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【バラッド】 大テーブルの聖女の詩 最終節 (超絶ご都合主義エンド版)

感想・評価・ブックマーク有難うございます。

・主要登場人物

 フローラ  …… 大テーブルの聖女。元伯爵家令嬢。

 レスター  …… 追放された元警備隊長。

 ヒドーゲス …… 街の代官。公爵家令息。


・ここまでのあらすじ

 街の代官ヒドーゲスの失策により平和な街に突如魔物の群れが乱入してきた。たまたま居合わせた美しき伯爵令嬢フローラは巨大なテーブルを武器に孤軍奮闘し人々を守りぬく。

 街の警備隊長だったレスターは全ての責任を負わされ公爵領を追放される。一方フローラは『大テーブルの聖女』として称賛を浴びるも卑劣なヒドーゲスと無理矢理結婚させられそうになり出奔する。

 二人は別々に旅に出るも運命に導かれ再会。行動を共にするようになり、やがて恋に落ちる。

 しかし幸せな時は長くは続かない。ヒドーゲスが『聖女』を取り戻すために千人の私兵を引き連れて襲い掛かってきたのだ。

 フローラとレスターは力を合わせ一歩も引かずに一昼夜戦い続け遂にはヒドーゲスを討ち取る。しかしその代償は大きく二人とも浅くない傷を負ってしまう。

 朝焼けの中、二人は治療の当てもないまま古い神殿に籠り、残された最後の時間を使って二人だけの結婚式を挙げたのだった。



最終節 “旅立ち”


 気が付くとそこは白い部屋。床も壁も陽光を浴びた新雪のように白いそこは正しく死と再生の女神の審判の部屋。

「レスターの妻フローラよ」

 呼ばれて振り返ればそこには美しい女性。艶のある髪は黒玉(ジェット)のよう。くすみのない肌は真珠のよう。漆黒のドレスに身を包んだ彼女は紛う方なきこの部屋の主、死と再生の女神に相違ない。

「ここは審判の部屋。死者の魂はここで楽園に招かれるか浄化の炎で焼かれるかが決せられる。しかしながら汝はまだその時ではない。現世に戻すものとする」

 驚きの裁定に、しかしフローラの顔に喜びは無い。

「お待ちください。レスターは、夫はどうなったのでしょう」

「神界の法の定めるところによりその問いには答えられぬ」

「ではせめて、夫が浄化の炎に送られたのならば私も同じところへとお送りください。夫が焼かれているのに何で私だけのうのうと生き永らえましょうか」

 フローラが縋りつくも女神は膠(にべ)も無い。

「裁定は既に下された。枉(ま)げる事は叶わぬ。では現世へと戻るが良い」

 そう言うや否や女神の姿が薄れていく。いやフローラの意識が遠のいていくのだ。

 消えかけた意識の中で女神の声が微かに聞こえる。

「さて、汝らは随分と久しぶりに我が神殿にて結婚式を挙げた夫婦、それを嘉(よみ)し贈り物を用意した。現世にて……」


「……、…フ……ラ、フローラ!」

 はっと気づくと目の前にあるのは愛しいレスターの顔。

「レスター! 大丈夫!? 傷は……え? 無い? 傷が無い!?」

 飛び起きざまに顔やら胸板やらを撫でまわされてさすがのレスターも苦笑する。

「良かった気が付いたんだね。……ええと、スキンシップは嬉しいけど一旦落ち着こうか」

「あっ! ごめんなさいっ!!」

 フローラは思わず取ってしまったはしたない行動に己の赤髪よりも真っ赤に顔を染め跳び退(しさ)る。

「見た所元気そうだけど、どこか痛い所は無い? 気分はどう? 見える範囲の傷は全部治っているみたいだけど」

 言われてみればどこにも痛みは無い。体を見下ろせば体の傷どころかドレスにも鉤裂き一つ見付からぬ。しかも返り血と己の血で赤黒く染め上げられていたはずが元の茜色を取り戻し、戦いの前に切り落としたはずのスカートの裾さえそんな事実はなかったとばかりに柔らかく足を覆う。戻らなかったのは肩で切った髪、勝利を祈願し神に捧げた長い赤髪のみ。

