特訓の始まり
イズモに言われた通り、椿は召喚された部屋で、一晩過ごした。
ちなみに転がってたアマゾネスは、適当に観客席に転移しておいた。
寝る前に、椿は花恋たちのことを考えたが、別に花恋達も心配するほど弱い訳でもないし、椿は心配されるような人じゃないと自分のことを思っているので、あまり気にする事はなかった。
そして朝起床。
起床すると同時に、アマゾネスの一人が適当に朝食を持ってきた。
「ほら、お前の残飯だ。食え」
まあ、どう見ても見下されている。一見弱そうな人物のために給仕するのは、アマゾネスにとって屈辱なのだろう。
(まあ、どうでもいいけど………)
椿は、この国の戦闘技術を奪って、国を出る。それだけだ。
たとえ契約で椿が縛られようとも、正直、あの程度の契約ならば無理矢理突破できる。
そう思いながら椿は運ばれた飯を食すのだった。
「にしても、これどう見ても残飯だよな………」
腐ってる感じしかしなかった。
結局、椿はまともに飯も食べずにコロシアムの場に赴いた。
腹が減っては戦ができぬとは言うが、そもそも椿は空腹に対する耐性がある。この程度ではハンデにすらならない。
「逃げずに来たな………」
観客席で、イズモがそう言ったのが聞こえた。なので、椿はそちらを向く。
「ふむ。いい目だ。お主には確かに学ぼうと、奪おうとする気がある。だが、それが何時まで持つのかも、我々には興味深いな………」
暗に、椿に技を奪えるはずがないと、言っている。
「では、まずはじめに説明しておこう。我々が使っているのは〈気功術〉、又は〈気術〉とも言われている、女戦士族専用の技である。これは女戦士族だけが使えるのではなく、女戦士族しか使わなかった故にそう言われておるな。お主には、これを1週間で習得してもらう。習得出来なければ、我らの勝ち。習得出来れば、お主の勝ちじゃ。なんなりと、言うことを聞こう」
そこまで言うと、イズモは片手を上げた。
瞬間、背後から殺気を察知した。
咄嗟に回避すると、椿の背後には、手を伸ばしたアマゾネスが立っていた。
「………完全に気配を断っていた………そのつもりだったんだがな………」
アマゾネスは驚愕しながら椿を見る。そこには、侮蔑の視線ではなく、確かに戦う目が見えた。
(ようやく………)
アマゾネスは、椿のことを蹂躙し、一方的に嬲る相手ではなく、自分たちと戦える人間だと、認めたのだ。
(あれ、そんなに効いたんだ………)
万能感知のお陰で、椿に不意打ちの類は通用しない。なので楽に回避できたのだが。
だが、
(相手は、一人じゃない)
複数人いる。それらを全て相手どりながら、気功術を習得しなければならない。
「よし、やるか」
そして、アマゾネスと椿の戦いが始まった。
まず始めに、椿は相手の技を受け止めてみようと考えた。
「受けてみないと、わかんねぇしな!」
そうして、椿はアマゾネスにとって軽く残像が出来そうなくらいの速度で走って近づいた。
「!?」
アマゾネスは動揺しながら椿を見る。
まだ、追加のアマゾネス達は来ていない。なので、椿にとっては、最も技術を奪えそうな、いい機会であったのだ。
椿はアマゾネスの目の前で止まると、そこから動かなくなった。
(………こいつ!)
少し考えて、アマゾネスにも、その考えが浮かんだ。
(自ら攻撃を受けに………!?)
そして答えに辿り着いた。椿は、直ぐに倒そうという意思がないことを。
(巫山戯やがって!)
舐められている。アマゾネスにとって、それは屈辱以外の何者でもなかった。
だから、
「そんなに死にたいのなら………死に晒せ!!」
アマゾネスは椿の体に触れた。
その瞬間、椿の体内に、直接衝撃波が流れ込んだ。
(!?)
椿はアマゾネスの手から離れると、直ぐに服を捲って体の表面を見た。だが、
「なにも、無いのか」
アマゾネスの攻撃は、直接体内に入り込んだ。
通常の防御系の技能や魔法は、体の表面に対するものであり、内蔵にまで適用されることはあまりない。ならば、
(こいつらの攻撃は、防御すらも無効化できる!)
鎧すらも貫通して攻撃を与えることが出来るのだ。
「おもしれぇ」
椿は改めてアマゾネスの姿を見る。
そして、椿は思いを改める。
「気功術、絶対にものにしてやる!」




