未知の力
教皇のセレモニーも無事終了して、光達には、椿が誘拐されたことも話していた。
最初は皆心配していたが、よく考えれば、誘拐したところですぐに帰ってくる可能性もある。そう考えた光達だったが、エミリーや花恋、リーリエは気が気じゃなかった。
なんせ誘拐疑惑がついてるのはあのアマゾネス達だ。女戦士族がなんのために椿を召喚したのか、彼女らはわかっている。
つまり、体のいい種馬とするため。
そう考えると、三人は怒りがこみあがってきた。
だが、ここで全員で殺戮国に向かっても間に合わないだろう。
ならば、
「私が一人でトゥレチェリイに行く」
椿誘拐から一日経過し、エスポワールに帰ろうと荷物を纏めたところで、リーリエが宣言した。
「一人でって………そりゃ、リーリエさんは俺たちよりも強いけど………」
一人で大丈夫なのか。その光の疑問はすぐに解消されることになった。
「大丈夫。だって妖精族だからね。空から強行突破したら何も問題は無いよ」
なんならリーリエの敏捷のステータスは飛行状態で10000を突破している。
さすがに限界突破まで使う気はないが、これなら安心しだろう。
「だから、花恋はちゃんとみんなを国に帰してあげてね」
「わかりました。リーリエ、わたくしの分まで椿くんをお願いします」
花恋とリーリエは握手した。
本当は、花恋も行きたかったのだが、飛行手段も魔法で、花恋の場合走った方が速いという問題もある。
そして花恋は魔法で飛んでるのに対して、リーリエは持力で飛んでる。花恋はMPが途中で無くなる可能性もあるが、リーリエならばその心配もない。
「こちらの護衛は、お任せください」
リーリエにそう言ったのはグロルだった。元魔王軍幹部の護衛。字面だけでは、到底信用できないが、グロル個人は信用できる。
光はまだだが、既にクラスメートはそれなりに心を開いていた。
寧ろ、元教皇として、人の話しを聞くのは慣れているので、そこら辺でも人気がある。来て、まだ数日しか経過してないけど。
「魔法陣はわたくしなら問題なく発動できます!リーリエ、椿くんをお願いしますね」
「任せて。変なことしないうちに取り返して来るから!」
そう言って、リーリエは殺戮国トゥレチェリイの方角に向かって飛んで行った。
花恋達は、その様子を後ろから見守っていた。
□■
時は椿が召喚された後に戻る。
「全力で捕らえろ!」
女戦士族。通称アマゾネス。彼女らは強い男を召喚し、種馬にすることによって強い子供を来世に残そうとする。つまりは、世代を超えることによる、擬似的な色欲の権能とも言える。
もっとも、椿は本物の昇華魔法によってスペックが人間から逸脱した人材だ。
それに、女戦士族がいくら強いとはいえ、たかだか知れている。
ならば、
「戦闘スタイルを見ていくか」
戦い方の研究。これ一つにつきる。
アマゾネス達は、武器を所持せず、基本的に素手で攻撃してくる。
魔法も使わない。ただ、己の肉体を鍛え上げているだけだ。
「ポイッと」
椿はアマゾネス達を観察しながら近づいてきたアマゾネスを投げ捨てる。
「………は?」
それは誰の声だっただろうか。
実は、実力を確かめるために適当な相手を投げ捨てた椿。実は彼女はこの中で最速であり、そんな彼女を投げ捨てたことにより、アマゾネス達は、攻めあぐねていた。
「怯むな!数の有利は我らにある!限界突破!」
ずっとリーダーシップを発揮しているアマゾネスがそう叫んだ。
「へぇ………限界突破まで使うのか」
それは意外だった。
だが、アマゾネス達にとって限界突破とは栄誉ある技能。自分たちの鍛錬の集大成とも言える技能だからだ。
「はぁぁぁぁ!!」
そうして、先程椿が投げ飛ばしたアマゾネスを含む数人が限界突破を発動した。
それを椿は冷静に対処する。
技を受け流し、時には正面から対抗する。
紙一重で回避し、投げ飛ばす。
そんなことをしていると、ふと椿は違和感を感じた。
(感触に差があるな………)
同人物でも、タイミングによっては勢いも、パワーも何もかもが違うのだ。
(なんだ………?何が違う?)
見知らぬ異国で始めてみる部族が使う戦闘技術。
「欲しい………」
思わずこぼれた椿の本心。
(その力が、欲しい!)
椿は、接近してきたアマゾネスをそこそこの力で蹴り飛ばした。
「がはっ!」
血を吐いて吹き飛んでいるが、
(想像よりも感触が少ない………)
一応、それなりの力で攻撃したのだ。それが、少なかった。
(受け流した?あの状況で………?)
それは本来不可能なはず。だが、それができるのであれば………
(それを知りたい!)
何度も感じ取れば何かがわかるはず。だから、
「さぁ、今度は守りに徹して見ろ!」
椿は今度こそ戦闘を始め………
「やっちゃったな………」
一分程でその蹂躙は終了した。




