九つの試練 〜憤怒の間〜
想像以上に強力になったエミリーの斬撃により、ゴーレムの体は呆気なく両断された。
『gigigaga………』
ゴーレムの寂しそうな音とともに、その体は崩壊してゆく。
「はぁ………はぁ………」
ゴーレムを斬り捨てたエミリーも、初めての大技に疲労し、その場に倒れそうになった。
「おっと。大丈夫か?」
だが、完全に倒れる前にエミリーの身体を椿が受け止める。
「椿さん………」
「うん。お疲れ様」
椿はエミリーに労いの言葉をかけると、崩壊したゴーレムの先を見た。
空間が出来ている。おそらく出口だろう。
だが、その前にエミリーを労うのが先だ。
「椿さん、私やりましたよ」
「そうだな。まさか弱点を攻撃せずに一撃で倒すとは」
それに加え、気功術を使ったのは完全に予想外だった。
椿の傍にいたので、自然と覚えたのだろう。
そして気功術の力を剣に集中し、魔法と統合する。これも、エミリーならではの発想だ。
「これで、少しは役に、立てますか?」
「当たり前だろ?」
なにを当然のことを聞いてるんだと椿はエミリーに言う。
「そもそも、俺はエミリーのことを足でまといだと言ってないはずだ」
でも、エミリーが実力差を憂いていたのも事実。
「でも、最後の一撃は良かった。あれは花恋にもリーリエにも真似出来ない、正真正銘エミリーだけの技だ」
エミリーはその言葉を聞くと、笑った。
「よかったです………」
椿が回復魔法を使い、エミリーの身体を治癒すると、エミリーは立ち上がった。
「ありがとうございます!もう大丈夫です」
「そうか、よかった。じゃあ、行くか」
そう言って、二人は新しくできた通路を見る。
「さっきのはおそらく最終試練のはずだ。だから次はバンボラの部屋のはずだ」
「はい」
そう言って返事するエミリーの声からは、高揚が抜けていない。
「よほど、楽しみなんだな」
「初めて、ですので」
試練を突破したのも、力を授かるのも。どちらもエミリーにとってははじめての経験になる。
そのまま奥へと歩いていくと、
「あ、椿くん!」
「遅いよ?二人とも」
花恋とリーリエがお茶を飲んで待っていた。
「花恋さん!それにリーリエも」
「エミリー。その様子じゃ、問題なかったみたいだね」
「まあ、椿くんが傍に着いてましたので………」
二人の言葉を聞いて、エミリーも笑っている。
「それにしても、二人とも速かったんだな」
「着いたのは少し前ですけどね。バンボラにお茶を入れてもらったのです」
『他にも仲間がいるとなれば、それを放置して宝玉を授ける訳にはいかないからね』
そうしていると、奥からバンボラが現れた。
「あれが、バンボラですか。椿さんの言う通り、ゴーレムみたいですね」
『まあね。それでは改めて。よくぞ憤怒の試練を乗り越えた。君たちには報酬として憤怒の宝玉を授けよう』
バンボラが手を叩くと、地面の魔法陣から宝玉が四つ出現した。
その宝玉はそれぞれの身体の前で止まると、身体の中に吸収された。
「これで、憤怒の権能が使えるようになったわけか」
『そうだね。ところで、憤怒の権能はどんなものかわかるかい?』
質問されたが、こればかりは椿にもわからなかった。
『じゃあ、答えよう。憤怒とは、生物が持つ正当な怒りだ。特定のなにかに対する怒り。それをより具現化し、壁を砕く力を与えるもの』
つまり、
『憤怒の権能は、限定条件下でのステータス上昇さ』
ステータス上昇。それだけ聞けば、色欲と通ずるものがあるが、
「その限定条件下ってのが鍵か?」
『ご名答。さすが試練を七つも乗り越えただけあるね!』
バンボラは、わざとらしくパチパチパチと拍手するが、椿はそれをスルーする。
そんな椿の反応がつまらなかったのか、バンボラは説明を再開する。
『確かに、一見すれば色欲と似てるね。でも、肝心なのは限定条件下。それは何かに対して怒りを抱いている、ということ。その状態であれば、どこまでも無限に力を上げ続けることができるよ』
色欲の権能には、限界があった。だが、いずれ解除されるとはいえ、無限の強化は
「凄まじい、な」
「そうですね。それならば誰でも下剋上を狙えてしまいます」
力無きものが、勝者に勝つための切符になる。
『この力をどう使うのかは、君たち次第だよ。出来れば、より良い方向に使ってほしい………』
バンボラがそう言った瞬間、光で埋め尽くされて………




