星下の話し
「今日は野宿みたいですね………」
現在の時刻は夕方。日も沈みかかっている時間になると花恋は足を止めた。
「エミリーさん、ここで野宿しても大丈夫ですか?………エミリーさん?」
質問したものの、返事がないエミリーに異変を感じ、背後に乗っているエミリーを見ると目を回していた。
「エ、エミリーさん!?どうしたんですか!?」
何故か目を回してしまっているエミリーに対し動揺しながら問うと、
「花恋、さんが………」
「?わたくしが………?」
「移動速度が、速すぎて………」
それだけで花恋は察してしまった。
そもそも花恋とエミリーではステータスが違いすぎる。
花恋の移動速度は音速とは言わないが、かなり速い。わかりやすく言うと、新幹線よりは速い。そんな花恋の背中にずっと乗っていて、風の衝撃やらをモロにくらい続けていたエミリー。ダウンするのは当たり前だろう。
「す、すみません!」
花恋は寝袋を用意すると、エミリーを静かに寝かせてテントと夕食の準備を始めた。
料理を習い始めた花恋でも簡単にできるスープを作ってる途中で
「う………う〜ん………」
エミリーが目を覚ました。
「あ!エミリーさん。目が覚めてよかったです。今スープできますからね」
花恋はエミリーが目を覚ましたのを確認すると、鍋の中のスープを再度混ぜた。
「花恋さん………ごめんなさい、途中で意識を手放してしまって………」
「いえいえ!あればわたくしの落ち度です!エミリーさんは気にしないでください」
起き上がったエミリーが謝り、それに対して花恋も謝る。双方謝ったところで、花恋はスープをよそってエミリーに渡した。
「出来ましたよ。お城の料理人の方々みたいに美味しくできたかはわかりませんが………」
そうして貰ったスープをエミリーはゆっくり飲む。
花恋はその様子を、ドキドキしながら見ている。花恋の視線に気がついていたエミリーは飲み終えるとニコリと笑って言った。
「美味しかったですよ花恋さん」
その言葉を聞くと、花恋はほっとした表情になった。
「良かったです………では、わたくしも飲みますね」
花恋もスープを掬い、飲み始める。エミリーは入れ物の中に残っているスープを見ながら「花恋さん………」と、花恋の名前を呼んだ。
「はい。どうかしましたか?」
「覚えていますか?道中で帝国での用事を話すと私が言ったことを………」
「はい。覚えていますよ」
つまり花恋はエミリーを急かすつもりはなかったということだ。
言いたくなければそれでいい。花恋は無理に聞き出そうとは思ってなかったのだ。
「実は………結婚するかもしれないのです………」
「そうでしたか………」
静かに頷きながら花恋はスープを口に入れて、違和感に気がついた。
「???すみません、エミリーさん。今、なんと言いましたか?」
最終確認。もしかしたら聞き間違えかもしれない。そう思いながら質問し、
「結婚、するかもしれないのです………」
再度聞いたことにより、花恋は自分を誤魔化せなくなった。
「以前から、帝国の第一皇子とは婚約関係にあったのです。今回は同盟締結のための話し合いと、それを確実に締結させるための結婚かと………」
エミリーは依然、俯いたまま話す。
エミリーはそれでいいのか。花恋はそう聞きたい気持ちでいっぱいだったが、これは国同士の、政治の話し。花恋が口出すことは何も無い。だが、
「椿くんには、どう説明するつもりですか?」
花恋は一人の男のことを思い描く。
いつでも全力で向き合ってくれた少年のことを、花恋は思い浮かばせる。
「………椿さんには申し訳ないと思ってます。せめて最後に人目会ってから来るべきでした。ですが、時間もないのです………」
違う。エミリーは勘違いしている。いや、現実逃避している。
「………エミリーさんは、もっと素直になった方がいいと思いますよ」
花恋はそう言ってスープを飲み干すと、おかわりを入れた。
「ダメですよ………私は、王女なのですから」
花恋が見た感じ、エミリーは王女という立場に囚われてしまっている。花恋にはエミリーのその心を解放することはできないが、
「わたくしは、まだエミリーさんの物語は始まっていないと思いますよ」
夜空に輝く星を見上げながらそう呟いた。




