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この世界は思ったよりずっとヤバイ所だったみたいだ

本日4連投(4/4)

 入ってきたのはメイドのカリンだ。

「フレン様、今すぐ逃げなければなりません!」

 そういいながらカリンはクローゼットに向かった。

「カリン、いったいどうしたのですか?」

 ベッドから降りながらカリンに問いかけている間に開け放たれたドアから男性が二人入ってきた。一人は見知った衛兵さんだけどもう一人は知らない顔だ。見慣れない革鎧を着ているところをみると何処かの兵士なのだろうか。


「緊急時ゆえ失礼します!」


 衛兵さんはそれだけ言うともう一人を連れて真っ直ぐ窓に向かい、躊躇なく窓を塞ぐ板を跳ね上げ()()い棒で固定した。この部屋の窓は小さなのが二つ。二人はそれぞれ別の窓につき、こちらには目もくれず「合図があったら攻撃魔法を」「了解」などと話し始めた。

 窓の外を見ると、庭園の先の荒地の真ん中で太陽と見まがうばかりの白光が煌々と輝き遠くの森を照らしている。

 その森から何かがうぞうぞと出てくるところだった。人の集団? じゃなくてゾンビの団体さん!?

 森から溢れ出すようにゾンビっぽいものが出てくる。多分何百とか何千じゃきかない。どれだけいるのか見当もつかない。


「『Z』が押し寄せてきています。領兵や魔法騎士団の皆様がきっとやつらをやっつけて下さいますが、お嬢様方は念のため安全な所まで逃げなければなりません」

 カリンは説明しながら私に上着を着せ掛けた。パジャマの上からだ。

「さあ行きましょう。ミリア様も一緒ですよ」

 そのまま手を引かれて馬車に乗せられた。大型の箱馬車だ。ミリアお姉様はもう乗っていて、私とカリンが乗り込むとすぐさま走り出した。

 馬車に乗っているのは私たち姉妹2人とメイドさんが2人。ヴォルフくん達は下の村に住んでいるのでここには居ない。

 後ろを見ると屋敷の向こう側が光っている。あちらが戦場なのだろう。やがて戦闘が始まったのか爆発音が立て続けに聞こえ始めた。


 馬車は下の村を通り過ぎてどんどん進む。真夜中だというのに道には避難する村人の列がずっと続いている。灯りを持った兵隊さんが誘導しているみたいだ。ロッテさんやヴォルフくんもあの中に居るのだろうか。暗くてよく見えない。


 この世界は思ったよりずっとヤバイ所だったみたいだ。




 気が付くと馬車は止まっていた。いつの間にか眠ってしまっていたようだ。日はすっかり高くなっている。


「おはようフレン。よく寝ていたね」

 ブラインお兄様に声をかけられた、というかお兄様の膝枕で寝てた! 慌てて身を起こす。

「おにいさま! かえっていらしたのですね!」

「まずは『おはよう』だろう?」

 お兄様がしかつめらしく窘める。

「おはようございます。おにいさま。それとおかえりなさい」

「ただいまフレン」

 よくできました! とにっこりするお兄様。美少年が微笑むと途端に景色が明るくなる。キラキラしたエフェクトが見えるようだ。


 馬車の中を見回すと他にはミリアお姉様とメイドのカリンだけだ。

「おはようございます、おねえさま。カリンもおはよう。おとうさまとおかあさまは?」

「おはようフレン。もうちょっと早く起きていたらお父様やお母様に会えたのに、残念ね」

「旦那様と奥様は隣町に到着したところで『Z』が現れたと聞き、ブライン様を連れて夜通し馬を駆って戻られたのだそうです。お二人はそのまま屋敷の方へと戻られました。少し前のことでございます」

「お父様から伝言だ。『私たちは貴族として『Z』と戦わねばならないが、お前たちはまだ幼い。万一にそなえてこの町で待っていなさい。何日かしたら迎えをよこすから。愛しているよ』」

 さらっと子供に「愛している」なんてどこの西洋人!? 嬉しいのだが前世日本人だった時の感覚が抜けきっていない私は思わず身悶えてしまった。

「泊まる場所の準備ができるまですることがないから、眠いなら寝ていてもいいよ」

「もうめはさめました。それよりおにいさま。おしえてください、『Z』」とはなんなのですか」

「いいとも。『Z』というのはね……」


 お兄様(それとお姉様も)が説明し、カリンが補足してくれたことで概略が分かった。


 『Z』というのはここ数百年にわたり人類を脅かしている災厄とでもいうべき存在らしい。時々思い出したように群れで押し寄せてきて人や動物を襲い、土地を占拠する。

 遠目に見た印象はゾンビだったがどちらかというと泥人形のような見た目らしい。ゾンビのように感染したりもしない。(ついでに言うとこの世界にゾンビは実在しない)

 厄介なのは群れの大きさだ。

 『Z』は力が強くなかなか死なないが技術も知能も無い。だから一対一なら鍛えられた魔法騎士は負けることがない。十対一でも対処できる。でも群れの大きさは数百数千、時には数十万にも上るらしい。

 しかも何時来るか何処から来るか事前には察知できないのだ。

 勢い魔法騎士は広い範囲に分散して駐屯せざるを得ない。そして襲撃に対しては現場に急行できる人員だけで対応するのだ。だから数千の『Z』を数十人で防ぐ、なんて事も珍しくないのだそうだ。


 『Z』は「『Z』の領域」と呼ばれる所からやってくる。「領域」はとても広い。この国の国境の東側は全て『Z』の領域だ。そこは白い石のような木、もしくは木のような石である石樹だけの森になっていて普通の生き物は雑草も含め一切存在しない。 

 エーコ家の屋敷の東にある森、その向こうに大きな川が南北に流れている。そこまでがエーコ領。川が国境で対岸はもう『Z』の領域、石樹の森が何処までも広がっているそうだ。今回の『Z』もそこから来た。

 小規模な襲撃は時々あるけどそういうのは川沿いの砦に詰めている魔法騎士団が水際で撃退しているらしい。

 でも極稀に今回のような大規模な侵攻がある。そうなると食い止めきれずに領地の中に入り込まれてしまう。そういう場合は近隣の魔法騎士と領兵を結集、『Z』を都合のいい場所まで魔導具でおびき寄せ集中攻撃して殲滅するのだとか。


 もし殲滅できなかったらどうなるか。

 ひとたび『Z』に占拠された土地では植物も枯れてしまい、『Z』以外生きていけなくなる。やがて石樹が生え始め、そこまでいくと並大抵のことではその土地を人類の手に取り戻すことはできないらしい。

 なにしろ石樹はやたらと頑丈なうえに魔法だの魔力だの魔素だのを吸収してしまう。攻撃魔法は効かないし近づいただけで魔力を吸われてしまうらしい。それだけならまだしもある程度吸収するとそれを使って『Z』を生み出してしまうそうだ。

 だから『Z』が襲ってきたら、素早く確実に殲滅しなければならない。失敗すればその分国土が失われるのだ。

 何百年にもわたり人類が住む領域は徐々に『Z』によって狭められ続け、かつて大陸全土に暮らしていた人類、というか生き物全ては今や大陸の西側へと追い詰められているのだという。つまり大陸の大部分は既に『Z』の領域なのだ。


 やっぱヤバイわこの世界。

読んでいただき有難うございます。

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