同盟締結
遅刻すると言ったな?あれは嘘だ
最上級の神聖魔法をその身に受けたことにより、ヘクトールとシュラーゲンの魂は分離された。
『ああああああああぁぁぁ!』
ヘクトールから2人分の悲鳴が聞こえ、ヘクトールの身体から何かが飛び出した。
「あれは!?」
エミリーは声を発しながらそれを見る。
一度も見た事のない人物。だが、妙な威圧感がある。それだけで、そいつの正体がわかってしまった。
「魔王軍幹部、シュラーゲン!」
勢いよく出てきたシュラーゲンだが、その身体はボロボロだ。
「虐めてるみたいで気が引けるが………」
椿がシュラーゲンに向かって掌を向ける。
「お前はここでやられとけ」
そうして、椿はシュラーゲンに向かって静かに神聖魔法を放った。
「終わりだ………」
神聖魔法をモロに受けたシュラーゲンは、塵となって散っていった。
「ヘクトール様!」
エミリーは倒れているヘクトールの元に駆けつける。
「少し、いいか、エミリー」
椿はそんなエミリーに断りを入れて
「"微再"」
少し前の状態まで肉体を再生させた。
「ん………んん………」
ヘクトールは声をあげたが、起き上がらなかった。
「椿さん。これって………」
不安になっているエミリーの頭を撫でながら椿は答える。
「心配ないよ。魂は無事だ。今は全体的に疲れてるだけだろう」
まあ、疲れてない方がおかしいのだが。限界突破と禁域解放という相反する2つの力を一度に使い、そして更に狂戦士化まで行使したのだ。
しかも悪魔族と同化していたのだから、疲弊するのも無理はない。
「さて、皇帝………」
そこで、椿は皇帝に意識を向ける。
「なんだ、気がついていたか」
「当たり前だ。これで、ある程度の証明はできただろ?」
ダクチュール皇帝は、あれからすぐに目を覚まし、エミリーと一緒に今回の戦闘を見ていた。
「そうだな。これが貴様のもつ戦闘力の一端だと言うのであれば、我国は貴様と戦争をする意思はない」
誰が重力を操り、地震を自由自在に発生させ、言葉一つで身動き取れなくする人物と好き好んで戦おうと考えるだろう。
「そうか。だが、それでは今回の件は収めることができないはずだ」
だが、これは椿が先に乗り込んだ戦いだ。
いくら椿が強くとも、帝国には王国に文句を言う権利がある。
「そうだな。エミリー王女が無理でも、我々は王国に賠償金を………」
「じゃあ、ヘクトール皇子を完全に壊すか」
それを言われると、帝国は何も出来ない。
「仮にも一国の皇子だ。お前らが王国を訴えるなら、俺は容赦なく行動する」
元々、今回の件は同盟を結びに来たエミリーを、椿の身勝手な思いで取り戻しに来ただけ。
帝国からすれば、王国の人間が起こした事件なので、文句を言う筋合いがあるが、椿はただの冒険者だ。王国に文句を言わせるわけにはいかない。
だから、椿は容赦なく帝国を脅す。
「貴様に、慈悲はないのか?」
「なかったら、この話はとっくに終わってるな」
両者が睨み合う。
皇帝が先に折れて、ため息を吐きながら言った。
「妥協案を提案しよう」
「ほう?」
妥協案。それの内容によるが、これで王国と帝国は仲良くなれる。
「お前は、今回の件は個人的に起こした事件だと、そう言うつもりだな?」
「ああ」
「ならば、我々が求めた時に、その力をこの国のために一度でいいから使ってくれ」
その代わりに王国と同盟を結ぶと、そう言いきった。
「いいのか?」
「ああ。帝国としても、戦力を迎えられるならばそれに越したことはない。だが、今回の件だけでそれを貴様に願うのは無謀だから、同盟を結ぶ、ということでそれを承諾して欲しい」
椿は少し考える。
それならば、迷惑をかけたエミリーのためにもなる。
結婚は阻止できる。同盟は結べる。椿の力を帝国は一度だけ使える。
win-winだ。
「わかった。それでいこうか」
椿がこれを承諾し、それをエミリーに伝え、本格的な話し合いが始まった。
これにより、エスポワール王国と、ディグダチュール帝国との同盟が締結された。
誰の犠牲も無く。




