しでも、動揺してくれれば、俺にも勝機はあったのにな……』
そう、悪態づきながら、偽椿は消えていった。
「馬鹿言うなよ。お前が俺に勝てる可能性なんて始めからなかったよ」
虚像は所詮虚像。偽者程度に椿は負けるつもりなんて無かったのだ。
「さて、リーリエと花恋は無事にクリアできたか?」
そう言いながら、椿は偽物との戦闘によって破壊された故郷の偽りの景色をもう一度振り返ってから、奥に進んだ。




