休息のために
空を飛んでいた三人だったが、さすがに一気に国境を超える必要はない。そう判断したため、
「帝国に、こんな街があったんだな」
「はい。のどかでいい街ですね」
帝国領にある街の一つに来ていた。
「でも、本当に休憩して行ってもいいの?」
以前までの椿には見られなかった行動に、リーリエは質問する。
「ん?いいんだよ。別に今すぐ何かがあるわけじゃないし。たまにはゆっくりしてもいいだろう」
そう言って椿は前を歩く。ちなみに、この状況をエミリーが見たら滅茶苦茶恨むだろう。自分は仕事をしているのに、と。
「まあ、それもそっか」
リーリエも気にせず椿の後ろを歩く。
街の中にいると、リーリエや花恋はやはり目立つ。その容姿だ。目立たない方がおかしい。
二人に声をかけようとして、椿と話している姿を見て殆どの人は撃沈する。
それでも諦めきれないやつは話しかけてくる。
「ね、ねえ。少し話しを………」
「【失せろ】」
だが、二人に話しかけようとした人物は尽く椿に追い払われている。
「椿くん。やりすぎではありませんか?」
花恋が窘めてくるが、今回は椿は反論する。
「いいか、花恋。ああいう人物はかなり面倒だ。一度丁寧に断っても心の中では脈アリと思い込んでる。だから徹底的にやって心を折らせないとな」
だが、リーリエから見たらそこそこ手加減している。もし手加減していないのであれば、二、三度死んでいるはずだからだ。
「丸くなったね」
「………なんの話しだ?」
からかって言ったのに、律儀に反応してくる椿に「別に〜?」と言いながらリーリエは先を歩く。
「それはそうと、まだ宿も決まってません。どこかで決めませんか?」
花恋の提案に乗った椿達は適当な人物に聞き、案内人なる職業の人物がいることを聞き、早速冒険者ギルドで話しをすることにした。
「宿泊、ですか………」
案内人、サリーは椿の話しをある程度聞いた。
「そうだ。一日休めればそれでいい。明日の昼過ぎには街を出る予定だしな」
現在の時刻は昼過ぎ。つまり、丁度一日後に出るということだ。
「ちなみにご予算の方は?」
「無制限だな。だが、無駄に高いところは御免こうむる」
椿の言葉に、サリーは先を少し考える。
料金無制限。ということは、椿はそこそこお金を持っていると推測した。そして無駄に高い場所はノー。ここで言う無駄に高い場所とは、装飾等に金を使いすぎて椿達へのサービスをおざなりにする宿のことだろう。
「わかりました。そして………」
そうしてサリーは花恋とリーリエを見る。二人の要望はないのか、ということだ。
「わたくしは特にありませんね。リーリエは?」
「私も。まあ、騒音でうるさかったら嫌だし、壁が薄くなかったらいいかな」
サリーは、その答えを聞いて紹介する宿を決めた。
そもそも、椿の言ったことだけで、既に数件に絞られていたのだが。
そして、その後もサリーに少し質問してから、案内のために4人が移動しようとした瞬間だった。
「面倒だな………」
「………え?」
突然呟いた椿に、サリーは律儀にも反応する。
そうしてしばらくすると、椿の呟きの原因がやってきた。
その存在は、花恋とリーリエにねちっこい視線を送っており、2人ともかなり不快に思ったのか、眉を顰めている。
サリーに至っては、それの存在を見た瞬間営業スマイルも忘れて「げっ!?」といった表情をしている。
その存在は近づいてくると、椿に向かって言った。
「お、おい!ガキ、金をやる!平民が半年は遊んで暮らせる金をやる!だ、だから、女を寄越せ!」
あまりにも傲岸不遜で、一方的な要求に、椿は思わずその存在を視界に入れてしまった。
そいつの姿はまさに豚とも言え、それはそれは醜い容姿だった。
豚は、一切反応しない椿に、自分に恐れたのだと勝手に解釈し、花恋に触れようとした。
「身の程を弁えろ。豚」
その瞬間、椿の蹴りが豚に炸裂した。




