諦めよう
3日連続更新遅刻
そして今回ちょっと急ぎ足
エミリーがダクデュール皇帝との話しを終えて花恋が案内されたという部屋に行ってみると、花恋は魔力の粒子に何か話しかけていた。
「花恋さん………?」
エミリーが背後から話しかけると、花恋は優しく振り返った。
「エミリーさん!皇帝との話しは終わったのですね」
「はい。その粒子は、リーリエさんとの通信魔法ですか?」
「はい。今はリーリエ達も忙しいみたいで、帰ってくるのは少し時間がかかるそうですよ」
ならば、椿はまだ帰ってこない。エミリーの不安要素を排除するためには、椿が帝国に来てはならないのだ。
そして椿を止められる人材は花恋とリーリエとグロルだけ。だが、この三人ですら単騎で挑むものならば、瞬く間にやられてしまうだろう。
(どうにか椿さんを拘束しなくては………)
花恋に何も伝えずに先に帰って貰うのは?いや、それだと花恋は怪しむ。花恋ならば帰った振りをしてこの国に、城に容易に侵入できてしまう。
ならば真実を伝える?それもだめだ。椿にすぐに連絡が届いてしまう。
すぐに結婚する?椿ならばそんなもの破壊してしまうだろう。
と、そこまで考えてエミリーは疑問を覚える。
(私は、なぜ椿さんのことを気にして………)
そうだ。エミリーと椿は付き合っているわけでもない。ならば、気にしてもしょうがないだろう。椿のことだ。エミリーが第一皇子のことを本当に好きだと、演技でも言えばいい。
そうだ。そうしよう。
エミリーは花恋が通話を終えると話しを切り出した。
「花恋さん!」
「?どうしたんですかエミリーさん」
疑問顔で問うてくる花恋。そんな純粋そうな花恋に申し訳ないと思いつつも話しを切り出す。
「私、結婚します」
□■
花恋は納得してくれた。そもそもエミリーが誰と結婚しようが、それはエミリーの自由だ。エミリーの自由意志を否定する権利は花恋にはない。
ただ、花恋は自分は必要ないと判断したのか、
「エミリーさんが帰らないのであれば、わたくしは必要ありませんね。この国にいてくだされば平和ですので………」
そう言って花恋は帰ってしまった。
まあ仕方が無いと言えば仕方がないのだが。
そこからはトントン拍子に話しは進んでいった。
花恋に話してから4日。その間に結婚の話しを進め、帝国にいる重要人物のみを集めて結婚式を開くことになったのだ。
エミリーは実際には第一皇子ヘクトールの顔は知らない。だが、好戦的で野蛮な人だという噂は聞いている。
「きっと、虐められるのでしょうね………」
ヘクトールには、幾人かの愛人がいる。そしてそれを差し置いてエミリーが正妻になるのだ。愛人や側室の人たちに虐められるのは目に見えているだろう。
「憂鬱、ですね………」
これからの未来を考えると、憂鬱になる。だが、それはあくまでもエミリーの未来だ。国の未来を思えば、安泰になるのだろう。
勇者もいる。元魔王軍幹部もいる。エスポワール王国とディグダチュール帝国が手を組めば戦力は申し分ない。勇者がいるこの時代に魔王を倒すことが出来れば、世界に平和が訪れる。
だから
「私一人くらい、犠牲になっても大丈夫なのですから………」
純白のウエディングドレスを綺麗に着込んで、結婚式の会場に向かう。
部屋から出て、使用人に連れられて移動。
部屋の前まで移動し、使用人が開けてくれた扉の中に入る。
招待客は全て帝国の人物。エミリーの知ってる人はいない。
そして、前の神父の前にいるのはヘクトール第一皇子だ。
始めてみる結婚相手。ここ数日に会う可能性もあったが、互いに忙しく、そのような暇はなかった。
「お前が、エミリー王女か………」
「はい。本日より、末永くよろしくお願いします」
軽く威圧してきたヘクトールに、エミリーは礼儀良くお辞儀する。
少し萎縮すると予想していたヘクトールは面白い玩具を見つけた時のような顔をしたが、エミリーからするとヘクトールの威圧は椿の威圧に比べると、そよ風にも値しなかった。
神父お決まりの「健やかなる時も………」という挨拶。ヘクトールは面倒そうな声で「誓います」と言ったが、エミリーは中々言えなかった。
招待客が訝しげな表情をする。
エミリーはわかっているのだ、これが、返事をしないことが無駄な抵抗であると。
(椿さん………)
だが、最後に思い浮かべることができるのは椿のことだけ。
(そっか、きっと私は………)
エミリーは顔を上げて神父を見る。
全てを諦めたような表情をするエミリーに、ため息を吐きながらも神父は再度「誓いますか?」と問いてくる。
簡単だ、受け入れればいい。椿が来なければこんな思いもしなかったのだから。
束の間の幸せを体感することができた。ならば、もう、
(私は、幸せになってはいけない)
そうして頷こうとした瞬間、
「!?チッ!」
ヘクトールが背後に向かって回し蹴りをした。
エミリーは咄嗟に神聖魔法で剣を具現化したが、エミリーに向かってそれは飛んでは来なかった。
ヘクトールが回し蹴りで壊したそれ、扉は既に粉々になっていた。
「誰だ!この神聖なる結婚式を邪魔したのは!」
自分の時間を切り裂いてでも行っていた結婚式を妨害された怒りでヘクトールは叫ぶ。
「あっ………」
だが、エミリーはそれが誰だかわかってしまった。
視線の先には一人の男の姿が。
見てくれはどこにでもいる男だ。だが、エミリーにとって、その男はこの世で唯一無二の存在。
「椿、さん………」
上里 椿が立っていた。




