トンネル
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王都をぐるっと一回りしてみた。
うん。完全にバリアで囲まれているね。天辺にも穴がない。
地下も10mぐらいまであるみたい。
でも逆に言えばその下を潜れば侵入できるはず。バリア破りの定番だね。ネット小説でもよく見た。何も心配する事なんてなかったよ。
そうと決まればどこからトンネルを掘るか考えよう。
屋敷に一番近いのは東側なんだけど、そちらは一面の畑。その中を街道が貫いている。畑は大分遠くまで広がっているようだ。畑や道の真ん中に穴を掘るわけにもいかないのでその向こうからとなるとかなりの距離を掘り進めなければならない。大分時間がかかってしまうだろう。西側も同様。一先ず保留だ。
北側はちょっと下って運河になっている。船着き場までバリアに覆われているからトンネルを掘るならちょっと離れた川縁からかな。でもこちらから下手に掘ると増水したとき水が流れ込んで大変なことになりそう。土手が崩れるとかトンネルから土が流れだして仕舞いには上の建物ごと崩落するとか。水って結構怖いのだ。こっちは却下かな。
南側は一番都合がいい。王宮は王都の南端。その裏は畑になっていない。王家に遠慮したのか、日当たりが悪いからか(何度も言うけどここは南半球)、多分両方だろう。とにかくこっちからトンネルを掘ろう。
夜とは言えバリアのすぐそばで掘り始めるとさすがに見つかってしまいそうだ。
バリアを通して向こうの景色が見えている。つまりバリアは透明なのだ。しかも音も通す。来るとき王宮内の音が聞こえていたからこれも確実。
つまり身を隠せて音も届かない場所から掘り始める必要がある。
幸い1kmほど離れた所に目隠しに丁度いい木立がある。ここからトンネルを掘れと言わんばかりだ。あそこなら穴掘りの音も届かないだろうし掘り出した土が散らばっていても目立たないだろう。
あと何か問題になりそうなことはあるかな……あ、ホットスポット。
王宮の真下、地下深くには魔力が湧きだすホットスポットがある。その魔力を採集するための施設が地下にあるはずなのだ。誰かしら人がいるだろうからそこは避けないと。ホットスポットの魔力を横切るのもなんか不安だしその脇を抜けるコースでトンネルを掘ろう。
早速木立の中でトンネルを掘り始める。
両手に纏った魔力を巨大な鉤爪型にしてざっくざっくと掘っていく。
方向は魔力感知頼り。1kmも離れていると地中ではバリアはよく分からないが、その分ホットスポットからの魔力が感じ取れるようになってきた。魔力は地下深くから流れてきて、地表からある程度の位置でふっつり感じなくなる。そこがバリアの下端か魔力採集の施設なのだろう。
魔力の東側、右端をかすめる方向にトンネルを掘っていく。
鉤爪で崩した土砂が後ろに溜まっていくので魔力のピストンで地表に押し出す。
ざっくざっくと掘り進む。
掘っていく。掘っていく。
土砂が溜まってきた。よいしょと押し出す。
デカい岩だ。ガツンと砕く。
砕いたカケラは後ろに押し出す。
掘っていく。掘っていく。
なかなか進まない。
結構時間が経った気がするけどまだ1kmどころか30mぐらいしか掘れていない。穴は斜め下に掘っているのだから実質20mぐらいしか進んでいないかも。
しかも土砂を地表に押し出すのにも段々と時間がかかるようになってきた。
更に悪い事に歩くと足元からバシャバシャ音がするようになった。水だ。井戸を掘りあててしまったらしい。魔力を纏っているから滲みてこないし冷たくもないけどトンネルが水に浸かってしまったら通れない。魔力纏いのおかげで濡れはしないけど息が出来なければ死んでしまう。
どうしよう。
この国の貴族は朝が早い。夜が明けたら身支度を始め日の出頃には朝食だ。つまり夜明けには離れに戻っている必要がある。
でも今のペースではとても間に合いそうにない。
もっと城壁の近くで掘り始めるべきだろうか。でも身を隠すところがない。音も響くだろうし、何より周囲に雪が積もっている中、掘り出した土砂はとても目立つだろう。すぐさま見つかってしまいそうだ。
なにか方法がないものかと座り込んで(お尻まで水に浸かったけど滲みてこないので平気)休憩がてら考えているとある物に気付いた。
そう遠くない所を魔力の線が通っている。現在地より少し浅い場所を王都の方角に向かってまっすぐに伸びている。
それはとても幽かな魔力。植物の微弱な魔力よりさらに弱い。草の下に隠れていれば分からなかっただろう。でもここはモグラも通わぬ地の底で周囲には木の根もない。魔力と言えば1km先のホットスポットからのものしか感じられないような地面の下だ。如何に幽かだろうと不自然な魔力の線はそれなりに目立つ。なにしろ王都へ一直線に伸びているのだ。如何にも人工物くさい。
これはもしや、と線と同じ高さになるまで後戻りして、そこから横穴を掘る。
鉤爪は小さくして丁寧に掘り進む。
やがてずぼっと穴が開いて光が差し込んできた。
頭をだして覗いてみると所々に魔導灯がある真っすぐな地下通路。やっぱり! 秘密の抜け穴だ!
