俺を信じろ
己の無力さに打ちひしがれていた。
あの後、エミリーと椿は2人一緒に先へと進んでいたのだが、度重なる襲撃に対応したのはどれも椿だった。
己の無力さに嘆いているエミリーを見ながら椿は静かに考えた。
(まあ、ある意味試練はクリアできているな)
椿は今回の試練のコンセプトは憤怒だと思っている。故に、今回の試練では、どれだけ怒りに惑わされずに、どれだけ冷静に物事を対処できるか。
度重なるねちっこい罠。精神に対するデバフ。エミリーはそれ等を己の無力さで無効化していた。
怒りを感じないことではなく、怒りに惑わされないこと。それこそが試練のコンセプトなので、ある意味ではエミリーは試練をクリアしているのだが、
(つまり、怒りを忘れてしまうほどエミリーは追い込まれてるってことだ………)
このままでは自滅してしまう。今の椿にとっての危惧はそれだ。
エミリーは前に進む決意は決めている。だが、まだ心の整理はついていない。
(厄介だな………)
だが、気にしてもしょうがない。それに、エミリーの心の問題はエミリー自身が解決しなければいけない。
「さて、ここが最後の部屋か?」
難なく突破した2人。
片方は悩むような表情をし、片方は辛そうな表情をしているが。
「最後の部屋だ。なにかギミックがあればいいんだけどな………」
椿がそう呟いた瞬間、天井から何が落ちてきた。
「なんだ?」
エミリーは入口のところにたっていたので影響はない。
なので安心して落ちてきたものを見た。
『gigi,gagagagaga』
落ちてきたもの。それはゴーレムだった。
「ま、ドラゴンとかが落ちてくるよりマシか」
そう呟きながら改めてゴーレムを見る。
能力そのものは大したことは無い。だけど、どこも頑丈で、弱点にしか攻撃は通らないように見える。
「なあ、エミリー」
「………」
エミリーは椿が話しかけても反応しなかった。
「おい、エミリー」
「………」
エミリーに近づきながら話しかけても反応を示さない。
「エミリー」
肩を揺らしながら話しかけて、漸く反応した。
「椿さん………」
辛そうな表情。これに対して椿は気の利いたことを言った方がいいのはわかってる。だけど、それじゃ解決しないから。
「エミリー。お前が、あのゴーレムを倒せ」
討伐を命じた。
「………え?」
その言葉を聞いた瞬間は理解ができなかったのか、ほうけた顔になったが、すぐに理解すると首を勢いよく横に振った。
「無理、無理ですよ!私なんかじゃ………」
「私なんかじゃ、なんだ?言っただろ?お前は強いって。俺はエミリーならあの程度のゴーレムを倒せると踏んだから言ったんだけどな………」
椿にそう言われても、エミリーにはその自信はなかった。
「無理ですよ。だって、ここまで来るのにも椿に介護されて………」
俯きながら言葉を続ける。
「やっぱり、私はダメなんですよ。私なんかじゃ………」
これがエミリーの弱点。エミリーは、頑なに自分のことを信じないのだ。それが、この試練を通してやり顕著になった。
「なら、少しくらいは自分を信じないのか?」
エミリーは喋らない。喋ることが、できないのだ。
「だったらさ」
椿はしっかりとエミリーを見据えて言う。
「俺を信じろ」
そのたった一言。
「俺を信じろ。自分自身が信じられないなら、俺を信じろ。お前のことを信じている、俺の事を信じろ」
エミリーの頭を優しく撫でながら言う。
「俺は、お前があのゴーレムを倒せると確信している。だから、俺の期待を裏切らないでくれ。俺を、信じてくれないか?」
そう言われても、エミリーはまだ決心がつかない。だが、状況は待ってはくれなさそうだ。
『gigi,gagagagaga』
ゴーレムの目から飛んでくるビームを、椿は回避する。
エミリーも咄嗟の判断で回避する。
「自分を信じろ!俺を信じろ。無理なら無理でいい。俺が着いてるから。だから」
全力で暴れろ、と。叫ぶ。
その姿に、思わず笑みが零れてしまった。
(椿さんなら………)
椿が言うのならと、まだきちんと決心はついていないが。
「では、戦ってきます!」
「おう、行ってこい!」
エミリーは自信を取り戻すために向かった。




