精霊憑依
「精霊憑依、ですか………」
ミカエルは極めて冷静に、目の前にいる現象を受け止める。確かに、オーラは変わった。だが、だからと言ってミカエルにかなうはずがないのだ。
「覚悟してね?あなたはもう、私にはかなわない………」
だが、その考えはリーリエも一緒だった。
「選択・炎精霊」
その瞬間、リーリエの纏うオーラが炎に変化した。
そしてリーリエはゆっくりと、ミカエルに狙いを定めた。
「狙っているのですか?それで攻撃が当たるだなんて、夢を見ないでくださいね」
ミカエルはその場から高速でリーリエの攻撃を回避する準備を始めた。
「"追撃の焔"」
そして放たれたリーリエの魔法。
「火力は確かに上がっていますが、当たらなければ問題ありませんね………」
だが、パワーアップした魔法をミカエルは容易に回避した。
「では、次は………」
私が。そう言おうとしたミカエルの言葉は途中で遮られてしまった。
後ろから飛んできた魔法によって。
「がぁっ」
反応出来なかったミカエルはその攻撃をまともにくらってしまった。
「一体、いつ………」
ミカエルはリーリエが自分の後ろに魔法を発動させたことなんて気が付かなかった。
いつの間にそのような芸当をしたのかと問いかけるものの、リーリエはニコリと微笑むだけでなにも答えない。
「なるほど………自分で見つけろ、と」
そう判断すると、ミカエルは空中を高速移動することによって、どこから発生しても対応できるようにした。
「さぁ!当てれるものなら当ててみてください!」
だが、リーリエはまたしてもミカエルに手のひらを向けて
「"追撃の焔"」
同じ魔法を発動した。
ミカエルはその行動に不審感を抱きながらも、楽々回避した。
「!?わかりました!この隙にですね!」
そこへ、ミカエルは回避している最中にリーリエが新たな魔法を構築しているのだと予想し、背後に振り返った。
だが、背後では予想とは全く違う光景が映っていた。
「………なぜ?」
リーリエが放った魔法は、途中で軌道を変え、再びミカエルに向かって飛来していた。
「くっ」
ミカエルは再度回避するも、その炎はまたもや進行方向を変え、再びミカエルに向かってきた。
何度も、何度も。ミカエルに直撃するまで、追跡は続く。しかも、
「この炎、速度が………」
避ければ避けるほど、速度が上がっている。
「盾!」
ミカエルは何重もの盾を具現化して防ごうとしたが、
「無駄だよ」
炎は容赦なく盾を貫通し、ミカエルに直撃した。
「あああああ!」
またもや直撃した炎を消化しながらミカエルはリーリエを見る。
「操っているようには、見えませんでしたが………」
遠隔操作では無い。自動追跡。その厄介さはミカエルが身に染みて体験した。
避ければ避けるほどに加速する業火。その火力も先程までの"極滅の業火"よりも高いと来た。
だが、リーリエが行っているのは所詮遠距離攻撃にすぎない。ならば、近接戦ならば
「勝機は、あるはず」
リーリエはミカエルが突っ込んで来るのを確認すると再度魔法を放った。
「"極小の炎"」
その攻撃をミカエルは知覚することができず、右肩を貫通してしまったが、それを無視してリーリエの手の届く範囲に接近することが出来た。
「はぁぁぁぁぁ」
そしてミカエルが放つ渾身の拳。元々リーリエは接近戦が苦手だったので、これならばリーリエも為す術がないはず。
「"火炎拳"」
だが、リーリエはそのような甘い考えを正面から否定した。
天使の拳と、炎の拳が衝突し、ミカエルは押し通された。
「うぁ」
先程までの魔法戦では考えられない程の物理攻撃の威力に、ミカエルは思わず後退してしまった。
「ね?だから、言ったでしょ。あなたじゃもう、私にはかなわないって………」
ミカエルはもはやリーリエの敵ではなかったのだ。
「精霊憑依は、妖精族に代々伝わる伝説の技。ここであなたに会えたことでこれを発現するいいきっかけになったと思う」
だから、ありがとう、と。そう告げた。
「ふざけないで、ください………」
だが、それはミカエルにとっては最大限の屈辱だった。だから、
「これで、全部終わらせます!」
ミカエルが両手を空に向けて最大限にエネルギーを溜め始める。
そこには巨大な浄化の力を持った球が浮かび上がっていた。
「さぁ!これに対抗する術はないでしょう!」
そうしてリーリエに向かって放たれた浄化の球。だが、リーリエは焦らずに手を向けて
「"漆黒の獄炎"」
リーリエから放たれた黒炎はミカエルの浄化の球を飲み込み、消し去り、ミカエルに直撃した。




