第四話 エリーお姉様
新しい世界に生を受けて半年。
もう少しではいはいができそうです。
エリーお姉様はまだ歩けないのですが、はいはいが出来る様になったので、育児室になっている部屋の中をはいはいで動き回っています。
お母様達やメイドさん(お手伝いさんはメイドさんでした)は、ハラハラしてお姉様から目が離せない様です。
今日はリサお母様とメイドさんが、私とお姉様のお世話をしています。
アンお母様は、またお兄様達のお勉強を見ているそうです。
こんこん。
「わしじゃ、入って良いか?」
ドアがノックされ、年配の男性の声が聞こえました。
「はいはい、いいですよ」
リサお母様も慣れた感じで返事をしています。
ドアを開けて入ってきたのは、年配の夫妻。ここ暫くは一ヶ月おきに訪れています。
ふとエリーお姉様を見ると……
「……あうー」
あれ? もしかして、ため息ついていないかな?
そんな事は……ないよね?
「おお、エリーちゃん、じいじとばあばが遊びにきたよ」
「あなた、落ち着きなさい。エリーちゃんが驚きますよ」
年配の男性はデレデレの顔になって、エリーお姉様に声をかけます
それを見た年配の女性が、男性を嗜めます。
よく見ると、リサお母様もメイドさんも顔を見合わせて苦笑しています。
年配の夫妻は、リサお母様のお父様とお母様。つまりエリーお姉様のお祖父様とお婆様です。
我が家とは近い所に住んでいるらしく、こうしてちょくちょく見にきます。
リサお母様のお兄様にもお子さんはいるらしいのですが、全員男の子だそうです。
初めての女の子の孫に、お祖父様はデレデレになっているそうです。
「……うーぅ……にこ!」
あれ? お姉様が目を瞑ったと思ったら、満面の笑みをお祖父様に向けています。
……もしかして作り笑顔? そんな事はないよね……まだお姉様も赤ちゃんだし……
「おぉお、エリーちゃんは可愛いな! こっちにはいはいしてくれるかな?」
お祖父様は、人には見せられない様な物凄いデレデレのお顔になっていて……正直怖いです……
エリーお姉様は、お祖父様の元にはいはいで向かって行き、お祖父様は笑顔でエリーお姉様を抱き上げます。
お婆様とリサお母様とメイドさんは、相変わらず苦笑しています。
こう見えて、お祖父様は筋肉ムキムキで背も高く、お髭を生やしているので、普段はきりりとしたお顔です。
それがデレデレになっているので、とっても残念なお顔になっています。
「ふぁ……」
暫くお祖父様とお婆様に順番に抱っこされた後、お姉様は眠くなったようであくびをしました。
「あらあら、エリーはおねむかな?」
リサお母様は、お祖父様からエリーお姉様を抱き上げました。
……お祖父様は残念そうな顔をしています。
「あなた、いい時間だし、エリーちゃんもおねもだから、そろそろ上がりましょう」
「……うーむ、そうだな……」
お婆様はエリーお姉様の事を気遣い帰ろうと提案しますが、お祖父様はまだここにいたさそうです。
「お祖父様、またすぐ来れますから。エリーもおねむなので」
「そうだな、また来るぞ」
リサお母様もお祖父様に声をかけ、お祖父様は帰る事を決断したみたいです。
「エリーちゃん、また来るぞ」
お祖父様はリサお母様に抱かれているエリーお姉様の頭を撫でながら、また来るといい帰っていきました。
リサお母様は、エリーお姉様を私の横に寝かせつけ、お祖父様とお婆様を見送りに行きました。
パタン
ドアが閉まり、部屋の中は私とエリーお姉様とメイドさんの三人。
メイドさんはお部屋の掃除を始めました。
ぎゅ
「……ふぅ……」
ふと、腕に抱きつく感触があったので横を向いてみたら、疲れた顔のエリーお姉様が抱きついていました。
……エリーお姉様、今ため息つきませんでしたか?
「あらあら、エリー様は本当にクラウス様が大好きなんですね」
それを見たメイドさんは何か微笑ましいものを見たと思っているそうです。
でも、実際にはちょっと違っているような気が……
……じー……
エリーお姉様は、私に熱い視線を向けています。
これはもしかしてあれかな?
私はエリーお姉様にぎゅっと抱きつきました。
エリーお姉様は満足した顔になり、やがてすやすやと寝始めました。
……エリーお姉様は、本当に赤ちゃんなのかな……
そんな疑問も浮かびましたが、やがて私も微睡の中に沈んでいきました。