何も無い国
リーリエは神聖国ルリジオンから単独で飛び出し、たったの一日でトゥルチェリイに辿り着いた。
まあ、休憩もせずに夜通し飛んでいれば、それはもう速く辿り着くだろう。
速度上昇魔法に、MPの消耗を抑えるための"疾風"、それに加えて疲れたら即座に回復魔法を施して飛んできたリーリエの執念は素晴らしい者だろう。
椿が召喚されて、その次の日から飛んだ来た。つまり、椿の特訓が始まった日にルリジオンを飛び出したリーリエは、傲慢の試練に椿が挑みに行っている間に辿り着いたのだ。
まさか、呑気に九つの試練を見つけて、それに挑んでいるだなんて、夢にも思わなかったリーリエは、取り敢えず街を探すことにした。
基本的に、トゥルチェリイは街はひとつしかなく、それ以外に存在はしない。
男が内部に侵入すれば、即座に種馬にされるだけだと噂には聞いている。
なので、椿は大丈夫だと信じているが、もし、女戦士族の可愛い子に誑かされてはいないだろうか、と不安を胸にここまで飛んできたのだ。
「椿………どこかな?」
リーリエは、その羽を広げて、ゆっくりと、確実に椿を探している。
感知系の技能も用いて椿を全力捜索しているので、本来なら見失うことは無かった。
だが、椿は試練に挑んでいた。九つの試練は例外なく、外部からの感知を拒むシステムなので、リーリエの感知技能では、椿を見つけることは叶わなかったのだ。
だが、別の物を見つけることには成功した。
「これは………複数人の気配………椿の気配は無いけど、何か知ってるかも」
人の気配を感知したリーリエは、少しでも情報を得るためにそのもの達との接触を試みた。
そのもの達は、確かに女戦士族だった。だが、そこに街はなく、小規模な集落だけであった。
家もなく、テントもどきが立っているだけ。それも、少しでも雨が降ろうものなら、即座に崩壊してしまいそうな、そんな弱々しいテントが。
「えっと………」
リーリエは、上空から姿を隠して見ていたが、あまりにもあんまりな状況に、捜索の手伝いを申し出ることはできなかった。
そのまま街を見つけようかと飛びだとうとした瞬間、テントの中から人が出てきた。
そして、その人は、リーリエが飛んでいる場所を真っ直ぐと見つめていた。
(もしかして………バレてる?)
ならば、それほどまでにあの女戦士族の感知技能は卓越しているのだろうか。
その女戦士族は警戒態勢で姿を消しているリーリエを見てくるので、観念したリーリエは地面に降りて、魔法を解除した。
その姿を見た女戦士族は、リーリエが女であること、そして妖精族であることに酷く驚いた表情をしていた。
「………驚いた。まさか伝説の妖精族が、こんな辺境にいるとはな………して、何の用だ?」
そのアマゾネスは一切警戒心を緩めることはしなかった。妖精族と言えば、魔法戦闘能力が高い種族。女戦士族にとって、鬼人族と並んで危険視している種族でもある。
「私は………この国に急に召喚された人を取り戻しに来ただけ。その人さえ返してくれたなら、あなた達に危害を加える気は無いよ」
簡潔に、リーリエは自分の要求を言う。
「それが………嘘でない証拠は?」
「うん?私が嘘を言う必要性があると思う?」
覇気を迸らせながらリーリエを疑ったアマゾネスに対し、リーリエは膨大な魔力と、背後に魔法を浮かべながら威嚇する。
双方の絶対的な実力差を示したのだ。これならば、アマゾネスもリーリエが安易に嘘を言う理由がないと思うだろう。
「ねぇ?私の好きな人はどこ?」
その言葉に、その場に立っていたアマゾネスは勿論、テントの中に引っ込んでいたアマゾネス達も冷や汗を垂らす。その圧倒的存在感に、全員が恐怖しているのだ。
「わかった………ならば、ひとまず我々はあなたのその言葉を信じよう」
取り敢えず友好的な話に持っていこうと考えた。それに、彼女たちからしても、リーリエの力は強大。これを利用しない手はなかった。
「悪いようにはしない。ひとまず、ここにあなたの想い人はいない。だが、居場所は知っている」
ここにいない。そのことを否定しながらも、微かに情報を提供する。これにより、リーリエの欲求を高めるのだ。
「………嘘じゃ、ないみたいだね。それで?どこにいるの?」
「場所を教えるのは良い。だが、安易に乗り込んでも、厄介なことになるだけ。ならば、先に我々の話しを聞いてはくれんか?」
そう言って、アマゾネスは中に誘おうとする。
「何。あなたは嘘感知を持っているのだろう。ならば、その上で言わせてもらう。我々は、あなたに協力するとな」
嘘でないことを確認したリーリエは、そのアマゾネスの言葉に乗ることにした。




