面倒な場所
「なんていうか、普通の遺跡だな」
新たな九つの試練の最初の感想はそれだった。
なんてことのないただの通路。既に試練に慣れた椿は少しだけ警戒をしながら進む。
また、一度試練に来たこともある花恋とリーリエは、楽観視はしない。九つの試練はどれも厄介なものだと理解しているからだ。
そして、最も試練を警戒しているのがエミリーだった。
「なぁ、エミリー。最初からそんなに力んでも無駄だ。リラックスリラックス」
「で、ですが………」
普通の人ならここである程度反抗するだろう。
慣れているから、神経が図太いから、不安な人の気持ちはわからない、と。
でも、エミリーは知っている。試練の内部に転移させられ、右も左もわからなく、食事も睡眠もまともにできない中で試練をクリアした椿を。
だから、エミリーはこの程度の些事は我慢する。
「っと、トラップか?」
椿が空間魔法と万能感知の応用でトラップを見つけ出したが、
「全員、気をつけろ。トラップがかなり雑に配置されてる」
今回の試練の特性を見るためにわざと引っかかるのもありだが、それはあまりにもリスキーだ。
「罠は回避して行こう」
椿を先頭に、4人は続く形で前へと進む。
「椿さん。これでは1人しかクリアしたことを認められないのではないでしょうか」
「ああ、それなら大丈夫だ」
エミリーの懸念点にも椿はしっかりと考えがあった。
「大丈夫、とは?」
花恋とリーリエはわかったが、一度も挑んだことがないエミリーはわからなかった。そんなエミリーに向かって椿は一言。
「九つの試練が、一人が優秀なだけでは簡単にクリアできるような試練じゃないからな」
まもなく、一行は小部屋に出た。
「なんにもないね」
「はい。リーリエの言う通り、出口もありません………」
「いままで一本道だったんだ。おそらく、ここが分岐点」
椿達が周囲を警戒し始めたので、エミリーも感知系の技能をめいいっぱい使って警戒する。
「"火球"」
瞬間、なにかに気がついた椿が部屋の一角に向かって魔法を放った。
「椿くん………?」
気になった花恋も椿が魔法を放った方向に視線を向けるとそこには粘性の生物がいた。
「スライム、か………」
粘性の生物など、この世界には存在しない。いて、ルリジオンで戦った絶対粘性だろう。
つまり、このスライムはこの試練の創造主、バンボラによって創造されたもの。
「面倒そうなのが出てきたね」
リーリエも花恋も戦闘準備は万全のようだ。
「私も、微力ながら戦います!」
エミリーも戦闘準備が整ったことにより、戦いの火蓋が開かれた。




