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バッドエンドだよ!

評価・ブックマーク有難うございます。

 ふと気づくとテラス席を大勢の人が遠巻きにしていた。

 普段ならこれだけ人がいたら魔力感知とかですぐ気づくはずなのに今まで全く気付かなかった。今日の私はどれだけポンコツなんだろう。


 周りの人に意識を向ける。

 どうも不思議な話に興味があるみたい。でも身分の高そうな相手だから無遠慮に近づくのも躊躇われる、といったところだろうか。


「お話し中失礼します。お嬢様。吟遊詩人だと名乗る者がお嬢様の話を聞きたいと…」

 話が一段落したところを見計らって後ろで控えていたアリスが話しかけてきた。

 どうやら新曲のネタを求める吟遊詩人がやって来たらしい。

 何気に吟遊詩人は初めてだ。エーコ領の屋敷には来たことないし。とても興味があったので悪役令嬢の許可を取って会うことにした。悪役令嬢はそのまま同席するつもりのようだ。


「やつがれ如きの願いをお聞き届け下さり誠に有難う御座います。申し遅れました。やつがれはマルクと申すしがない辻立ちの吟遊詩人に御座います」

 現れたのはリュートを抱えた口ひげのおじさん。茶色いマントに茶色い髪。見た目はあまりぱっとしないけど妙にイケボだ。

 ガンネー橋の話を歌にしたい、最初の方を聞きそびれたのでもう一度話してくれないだろうかという事だったので、私たちの名前を出さない事と怪談にしないことを条件に話してあげた。

 流石に本職の吟遊詩人は悪役令嬢よりも聞き上手で、ついうっかり話すつもりのなかった植木鉢の話までしてしまった。最後の秘密、誰が橋を架けたかは隠し通したけど。言わなかったよね。うん、きっと大丈夫。危ない所だったけど。


「貴重なお話を有難うございました。お陰で素晴らしい歌が出来そうです。仕上がりましたら真っ先にお嬢様方に……」

「いえ結構です」

 そんな羞恥プレイは要らないのです。

「左様でございますか。もしお聞きになりたくなりましたら何時なりとやつがれに声をおかけください。西大市場にいる吟遊詩人に『マルクを呼びたい』と言付けて下されれば参上いたしますゆえ」


 それからお礼だと自作のバラッドを披露してくれた。

 時に切なく時に勇壮に歌い上げるその曲は渋い声と相まって確かに素晴らしいものだったんだけど……


 何で題材が王宮事件なんですか!

 固有名詞や舞台は全部変えてあって、例えば私の名前はフレンでなく伯爵令嬢フローラになっていけど内容は明らかに王宮事件。

 ヒロインは私、ヒーローは近衛騎士の隊長さん(当時)。

 平和な平民街に突如乱入してきた魔物の群れ。たまたま居合わせた美しき伯爵令嬢フローラ(=私)が手近にあった巨大なテーブルを武器に孤軍奮闘、逃げ遅れた人達を救うために縦横無尽に駆け回り片っ端から魔物を叩き潰していく。しかし如何せん魔物は多く守るべき人はさらに多く。いつ果てるとも知れない戦いに次第に体力を奪われ握力を無くし武器であるテーブルを取り落としてしまう。正に絶体絶命。そこに隊長さん率いる警備隊が突入してきて事なきを得る。

 私は身を挺して人々を守った『大テーブルの聖女』として称賛を浴びる。


 ここまではいい。かなり脚色してあるけど問題は無い。美化され過ぎていて内心羞恥に悶えなたけれどもなんとか面には出さずに聞くことが出来た。欲を言えば元ネタが分からない位まで脚色してほしかったけど、まあいい。

 しかしここから完全オリジナル展開。段々話がおかしくなってくる。

 

 魔物の襲撃は実は公爵家のドラ息子の失態によるものだった。

 しかし権力の前に真実は捻じ曲げられ、平民上がりの隊長さん(そういう設定)は全責任を押し付けられ身分剥奪の上追放されてしまう。

 一方私は美貌の『聖女』を我が物にしようと欲したドラ息子と無理矢理結婚させられそうになり出奔する。

 二人は別々に旅に出るも運命に導かれ再会。行動を共にするようになり、やがて恋に落ちる。

 二人で過ごす甘々な時間。

 しかし幸せは長くは続かない。

 ドラ息子が『聖女』を取り戻すために手勢を引き連れてやってきたのだ。

 古い神殿の中に追い詰められた私と隊長さん。取り囲むのは千人の私兵達。

 立て籠もっていては道は開けないと私たちは戦いを決意する。

 そして始まる二人対千人の大立ち回り。

 隊長さんの冴えわたる剣と魔法の妙技、そして私の大テーブルの理不尽なまでの威力。それらのお陰で初めの内は優勢に戦っていた私達。しかし次から次へと立ちふさがる敵兵に次第に疲労が蓄積していく。動きに生彩が無くなれば敵の剣が届き始める。魔法が当たり始める。

