表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/375

光学迷彩

評価・ブックマーク有難うございます。

 そして十日後の晩。

 ようやく安定して光学迷彩が使えるようになった私は遂に南の森へと出かけることにした。


 赤ずきんちゃんスタイルに着替えてこっそりと離れから抜け出す。

 光学迷彩は全幅5mほどになる。それ以下だと効果が落ちるのだ。因みに光学迷彩にはかなり厚みが必要なため内部のスペースは直径わずか1mほどの円筒形。でもその中でなら身動きしても外からはほぼ分からない。

 ともかく光学迷彩は嵩張る。そのため展開したままでは外に出られないのだ。開けた場所までは迷彩なしで移動する必要がある。

 でもそれは慣れたもの。何時ものように魔力感知で周囲の人の動きを把握、死角を伝って人目につかない庭木に囲まれたスペースへと移動した。


 さあ、光学迷彩の初めての実践だ。ちょっとドキドキするね。


 まずは体の周囲に円筒形に魔力を廻らし光学迷彩化。これで横方向からはほとんど見えないはず。

 次に魔力を三脚状に展開し私の体を3mほど持ち上げる。そして足の下に光学迷彩を展開。こちらは大きな半球状だ。勿論断面は上側。円筒部分ときれいに接続する。これで下からも見えなくなった。

 もし私の魔力を感知できる人がいたら、半分に切った薬のカプセルが3本足で立っているように見えるだろう。もちろん足部分はわざわざ光学迷彩にしていない。元々見えないものだからね。

 上を閉じないのは空気の出入りの為だ。光学迷彩の厚みのせいで空気があるのは体の周り、直径1mほどの空間だけだ。もし光学迷彩で完全に囲むと空気が流れずすぐ酸欠になってしまうだろう。

 光学迷彩には他にも欠点がある。外からの光や魔力が殆ど入らないことだ。

 やってくる光や魔力のほぼ全部を脇に逸らしている所為だけど、おかげで中は暗い。夜中だと暗視を使ってもまるで周囲が見えない。魔力感知も同じだ。目立つ変調放射とかならわかるんだろうけど誰かが近くにいても感知できないのだ。

 魔導灯の灯りはなんとか分かるのでそれを目印に移動することになる。どうしても位置が分からなければ一瞬光学迷彩を解けばいいんだし何とかなるでしょう。


 とにかくこれで準備が整った。


 魔力の三脚を長く伸ばしカプセルを50mほど持ち上げる。

 そこで魔力を紙飛行機型に展開。カプセルが大きいので紙飛行機もその分大きく作る。

 そして三脚を消してテイクオフ!

 目指すは王都の南の森。

 距離は馬車で一日程度。これ実は領地の屋敷からクマオの縄張りまでより近いんだよね。私の速さなら余裕で往復できる。


 眼下には殆ど灯りのない巨大都市。

 街灯なんて無いし冬だから窓を開け放している家も無いのだろう。

 あるのは夫々の坊門を照らす魔導灯。動いている灯りは警邏の人たちかな。外周の城壁を巡回している灯りも多数見える。まあこれだけあれば帰りに町を見失うことはなさそうだ。


 そろそろ王宮上空だろうか。

 王宮は王都の南端にあるので南の森に行くにはそこを通過する必要があるのだ。

 ちょっと様子を窺ってみよう。顔の周りの光学迷彩をいったん止めると……


 目の前には巨大な魔力の塊! 何これ!?


 とっさに避けようとしたけど時すでに遅し。思いっきりぶつかってしまった。

 ゴオオオオオーーン!! と大きな音と共に弾かれる。バランスが崩れた! 不味い、落ちる!!


 必死にバランスを取ってなんとか墜落は免れた。

 紙飛行機はひょろひょろと王宮から離れていく。

 振り返ってぶつかったものを見ると魔力でできた巨大な半球だ。それが王宮をすっぽり覆っている。バリアですか!?  昼間こんなのあったっけ?


