一番得をしたのは誰か
今回は短めです。
『大丈夫。ちゃんと眠っているわ』
私はまたリースの所に来ていた。ちゃんと眠れているかどうか確認するためだ。
私は明朝王都を立つ。その準備や何やかやで今日は夜遅くなっても大勢が動き回っていて抜け出すには不向きだったけど、今晩を逃すと一年後になってしまうから今日来るしかなかったのだ。
「ホントにホント?」
『本当よ。だから心配しないで。一度だけ知らない人たちが来たけど入り口辺りをウロウロしただけですぐ帰っちゃったし、他に来たのはあなただけ。あとはずっと眠っていたわ。だから毎晩彷徨い歩くなんてしていないし出来ないわ。
その何かを見たとか聞いたとか言っている人達、怖がり過ぎてありもしないものを見聞きしたのではないかしら。それともそう証言するように指示されたか』
「指示された?」
『そうよ、考えてみて。その噂話で一番得をしたのは誰か』
「得をした人? ……あ、第一王子派」
『その通り。あなたの家は王妃派の急先鋒なのよね。それが噂の所為で王家の周遊が決まり、結果的に活動を封じ込められてしまった。それなら第一王子派の企みだったのかもしれないわ。逆に空飛ぶ首の怪談はあなたのところの派閥が都合のいいように脚色して広めたのかもね』
「なるほど。そういう可能性もあるのか。さすが女王経験者。視点が違うよね」
『今でも現役の女王よ。……実はそういう事を習ったのは年を取らなくなってからだけどね』
「そうなの?」
『以前ね、この部屋に幽閉された人がいたのよ。世継ぎに実権を全部奪われてね。友達になって色々お喋りしたのだけどその時に色々教えてもらったの。私が傀儡の女王だったころには誰も教えてくれなかったような、色んな事をね。
それにね、私が殆ど王宮の外に出たことがないと知ると、国のあちこちに行った話も聞かせてくれたわ。レーヌス川を下って行った船の旅の話。雪の残るズードリッヘ山脈を越えて南の草原の国に行った話。西の海でクラーケンを見た話』
そう語るリースは少し寂しげだった。
『穏やかな人だったわ。息子の事も恨むでもなく、王として物足りなかったのだろう、なんて言って理解を見せるお人好しで。
メイドの前では姿を見せるなっていうのよ。驚かせると可哀そうだからって。このまえつい声かけちゃったけど、悲鳴を上げて逃げ出しちゃった。確かに悪い事したわ。彼の言ったことを守っていればよかった』
「優しい人だったんだね」
『そうね。彼、食事に毒を混ぜられていてだんだん弱っていって最後に死んじゃったのだけど、今際の際に何て言ったと思う? 息子は私の死を君の所為にするだろう。でもどうかアイツの事は恨まないでやってくれないか、国を治めるために必要な事をやっているだけなのだから、だって。自分が死ぬっていうのに人が好過ぎるのよ』
「ねえリース、その人、名前は何ているの」
『リーエンよ。聞いたことある?』
うわあ、歴史書よりも怪談に名を残している呪われたリーエン王ですか。
リースの怪談を扱った本には大抵載っている悪い意味で有名な王様だ。リースの怨霊から王宮を取り戻すのだと宣言して政務を放り出し女王の寝室に閉じこもった挙句一年後に熱病で亡くなったということになっている。以後王家の男子にリーエンと名付けない慣習すら出来たのだそうだ。
歴史書を読むと遠回しにバカと評されていて、一方息子のダイゾン一世は隠れもなき名君として称賛されているのだ。まさかこんな裏話があったとは。
「知ってる。本人の予言通りリースに呪い殺されたことになってるよ」
『やっぱりそうなんだ』
そう言うリースはやっぱり寂しげだった。