 それでも私たちは遮二無二剣とテーブルを振るい続け、漸くドラ息子をプチっと潰すがその時には既に満身創痍。お互いケガをしていないところを探す方が難しいような、生きているのが不思議なくらいの有様だった。

 残った私兵達は私たちを畏れ遠巻きにするのみ。

 そんな中私と隊長さんは互いに肩を預け合い蹌踉(よろ)めきながら神殿に戻る。そして神像の前で二人だけの結婚式を挙げたのだった。


 半日後、生き残りの私兵が恐る恐る中を覗くと寄り添ったまま冷たくなっている二人の姿があった……


 色々言いたいことはあるけど……バッドエンドだよ! 私死んじゃってるよ! ヒロインのモデルが聞いているのになんでヒロインが死ぬ話をするんだよ! 聴衆には受けてるみたいだけど私に対するお礼なんじゃないの? しかも最後まで武器がテーブルって何!?


 マルクさんはしれっと「この結末はお気に召しませんでしたか」とか言って別バージョンを歌い出した。それは「二人は何時までも幸せに暮らしました」系のラブラブあまあま展開砂糖マシマシで違う意味で私にクリティカルダメージを与えたのだった。




 話が終わった所で気になっていたことを確認することにした。途中で気付いたのだけど、覚えのある魔力の人がいたのだ。

 人垣の中じゃない。悪役令嬢の護衛の地味な方だ。この人、初対面じゃない。前会ったときの印象はもっと快活な感じだった気がするけど、このオレンジ色っぽい魔力、間違いない。私が長年会いたいと思っていた……

「もしやユーミ様ではありませんか!?」

 五年前にもたけ○こをくれたユーミ様に間違いない!


「よくお分かりになりましたね。お会いしたのは何年も前ですし、その時とは髪の色すら違うというのに」

 ユーミ様は目を丸くして答える。

「見覚えのある魔力でしたので」

 実際には毎年この魔力を頼りに「ばったり」会えないかと市場をうろうろしていたのだ。忘れる訳がない。

 そしてようやく相手側を驚かすことが出来た。押されっぱなしだったけどやっと少し反撃できた気分。ちょっとだけ嬉しい。

 でもたけ○この卸元はがっつりあちら側なのか。

「実は手土産を選んだのはユーミですの。以前非常に喜んで頂けた物だとか」

 悪役令嬢が話に入ってきた。たけ○こを選んだのはユーミ様だったらしい。グッジョブ!

「はい、大変美味しかったです!」

「それはようございましたわ」


 その後も悪役令嬢は良識ある令嬢として振る舞い続け最後まで馬脚を露さなかった。猪口才な。




「あー疲れた。敵対派閥の人が相手だと疲れるよ」

 帰りの馬車の中でアリスに愚痴をこぼすと思わぬ返事が返ってきた。

「でも良かったです。お嬢様も少し調子を取り戻されたようで」

「え? そう?」

「そうですよ。昨日の晩からずっと上の空、心ここに在らずという風情でしたから皆で心配していたのです」

「おおう、そうなんだ。それはごめん。もう大丈夫だから」

「その様ですね。そういう意味では公爵家の御令嬢には感謝です」

 確かにさっきは必死に頭を働かせた。悪役令嬢相手にぼーっとしてたら抜き差しならない状況に追い込まれそうだものね。弱みを握られてヒロインをいじめる役をやらされた挙句最後に纏めて「ざまあ」されるとか。

 ユーミ様の現状が分かったのも収穫だ。悪役令嬢の護衛になっているのは困った点だけど。でも当面のたけ○こは手に入ったし……っていけないいけない。今日もたけ○こに惑わされて長々と話をする羽目になったのだ。ユーミ様以外のルートでたけ○こを入手できないか、というか何でもいいから美味しいチョコが手に入らないか考えないと。王都に来る固形チョコは全部王宮に納品されるらしく一般には出回らないし王宮の新年パーティでザッハトルテっぽいチョコケーキは出るもののちょっと濃すぎる上に甘すぎるのだ。勢力争いが終わるんなら固形チョコの産地フーゼン市への旅行も許可してもらえるかな。そこなら美味しいチョコも……


「(おいアリス、またお嬢がぼーっとし始めたぞ)」

「(ボブさん大丈夫です。これはお菓子の事を考えている時の顔です。問題ありま…ああっ、涎が!)」


 アリスにハンカチで口の端を拭かれて我に返った。うう、恥ずかしい。


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