同化
ヘクトールに近づくことによって、よりわかった。
何度も感じたことのあるこの禍々しい魔力。これは
「悪魔族のものだな」
椿のその呟きが聞こえたのか、ヘクトールはニヤリと笑った。
悪魔族の魔力をヘクトールが纏っている。つまり、
「怪人族にでもなったのか?」
椿が確信めいた答えを出すと、ヘクトールは大声で笑いだした。
「はははははは!さすがだ。さすが魔王軍幹部を3人も屠った人物だ。だが、俺はそんじゃそこらの怪人族とは訳が違う。魔王軍幹部シュラーゲンの身体能力を、ステータスを、技能の全てを取り込んだ完全体だ!これでもう、誰にも負ける気はしないな!」
魔王軍幹部の身体を取り込んだ。それを聞き、その場にいた人物は全員絶句した。
魔王軍幹部の身体を取り込むなんていう、そんな所業、歴史上ヘクトールしかいないだろう。
「俺はもう、完全な体を手に入れた!さぁ、俺に勝てるとでも言うのか!?」
そう言いながら踏み込み椿を殴りかかってきたヘクトール。
だが、その拳はあまりにも
「遅い」
椿は気功術で拳を逸らすと、カウンターとして気を纏ったパンチを顔面に向かって繰り出した。
「グベッ」
ヘクトールは情けない声を出しながら再度吹き飛んでいく。
「弱いな。お前、同化したとか言いながら、そいつの力全然引き出せてないだろ」
椿が今まで戦ってきた幹部は、それぞれの強みがあって皆強かった。それに比べると、幹部と同化したヘクトールは弱すぎたのだ。
「でも、仮にも怪人族。まだ立ち上がれるだろ?」
椿の視線の先では、ヘクトールがボロボロになりながらも立ち上がっていた。
「くそっまだ慣れないのか………」
まだ慣れない。その言葉で椿はある程度察した。つまり、ヘクトールは急激に上昇したステータスに振り回されて、本来の力を発揮できていないのだ。
「だが、これならどうだ!限界突破!」
元から高かったヘクトールのステータスは、限界突破によりさらに高みへと上り詰めた。
「これでお前を殺せる!シュラーゲンの技能にはな!限界突破や金域解放による急激なステータス変動に適応するものもあったからな!これでかなり動けるようになった!」
ヘクトールは再度叫びながら椿に攻撃を仕掛けてくる。
「はああああああ!」
だが、椿はその全てを回避し、時折カウンターを決める。
「がはっ」
やはりヘクトールには完全に幹部に適応するのは無理だったのだ。
「なあ、ヘクトールって言ったか?俺は別にそこまでお前と敵対する理由がない。エミリーのことさえ諦めてくれれば………」
「そう、それだ」
ヘクトールは椿の言葉を指摘しながら立ち上がる。
「お前はなに勝手に皇子の結婚相手を奪おうとしてるんだ?俺は帝国の第一皇子だぞ?それを平民が勝手に奪いやがって………」
要するに、ただの嫉妬のようだ。
「だから、俺はお前を殺すために!今ここで、さらなる限界を超えてみせる!」
ヘクトールはそう叫ぶと、胸に手を当てて叫んだ。
「いくぞ!俺の新たなる力。禁域解放!」




