取り敢えずすっとぼけておく
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西大市場の広場では大道芸が盛んにおこなわれている。
今もそこかしこに人だかりができていて、大道芸人が玉乗りしながらジャグリングしたり、高い杭の上を跳び回りながら演武をしたりとにぎやかだ。
そういうのに興味が無いわけではないのだけど私はここには滅多に来ない。
何しろ公開処刑もここで行われるのだ。
勿論公開処刑と言うのは大勢の前でラブレターを朗読されたりとかそういう平和なのではなくて文字通り公衆の面前で死刑を執行するという意味だ。
リタリエ男爵もここで処刑された。
そういうのも庶民の娯楽らしいんだけど、私には受け付けられないのだ。
公開処刑なんて滅多にないらしいけど処刑後は死体だの生首だのが晒されていることもあるそうだ。偶々来て見てしまったら最悪だ。
だから用が無い限りは広場は避ける事にしているのだ。
そんな広場に来たのは悪役令嬢の提案だ。
屋台の前は道幅が広くないから長話するのは迷惑をかけるというごく常識的な意見なんだけど、悪役令嬢といえばワガママで高飛車なのが定番、まさかそういう気づかいが出来るとは思わなかった。随分まともな人っぽい。人の神経を逆撫でするのが得意な王太子とはえらい違いだ。
もしこの世界が乙女ゲーム世界ならヒロインざまあ系なのかも。
いやそう決めつけるのはまだ早い。何しろ相手は上位貴族のご令嬢、猫の十匹や二十匹被っていてもおかしくはないのだ。やっぱりお近づきになるのは危険だ。出来るだけ避けた方がいい。
幸い今日広場では血腥いイベントは無かった。死体も晒されていない。死者の怨念がこびりついているだけ……
私達は刑が執行される場所とは反対側にあるお洒落なカフェ……というと美化しすぎかもしれない小さな食堂の広場に面したテラス席に落ち着いた。
今は日が出ているとはいえもうすぐ冬。吹きさらしのテラス席は結構寒い。店内にはちらほら客がいるもののテラスに居るのは私たちだけだ。
それでもテラス席にしたのは密談ではないとのアピールのため。結構近くを人が行きかっているから密談には向かない席だ。その分見られる可能性は高いのだけど派閥争いが下火になっている今ならそんなに問題にならないはず……ならないよね? 少なくとも密談と思われるよりは良いはずだ。
優雅にハーブティーを嗜みながら悪役令嬢が口を開いた。
「伺いしたいこととは他でもありません、ガンネー橋についてですわ」
「ガンネー橋? 何のことでしょう。心当たりが無いのですが」
「もしかしたら名前をご存じないのかも知れませんわね。ガンネー橋とは旧東街道にある、ドーナズス川に架かる大きな木の橋ですわ。一夜橋とも呼ばれていますわ」
私が作ったあの橋か! 元々あったつり橋が落ちてたからこっそり作ったんだよね。私達が行く前に悪役令嬢が近くに行っていたらしいから橋を落としたのはきっと彼女だ。証拠はないんだけどね。
すると知りたいのはどうやって橋を架けたかだろうか。
表向き私は渡っただけ。作ったのが私だとバレると面倒な事になりそうだから気を付けないと。
「まあ、確かにその橋なら二年ほど前に渡りました。ガンネー橋という名前なんですね」
「ええ、ガンネー様の木から作られたからガンネー橋と名付けられたのだそうですわ」
「ガンネー様の木、ですか?」
「クリクソン将軍生存説については? なるほどご存じですのね。実は将軍が隠れ住んだとされる場所が国の内外に沢山ありますの。よく知られている所だけで国内九ヶ所国外七ヶ所。国内の九ヶ所については全て訪ねましたのですが、それぞれに特徴がありまして……」
急に長い話が始まった。
ガンネーのガの字もないままクリクソン将軍の隠遁場所に関する話が延々と続いていく。熱に浮かされたように話し続けてるけど護衛の二人が平然としている所を見るとこれが平常運転なのだろう。
一つだけ分かった。
こいつ歴女だ。
前世の知り合いの歴女がスイッチが入ったときこんな感じだった。
前世と違って観光旅行には時間も金もかかりすぎるから一般人は行かないし出来ないけど公爵令嬢なら話は別。この分だと関連史跡に行きまくっているはず。
きっとこいつの部屋は大量の歴史の本とその他クリクソン将軍グッズとか史跡巡りの記念品とかで埋め尽くされているに違いない。
「……そして最後に問題のディートトゥック村。この村はガンネー橋から一日ほど王都側に戻った所にありますわ」
ようやっと話が例の廃村に辿り着いた。
「あの村はディートトゥック村と言うのですね」
「まあ、ディートトゥック村をお訪ねになったのですの?」
おおう、マズい。私は表向き行ってないんだった。
「いえいえ! 話を聞いただけです、二基の墓がある廃村があると。それだけです!」
「? そうですの? 確かにその村には何も刻まれていない石板が二枚立っていまして、それぞれクリクソン将軍とリース女王……あ、リース女王生存説については? 結構、そのお二方の墓石とされていますわ。お二方の墓が両方あるのは国内ではここだけです。それだけではありません、ここにだけはクリクソン八勇士の墓とされるものも残されているのですわ。村の周りには八本の大木が生えていたのですが、それぞれがクリクソン八勇士の墓標なのだそうですわ」
「墓標!? あの木は墓標だったのですか!?」
「そうですわ。村の中にはクリクソン将軍とリース女王の墓。外周の大木は八勇士の墓から生えたもので彼らは死して尚主人の墓を守っているのだとされていますわ。彼らが守っているお陰で廃村になった今も残された家が野生の動物に荒らされたり魔物が住み着いたりすることが無いのだそうです」
まさか村の守り神のような木だったとは。つくづく許可をもらっておいてよかった。
でもあの声、誰の声だったんだろう。あの後一度こっそりお礼と挿し木した木の報告に行ったんだけどその時には何も聞こえなかったんだよね。
ちなみに挿し木だけど、きちんと育っているのは一株だけで後は結局枯れてしまった。生き残った株は大きめの植木鉢に移し替えてあるのだけど、もう私の腰くらいまでの高さに育っているから普通に世話していれば問題ないだろう。私がいない間はスージーが見てくれているし。
「村の入り口を守っていたのは八勇士の内『獅子のガンネー』様と『嵐のリントン』様の木。私が偶々二年近く前、去年の冬に訪ねた時には確かにどちらもありましたわ。勿論その二本だけではありません。八勇士の木全てが村を守るようにしっかりと立っていましたわ。
それがどうでしょう、何日もしないうちにガンネー様の木が村から無くなり橋になっていたのです。話を聞いた時は驚きましたわ」
犯人は私なんだけど取り敢えずすっとぼけておく。
「不思議な話ですね。ところで橋に使われたのは確かにそのガンネー様の木だったのですか」
「切り落とした枝がディートトゥック村に残されていますし何より切り株の形どころか年輪までもがぴたりと一致しているのです。間違いありませんわ」
わざわざ比べたんだ……マニアと言うのは恐ろしい。