天井は石造り、壁は石組だ。大人二人が余裕で歩けるぐらいの高さと幅がある。
自動修復は働いてない様で壁の穴が修復される気配はない。魔力の線は多分魔導灯への供給専用、自動修復を機能させるにはパワーが足りないのだろう。
魔力を探ってみたけど人や生き物の気配は全くない。普段は使われていない、というか知っている人すらほとんど居ないんだろう。
とにかくこれで城壁内まで移動できる。
掘った穴は埋め戻さないと、と思ったけど内側から埋め戻すのは難しそう。
とりあえず穴から出てみると掘り立した土が結構な大きさの山になっていた。ここに穴を掘ったと丸わかりだ。抜け穴がバレると不味いよね。偽装工作しないと。
土を出来るだけきれいに均した上で岩を転がして押し固め、穴の入り口には大きく平たい岩を乗せて蓋にした。止めに木の上に積もった雪を落とせばあら不思議、降り始める前からこうだったかのようだ。
蓋の岩を少し持ち上げて穴に滑り込み、中から閉じる。結構手間がかかったけど魔力かんじきのおかげではっきりとした足跡は残っていないだろうしこれで大丈夫だろう、多分。きっと。
壊した通路の壁も直しておく。こちらは石組みが崩れただけだったので何とかなった。
あとは移動するだけだけど……罠ってあるんだろうか?
うーん、あるかどうか分からないし、見つけても罠解除なんて技能は持ってない。よし、どうせ通らなきゃいけないんだし漢解除でいこう。つまり罠を気にせず突き進むのだ。
魔力を普段より強めに纏い、魔力かんじきを使って無音移動!
そのまま王都のと王宮の2枚のバリアの下を抜け王宮内に入る。
そして長い階段を上って突き当りの右側。飾り気のない小さい扉に行き当たった。
壁自体から微かな魔力を感じる。ここでは自動修復が機能しているっぽい。
逆に地下にあるはずのホットスポットはもう感じられない。魔力は完全に回収されているんだろう。
罠は結局無かったか、あっても気付かなかった。多分無かったんだろう。
崩れている部分も無かった。
一か所だけ開かない扉で通路が塞がれていたけど壁から横穴を掘って通り抜けた。
枝道も無かった。つまりこの先は抜け穴の持ち主、多分王様の部屋だ。
引き返して横穴を掘ろうか。それが一番安全な方法だろう。
でも王様の部屋って少し興味がある。
ちょっとだけ覗いてみようかな。
扉の先を探ってみる。なんの魔力もない。
もしかしてこの扉は魔力を遮蔽しているんだろうか。違うな、ずっと先に二人ほどいるのが分かる。ということは本当に無人なんだ。
少し開けてみる。
真っ暗な部屋だ。隠し通路から差し込む魔導灯の明かりが絨毯の上に線を描いている。
見える範囲では戸口は閉まっているし窓も開いていないようだ。そして大分広い。
壁一面にこれでもか! と彫刻が施され天井にも沢山の絵が描かれている。正面には豪華な天蓋付きベッド。
でもこのベッド、何かおかしい。何だろう。
思い切って入ってみる。
絨毯を踏むとバフっと埃が立つ。まるで掃除されてない。
仕方ない、極力埃を立てないように魔力かんじきを使って歩こう。
慎重にベッドに近づいてみる。
おかしいと思った原因はすぐわかった。カーテンやシーツがボロボロなんだ。朽ちるに任せているようだ。全く手入れされていない。何ここ?
どういう部屋だか分からず戸惑っていると、急に後ろから何とも言えない奇妙な魔力を浴びせられた。
『あら、珍しいお客様ね』
何の気配もないのに声がする。
恐る恐る振り返ってみると……
「うっひゃい!」
半透明の美少女がいた。思わず変な声が出ちゃったよ。
『私はリース。永遠の8才で女王よ。尤も領土はこの部屋だけだけどね。他は全部取られちゃったの。で、あなたはどなた?』