 地上が急に騒がしくなった。

 カーン! カーン! カーン! と鐘があちこちで連打されているし近衛騎士らしき人影が建物からわらわらと出てきている。

 あ、見つかると不味い!


 顔の周りの光学迷彩を張りなおすのと背後に巨大な光球が出現したのはほぼ同時だった。


 大丈夫、光学迷彩で私は見えないはず。魔力探知でも分からないはず。

 私は息を詰め身動(みじろ)ぎ一つせず紙飛行機が自然に王都から離れるのを待った。




 光学迷彩越しもはっきりと見える大光球。それが十分遠くなったところで迷彩を切る。

 もう2-3kmは離れただろうか、後方に大光球に照らし出された王都が見える。

 流石にここまではその光は届いておらず、周囲は真っ暗だ。もちろん人はいないし大型の動物や魔物も見当たらない。


 ほっと息をつく。もう大丈夫だろう。

 とりあえず適当なところに紙飛行機を降ろそう。

 

 着地したのは畑の上。着地の瞬間紙飛行機を魔力かんじきに変える。足跡を付けないように、そして畑を踏み荒らしちゃわないようにだ。

 見た目には刈り取られた麦の根元が残っているだけの薄っすら雪化粧した冬枯れの畑,。とても寒々しい景色だ。だけど秋に種まきが終わっているはず。普通に歩いても問題ないような気もするけど一応気を付けないとね。


 改めて王都に視線をやる。

 注意するとさっきのバリアの魔力がはっきりと分かった。なんでいままで気付かなかったんだろう。昼間は消してるんだろうか。

 見ているうちに城壁の上の灯りがどんどん増えてきた。近衛騎士が総動員されたのかもしれない。迷惑をかけてしまった。ごめんなさい、と心の中で謝る。

 そのまま暫くじっと観察を続けたけど城壁から出てくる人はいない。どうやら光学迷彩がちゃんと効いてたみたいだ。一安心。


 出がけにちょっとだけしくじっちゃったけど予定通り南の森へ出発だ。

 今直ぐ王都に戻ると見つかる危険が高そうだからね。時間を置いて警戒が緩んでからの方が安全だろう。

 ふわりと飛び上がって魔力の紙飛行機を再構成。南に向けてスイーーっと滑空する。星が出てるからちゃんと方角がわかるよ。王都の南西に出ちゃったから少し軌道修正して、スイーー。うーん、顔に当たる冷たい風が気持ちいい。

 嵩張る光学迷彩を張っていないので視界良好。闇夜だけど暗視を使ってるから夜空に淡く輝く光道と星の光で十分よく見えるし魔力感知で周囲の動植物はきっちり確認できる。

 よく見えるから木にもぶつからずラクラク移動だ。

 それに比べて光学迷彩を使っていた時は暗すぎて周りがほとんど見えなかった。昼間なら大丈夫かもしれないけど夜は無理だ。今日みたいな事故が起きてしまう。やっぱり夜の視界の問題をなんとかする必要があるな。


 そして南の森に着いたのだけど……成果は芳しくなかった。

 植生はエーコ領と大して変わらない針葉樹の森なのに、生き物の種類が違うのだ。

 まずブレイズベアどころか大型の魔物がいない。冬なので冬眠しているのか、そもそも王都の近くだから狩りつくされたのか。

 しばらく森をうろうろしたけど遊び相手になりそうな魔物はまるで見つからなかった。

 唯一オオカミ系の魔物の一家と出会ったけど向こうは食べられない相手と遊ぶ気はないらしく、一度齧ってみて文字通り歯が立たないと分かるとさっさと行ってしまった。残念。

 体力は十分だし魔力纏いのお陰で全然寒くもないけど遊ぶ相手がいないならしょうがない。

 今日の所は諦めて帰ろう。


 そう思って王都の近くまで戻ってみると……


 城壁の灯りは大分少なくなってる。だいぶ人が減ったようだ。

 それはいい。目論見通りだからそれはいいんだけど代わりにバリアの魔力が二重になってる。具体的には王宮のはそのままで、もう一つが王都をすっぽり覆っている。


 どうしよう。帰れない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