偽物・偽物・本物?
三人は九つの試練の内部に入ってしばらくして、はぐれた。
入って少しは問題なかったのだが、霧が出てきてから周囲への認識が阻害された。
椿が"樹海生成"の時に使う霧に類似している。
なにかあると警告しながら、先に進んでしばらくして、三人とはぐれた。
「にしても、まだ続いてるこの霧は、なんだ?どこから来てる?」
この試練の番人の排出物か。そう考えながら先に進む。
花恋もリーリエも弱くない。なんなら色欲の間をクリアした時の椿よりも強い。何も心配することは無いと先へと進む。
「椿さん!」
しばらく歩くと、別れ道から花恋が出ていた。
「花恋、か……」
「はい。はぐれてしまい、申し訳ございませんでした」
「いい。気にするな。それより……」
瞬間、椿は花恋の頭を掴むと、"獄炎"を発射した。
頭部が完全に消滅させられた花恋は首から血を流すわけでもなく、ただただ頭部を失った状態で動いていた。
「やっぱり、か。魔眼を作っておいてよかった」
椿の新技能、魔眼。その効果は魔力感知と大差ないが、椿の作った"樹海生成"による霧はそう言った感知系の技能や魔法を完全阻害する。もし同系統の攻撃を用いる敵が現れた時ようにその中でも通用する技能を作っていたのだ。それが魔眼。
「花恋と全然魔力が違うぞ」
それだけ言うと、椿は偽花恋を一瞥してから先へと進んだ。
「にしても、なんの試練だ?コンセプトさえわかれば……」
各試練に存在する試練のコンセプト。
この試練のコンセプトさえ理解すれば攻略は容易だと思ったのだが……
「おそらく七つの大罪を元にした試練だということはわかってるが、人の認識を阻害して、偽の親しい人物を出現させる試練ってなんだ?」
皆目検討もつかない。
親しい人物の虚像を作り上げ、些細な変化ですら気付くのか試すという絆をコンセプトにした試練とも一瞬考えたが、
「……そんなことは無さそうだな」
広い空洞に出た先に出てきたのはゲーム機だった。
その他にも漫画等が置かれている本棚や机、ベッド間である。これはまるで
「日本にある俺の部屋みたいだな」
よくできた偽物。椿がこの世界に来てから戻りたいと密かに思っていた場所。
「ってことは試練を受けるものが意識、無意識問わず欲しているもの、か?」
その欲望に抗い、先に進むことがこの試練の醍醐味か。
それに、椿は先程から精神攻撃をレジストしている。
この精神攻撃はこの欲に抗いにくくするものだろう。
「まったく、九つの試練はどれも性格が悪い。バンボラに言われて全部クリアしようなんて思わなかったら、こんなことしなかったぞ」
椿は部屋を凍結させ、幻影を解除してからまた先に進む。
今のことろこの試練は幻影を破るだけの試練だ。だが、九つの試練を舐めてはいけない。この先にまだなにかあると警戒しながら進み、しばらくすると、扉が見えてきた。
「これでクリアな筈がない。さぁさぁ、鬼が出るか蛇が出るか」
そう言って、扉を開けた先は、日本だった。
「……は?」
椿が住んでいた場所の近く。振り返るとそこにはもう扉はなかった。
「……どうなってる?」
そしてなにより、この周囲の空間、全てが魔眼に反応しない。
「"終焉の永久凍土"」
試しに魔法を発動させても、何ひとつ消えなかった。周囲の景色は椿が魔法を発動させると同時に、凍てついてしまったが、消えてはいない。
「……はは、なんだこれ?夢か?」
身体能力も問題ない。
椿は周囲を確認しようと、飛行した。眼下には見慣れた街の景色が。
「なんだここは?帰って来たのか?」
そんなはずがない、そう思いながらも、希望的観測を言ってしまう。
椿はまだ試練の途中だ。だからこれも試練なのだ。だから騙されるな。今ならまだ間に合う。
椿は眼下に手を翳し、
「……"極滅の……」
魔法を放とうとするも、どうしても発動しない。
心が、拒絶するのだ。
「……できるわけ、ねぇだろ」
苦しそうな表情で椿は呟く。
椿は手を下ろしもう一度街を見返して下に降りようとした。
「…?」
ふと、違和感。
何かが違うと感じた椿はもう一度街を見る。
そう、誰もいない街を。
「随分、呆気なかったな」
誰もいない。即ちこれも虚像。
それを本当の意味で確信した椿は魔法を放とうとして、
「!!??」
背後に猛烈な殺気を感じ、咄嗟に屈んだ。
『へぇ?さすが俺、この程度は造作もないか』
そこには、椿がいた。
「……俺、か」
『ほう?存外驚かないものなんだな』
「当たり前だろ?この程度で驚いているようじゃ……」
『だが、それにしてはこの街を見て動揺したようだが?』
偽椿の言葉に、椿は何も言えなくなる。
おそらくリソースの問題で人までは再現出来なかったのだろうが、それに気付くまではこの景色に騙されていたのだから。
「それで?今度はなんの試練だ?」
『欲を刺激する試練。それはお前もわかっているはずだ。だが、バンボラはお前の精神の高さと、欲の少なさから試練を限定された。実際、潜在的に会いたいと思った仲間の一人を出しても、お前は動揺せず、なんの躊躇いもなく殺した』
だから、
『次の試練だ。ここがこの間の最終試練。他に比べて短いのは難易度だな』
「……そっくりそのままの相手に勝つことがか?」
『そうだ。この試練のコンセプトのひとつだ。薄々だが、お前も感ずいているんだろ?』
「まぁな」
そう言いながら、椿は戦闘態勢をとる。
『さあ、どうやったらクリアできるのか自分の頭で考えろ』
両者同時に限界突破を発動させる。
膨大なプレッシャーが周囲を容赦なく蹂躙する。
『さぁ、短いかもだが、最後の試練だ。お前は、俺に勝てるかな?』
上里 椿同士の殺し合いが開始された。




