室内での実験はやめておこう
夜更け。寝たふりしつつメイドさんがいなくなったのを確認。よし、訓練開始。
まずは強化状態での歩行訓練だ。
ベッドから降りて歩いてみる。
慎重に一歩を踏み出したつもりがバランスを崩して倒れそうになり、とっさにベッドの柱を掴んだ。(私のベッドには天蓋、と表現すると天蓋付きベッドのイメージに申し訳ないほど質素な作りの飾り気のない四角い板が上についていて、それを四隅の武骨な柱が支えているのだ)
メキイッッ!
なんか柱を握りつぶしてしまった……結構丈夫そうな木製の柱なんだけどな……って呆けている場合じゃない! 証拠隠滅しないと!
とりあえずそおっと潰れた部分を整形して元の円柱に戻す。ほとんど強度は無いはずだけど残りの3本が天蓋を支えているのか崩れてはこない。セーフ!!
気を取り直して訓練を再開。
バランスを崩さないように慎重に一歩、二歩……歩けた! やったっ!
喜んで両手を上げた勢いで体が飛び上がってしまった。また何かに掴まればよかったのかもしれないがさっきの柱が頭を過りなにもできない。そのまま「ゴチン!!」と大きな音をたてて頭頂部から地面にダイブした。
その拍子にさっきの柱が折れ曲がり天蓋が傾いた!
「お嬢様、大きな音がしましたがどうなさったのですか!」
止めに音を聞きつけてメイドさんがやって来た。ど、ど、ど、どうしよ……!
なんとか誤魔化せた。柱がいきなり折れたのでビックリしてベッドから転げ落ちた、と強弁したのだ。
真夜中なのに営繕担当のおじさんに来てもらい(ゴメンなさい)、天蓋という名の木の板と四隅の柱を撤去していった。新しい柱が出来るまではこのままらしい。
元々この天蓋は冬場防寒の為にカーテンを巡らせる為のもの。今は春なので天蓋はなくても問題ないのだ。
今回は何とかなったけど、もしまた何か壊してしまったらもう誤魔化せないだろう。この部屋で身体強化の訓練をするのは無理だ。
かといって他の魔法は知らない。書庫で調べようにも隣の執務室でお父様とお母様が遅くまで執務しているらしく忍び込むのは危険だ。それに他の魔法でも室内だと問題が起きそうな気がする。
やっぱり身体強化に集中しよう。
出力を調整できればいいのだけど、やり方が分からない。部屋で色々試すのも危険だし、どうしようか……
そうだ! 室内がだめならこっそり外に出て訓練すればいいのだ。
でも最初のうちは派手にころんだりしてパジャマを汚したり、最悪破ってしまったりしてしまいそうだ。
ハダカで訓練? 確かに今までの経験から怪我一つしないだろうけど万が一見られたら羞恥心で死ねる。それに汚れてしまったら抜け出しているとばれてしまう。
なにかうまい手はないだろうか……
そう言えば昔読んだWEB小説に魔力で体を覆う話があった。魔力で服を覆って汚れその他を防げないだろうか。
なんかできそうな気がする。ちょっと試してみよう。
全身に魔力を纏う、とかやって失敗したら酷い事になりそうなので、右手の人差し指だけ魔力で覆ってみる。
バシューン!!
物凄い勢いで魔力が噴き出たので慌てて止めた。魔力は霧散してしまって指を覆うどころではなかった。
それに魔力の色がなんか朱かった。視覚で見るものではないから厳密に言うと色ではないのだろうが、なぜか「朱い」印象なのだ。今までは色なんか感じなかったのに……
発動前キープの所為だろうか。一旦止めてから魔力を出してみよう。
バシューン!!
またやってしまった。しかし色は確認できた。無色だ。朱いのは発動前キープの色だね。
では元のテーマに戻って……
慎重に、慎重に。発動前キープをしつつチョロっとずつ魔力を出して制御する。体内循環と違って魔力の消耗はゼロにはできなかったけど何とか指の周りに留めることは出来るようになった。
後はこれが本当に汚れを弾いてくれるかどうかだけど……室内での実験はやめておこう。明日、外でやろう。指先だけなら昼間でも見とがめられずに実験できるはず。