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悲劇の女王リース

評価・ブックマーク有難うございます。

 悲劇の女王リース。

 300年以上前の人物だ。レオタイプ家が王家となる前、マージュ王朝最後の王で、権臣カイに全てを奪われ8才で毒殺されたとされる。彼女は怨霊となって今も自室に留まり侵入する者に呪いを与えるのだそうだ。てっきり単なる怪談だと思っていたんだけど、今ご本人が目の前にいらっしゃいます。何故かとても友好的です。


 リース女王は碧眼、癖のない長い金髪を真っすぐに下ろしている。纏っているドレスは真っ黒だ。

 しかし彼女からは魔力が一切感じられない。さっきの魔力は一体何だったんだろう。しかも隠し通路からの光が透けて見えるというのに本人も不自然なくらいはっきりと見える。いかにも幽霊ですって感じ。それにしても幽霊が着ているドレスって何でできているんだろう。ドレスの幽霊だったりするんだろうか……


『ねえ、聞いてる? 聞こえてるわよね』


 フレン は 現実逃避した! しかし 女王 からは 逃げられない!


 女王は上から(・・・)私の顔を覗き込んだ。何故上からかというと私が座り込んでいるからです。腰抜けた……

 あ、ヤバい! 女王の機嫌がだんだん悪くなってきてる。

 そうだ! 相手は怨霊とは言え偉い人。貴族として培った礼儀作法(推定Lv. 2)でなんとか切り抜けられるかも。

 まずフードを取って顔を見せる。


「し、失礼しました。私はしがない通りすがりの者です。女王陛下の領土と知らず許可なく立ち入った無礼をお許しください」

『あー敬語とかいいから。むしろやめて。女王に即位してからこっち友達含めて誰も彼も敬語でしか話してくれなくなって、もううんざりなの』


 おおう、こうかがないみたいだ…というかむしろ逆効果だ。

 素のコミュ力(推定Lv. 0.5)で勝負しろと言うのか。ええい仕方ない、やったる!


「う、うん、わかった。普通に話すね」

『ありがと。それでお名前は?』

「フレンよ。よろしくリース。あ、リースって呼んでもいいよね」

『もちろんいいわよ。こちらこそよろしく、フレン』


 そういうとリースは嬉しそうに笑った。

 良かった。この対応で正解らしい。


 考えてみれば友達が敬語しか使わなくなったのは距離を取るためだったんだろうな。本人の意思か家族の意思かはともかく。

 彼女が即位したのはカイが王位を簒奪するための手続きの一環だったという。

 カイは成人した王族をすべて始末した後幼いリースを即位させた。自分自身は後見人に収まり自らに権力を集中。準備が出来たところでリースを毒殺。その死を病死と発表し死の床で禅譲されたと偽って王を僭称したのだ。

 その流れは事が起こる前から誰の目にも明らかだった。だから皆巻き込まれるのを恐れリースから距離を置いたらしい。頑なにリースの傍に居ようとした者は追放され暗殺されたと物の本に書いてあった。

 かなり胸糞な話だ。


 話を戻すと敬語を使うと距離を取られているようで嫌なんだろう。つまり求められているのは友達の距離感。フレンドリーに接すれば無事に済むかもしれない。光明が見えてきた。

 しかし油断は禁物。何しろ彼女は唯の幽霊ではない。有名な大怨霊なのだ。


 僭王カイはリースを殺した数年後、権力の絶頂期に謎の熱病で世を去った。今際の言葉は「リースが来る」だったそうだ。その為人々は「リース女王の呪い」と噂したという。

 カイの死により彼の王国はそのまま瓦解した。彼の一族は現王家の手によって討滅され、リースの仇はいなくなった。

 しかし「呪い」は終わらなかった。

 彼女の部屋(この部屋だ)は歴代国王の寝室だった場所。だからレオタイプ家が王家になってからも何人かの王が使おうとしたという。

 しかし誰も果たせなかった。「呪い」のせいだ。

 リースを見た人も見なかった人もいたけど皆一様に正体不明の体調不良になってしまった。症状は様々。部屋を替えるとそれ以上悪くはならないのだけれど、回復した人は少数派だったようだ。

 神官や祈祷師を呼んで部屋を浄化しようともしたけど上手く行かなかったらしい。そもそもこの世界には神聖魔法みたいなものはない。神官といっても単なる宗教者。特別な力のない彼らにどうにか出来るものではなかった。そして彼らも病に倒れてしまった。

 最後の使用者は意地を張って使い続けた。結果その王は僭王カイと同様熱病で亡くなってしまったそうだ。

 それ以来この部屋を使うものは居らずメイドが最低限の管理をしているだけ……そういう話だったけど見た感じ長い間掃除すらされていない。もう誰も来ていないんだろうな。呪われた部屋なんて誰だって嫌だよね。私は入っちゃったけど。


 話を戻すとここは王宮に在りながら忌まれて誰も近寄らない呪われた部屋。リースはこの部屋に憑いた怨霊。しかも今まで結構呪いを振りまいている。対応を一つ間違えると私もやられてしまうかもしれないのだ。気を付けないと。


『それであなたは何でここに来たの?』

「実は単なる偶然なの。今王都に滞在してるんだけど、今夜はちょっと王都の外に出かけてて。それでいざ戻ろうとしたら何故かバリアがあって……」

 経緯を適当に端折って当たり障りのない説明をした。ええ、当たり障りありません。夜中に出かけるのは淑女としてごく当たり前の行為ですが何か。トンネル掘りも淑女の嗜みです。


『そこで諦めずに一人でトンネル掘っちゃうんだ。トンネルって大勢の人夫を動員して掘り進めるものでしょう?』

 目を真ん丸にして驚くリース。こういうところは唯の子供だ。表情豊かで結構かわいい。

「私は腕力だけが取り柄だからね。腕力で解決できる道があるならそっちを選ぶよ」

『ほええ~』


 意外にもリースとの話は弾んだ。何しろ聞き上手なのだ。そして結構よく笑う。

 おかげで話すつもりのなかった話、例えば馬車担ぎに扮してクマオを助け出した話とかもしちゃったよ。思えばそっち系の話を出来る人って今までいなかったからついつい喋ってしまったのかもしれない。

 話が通じてしかも人間社会と繋がっていない相手って貴重だよね。

 クマオ? 勿論話せば聞いてくれるだろうけど、クマ語には人間社会関係のボキャブラリーが致命的に欠けてるから限界があるんだよね。


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