前置き長いよ
評価・ブックマーク有難うございます。
「こちらの方はエーコ子爵のご息女フレン様です。こちらは元魔法騎士団員で退役後にこの村で猟師をしている騎士クルトと、その息子で同じく猟師をしているアルント君です」
「クルトと申します。お目にかかれて光栄です」
「り、猟師のアルントです……」
「エーコ家のフレンです」
丁寧に挨拶するハンターその1だけどこちらを値踏みするような鋭い目つきだ。一方でその2は思いっきり緊張している。いきなり貴族の前に呼び出されて困っているんじゃないかな。私も急に来られて困っているよ。一緒だね。
「実はお二人をお呼びしたのは他でもない、馬車担ぎの話をフレン様にして差し上げて頂きたいのです」
「えっ! フレン様馬車担ぎに興味あるのか!……ですか?」
意外にもアルントが目をきらきらさせて食いついてきた。この危険な話はとっとと終わらせたいんだけど、ここで「別に?」なんていったら酷く落ち込んでしまうだろう。それに「馬車担ぎと無関係なフレン」なら話を続けるほうが自然だ。
「ええ、宜しければ聞かせて下さい」
「それじゃ失礼して……コホン!
もう何日も前の事だ…ですが、森でブレイズベアの痕跡が見つかったんだ…です。
フレン様はブレイズベアを知ってる、ええと……ご存知ですか?」
「はい、本で読んだ事があります。それから話しにくいようなら普段の話し方でいいですよ」
「ああ、有り難い。ではそうするよ。
で、知っているなら話は早い。ブレイズベアの爪痕がかなり村に近いところで見つかったんだ。縄張りを主張する爪痕がね。やつらが近くにいると危なくておちおちキノコ狩りにも行けやしない。それで親父と俺とで退治する事になった。
危険だといっても所詮はブレイズベア、俺達は十分狩れる自信があったし、ついでに毛皮と肉を結婚祝いにスージー達に贈ってやるつもりだった。
朝森に入って足跡や爪痕なんかを頼りに件のブレイズベアを追跡し、その日の午後にはもうやつを見つける事が出来た。俺達の腕もあるが、それ程近くにいたんだ。
で、そのブレイズベアだが、今まで見た事もないほど大きいやつだった。立ち上がって腕を振り上げたらあの神殿の屋根の天辺にとどきそうな位の大物だった」
神殿の屋根を見ると少なくとも10mはある。クマオはさすがにそこまででかくないぞ。体長も5m無いぐらいだったし腕を振り上げても8mに届くかどうかだ。大分話を盛ってるね。
「だが俺達には少々大きいぐらいなんの障害にもならない。やつは火の玉を吐き、炎を纏って襲い掛かってきたがその攻撃は俺達には届かなかった。逆に俺達にはいい状態の毛皮が取れるように配慮する余裕すらあった。
どうやって毛皮をいい状態のままにしておくか? 弓だのなんだので攻撃すると穴だらけになってしまう。だから投石や魔法で打撃を与え続けて体力を削っていくんだ。同時にどんどん炎を使わせて魔力切れも狙う。で、相手が動けなくなったところで一太刀で倒す。傷は一箇所だけ。そういう寸法だった」
それであの時はひたすら投石器なんかで攻撃していたのか。
「唯一つ予想外だったのはやつのタフさだ。いくら攻撃しても全然堪えない。魔力も切れない。普通なら日暮れ前には決着がつくはずのところが日がとっぷり暮れてもやつはまだ暴れまわっている。いくら攻撃しても悲鳴一つ上げない。
もちろん俺達は全く攻撃を受けていなかったし体力も朝までだって持つ。でもやつの底の見えない暴れっぷりを見ていると、もう毛皮は諦めて退治に集中したほうがいいんじゃないか、そんな思いが頭を過ったこともあった。
でも俺達は諦めることなく延々とやつの体力魔力を削り続けたんだ。削って削って削って……そしてその時が来た。遂にやつがその場に倒れこんだんだ。
さあこれで狩りも終わりだやっと止めが刺せるとほっとしたところで俺達は不思議な体験をしたんだ」
やっとか! 前置き長いよ! ていうかほぼ狩りの自慢だよね。
「やつの驚異的なスタミナの所為で、その時にはもう夜もかなり更けていた。夜の森には当然灯りなんかないから、日暮れからずっと親父が光球魔法で辺りを照らしていたんだ。知っているかもしれないが光球魔法は宙に浮いた光の玉が発光する魔法だ。一度発動すると籠めた魔力の分だけ長く光り続ける。そして消えるときもゆっくり暗くなって最後に見えなくなるものなんだ。
その時の光球は一晩ぐらいは軽く持つはずだった。
だというのにその光がいきなり消え、辺りが一瞬で闇に包まれた。
続いてズン!! という重たい音がしたんだ。ブレイズベアの方からだ。何が起こったんだと目を凝らして見ると、いつの間にかブレイズベアと俺達の間に居たんだ、『それ』が」
うん、やっと怪談らしくなってきた。