「私も何ともないわ。レスターは?」

「僕ももう何ともないよ。頗(すこぶ)る快調だし服だって何故か新品同様だ」

「良かったわ。あの傷ですもの。もうこの世では会えないとばかり。本当に良かった……」

「僕もだよ。また君の元気な顔を見られてこんなに嬉しいことは無い」

 見つめあう二人。

 どちらからともなく顔を近づけていき、お互いを確かめ合うようにキスをする。


「それにしても二人とも無傷なんて一体どういう事? もしかしてあの戦いは夢だったの?」

「いいや現実だよ。あれをご覧」

 混乱しているフローラにレスターは神殿の出入口である大扉の方を指し示す。

 言われて見やれば朝の光に照られていているのは二人が歩いた跡、其処(そこ)から此方(こちら)へと続くの乾きかけた血糊の道だ。傍らには記憶の通り大テーブルが、戦いの最中に脚を一本失ったまま転がっている。

「僕たちの周りだけ元に戻っているんだよ。ほら、床だって僕たちの周りだけは磨き立ての様にきれいだ」

「じゃあ本当に起こったことなのね。戦いも、ヒドーゲスを斃したのも……結婚も」

「勿論。何しろ『審判の部屋』で死と再生の女神様は僕に仰ったんだ。『結婚祝いを贈る』と」

「そう言えば私にもそう仰ったわ」

「女神様も僕たちの結婚を認めてくださった。それが僕たちが結婚した何よりの証拠だ。そしてこの『再生』の奇跡! これこそが女神様からの結婚祝いに違いないよ」

 言われて神像を見上げれば、見覚えのある顔をした大理石の女神がその通りと微笑んだように見えた。


 フローラとレスターは神像にしばし感謝の祈りを捧げると、これからの事を語り合う。

「公爵家の者を手に掛けたからにはもうこの国には居られない。

 幸いここから二日歩けば国境だ。そこを越えて隣国に入ってしまえば公爵家といえども容易に手は出せないだろう」

「そうね。そのまま遠くへ逃げてしまいましょう。楽しみだわ。私、国から出た事がないの」

「僕もだよ。どこか行ってみたいところはあるかい」

「私、海が見たいわ。広くて大きな海。前から見たいと思っていたの」

「よし、じゃあ国境を越えたら海を目指そう。

 でもその前にしなければならないことがある。まずは神殿の周りの死者をきちんと弔おう。それから汚してしまった女神様の神殿をきれいに掃除しよう。旅立ちはそれからだ」

「そうね、このままにしてはおけないものね。よし、まだ午前中みたいだし急いでやってしまいましょう。とはいっても私、どちらもしたことないの。色々教えてね」

「それは勿論」

「夫婦として初めての共同作業ね。頑張るわ」

「随分血腥い作業だけどね。まあ僕たちらしいと言えばらしいのかな。さあ、まずは着替えよう。折角女神様のお陰で綺麗になった服を汚したくはないからね」

「ここで着替えてもいい? 近くにまだ残兵かいるかもしれないから離れ離れになるのは危険だわ。……それにもう結婚したんだし、いいわよね」

「うーん、ここで着替えらえると主に僕の理性が危険なんだけどしょうがないか。じゃあ君が先に着替えて。誰か来たら僕が相手するから」

 なんとも緊張感に欠けたやり取りの後、二人は着替えて神殿を出た。

 外には建物を取り囲むように十数人の兵。その背後には無残な戦いの痕跡。ヒドーゲスの遺体以外は打ち捨てられたままのようだ。二人は見張りとして残っていた兵達を説得し協力を取り付けると、全員で戦いに散った戦士達を一人残らず丁寧に埋葬し、次いで神殿をきれいに磨き上げた。


 終わった頃には既に日暮れだ。

「世話になりました。それに馬と食料を融通してくれて感謝します」

 フローラが感謝の言葉を述べれば見張りのまとめ役もこう返す。

「世話になったってのはこっちのセリフでさぁ。仲間の埋葬を手伝ってくださって感謝してやす。あと馬二頭と荷物はあなた方に強奪されたんです。そう報告するんで弁えといてくださいやし」

 昨日殺しあっていたとはとても思えぬほどに打ち解けたのは人徳ゆえか。

「そうか。では強奪犯は早々に立ち去ることにしよう。僕が言えた義理ではないが元気でな」

「旦那も聖女様も末永くお幸せに」

 夕闇の中、見張り達が手を振るのに答えながら二人は旅立っっていった。脚が一本足りない大テーブルだけを残して。


 数年後、公爵家を離れた元見張り兵の一人が隣国の片田舎にあるとある港町を訪れた時、二人とよく似た夫婦が幼い子供を連れて仲良く歩いているのを見かけたらしい。声はかけなかったということだ。


本来ここはフレンに大ダメージを与えた「大テーブルの聖女の詩 ラブラブあまあま展開砂糖マシマシ版」の予定でしたが書いていて背中が痒くなってきたので方針変更しました。

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