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クマ語のスキルが生えた気がする

評価・ブックマーク有難うございます。

 エーコ領の屋敷に戻った日の晩、なんだか寝付けなかった私は森の奥へと半年ぶりに出かけた。久しぶりに思いっきり体を動かそうと思ったのだ。

 そしていつもの所でクマ君を見つけた。


 「クマ君お久しぶりです。お元気でしたか?」


 声をかけてみるが反応が以前と違う。前は面倒くさそうにしながらも相手をしてくれたのに、今日はプイっと顔を背けたのだ。

「えーっと、しばらく来なかったので怒っているのですか?」

 聞いてみたけど答えは無い。(あたりまえか) それどころか構っている暇はないとばかりに背を向けたのだ。


 その拍子にクマ君の体から小さいのが2つ出てきた。

 いままでクマ君にくっ付いていたので気付かなかったが、たしかに小さな(あか)っぽい魔力が2つ。暗闇の中、目を凝らしてよく見ると――

 子熊だ!

 子熊がいる!!

思わず近づこうとするとクマ君が「グアアッッ!!!」と威嚇してきた。殺気が強く籠もった強い拒絶だ。まるで子熊を守る母熊みたい。

 って母熊!?

 クマ君ってば実はメスだったの!? でもって子供が出来た!? えええええええーっ!!


 ちょっと落ち着こう。

 クマ君が実はクマちゃん――だとちょっと可愛すぎるな、クマ姐さんと呼ぶ事にしよう――だった。これはいい。私がオスだと思い込んでいただけでちゃんと性別を確認してなかったのだから。

 クマ君改めクマ姐さんは子供を産んだ。相手は何処の馬の骨だ!……ってそうじゃない。クマちゃんは相手を見つけて妊娠、出産した。

 生まれたのは2頭の子熊……きっと可愛いに違いない。 でも暗くてよく見えない、もっとよく見たい!


「白き灯よ!」


 目の前に小光球を出す。子熊ちゃん達は驚いてクマ姐さんの影に隠れてしまったが、それでもキュートな姿が一瞬ハッキリと見えた。クマ姐さん譲りの赤茶の毛皮。触ったらきっとモフモフだろう。あ、顔を出してこっちを窺ってる。ああ可愛い。抱っこしたい。


 しかしクマ姐さんは頑として私を子熊ちゃんに近寄らせてはくれなかった。

 少しでも近づこうとすると

「グアアッッ!!!(アタイの子に近づくんじゃねえっっっ!!!)」

と怒鳴るのだ。もうクマ語を知らなくても何言っているのかハッキリ分かるレベルの意思表示だ。


 さてどうしよう。

 餌付け? 仲良くなるには一番だけど、下手に餌付けして人里に降りるようになっても不味いから却下。

 睡眠魔法……は犯罪チックだから回避。やっぱり誠心誠意頼むしかないだろう。


「お義母(かあ)さん、お子さんを私に下さい、きっと幸せに……じゃなかった、お子さんをちょっとモフらせて下さい!」

「グアアッッ!!!(アタイの子には指1本触れさせねえ!!!)」

「そこをなんとか! モフるだけです! 他には何もしませんから!」

「グアアッッ!!!(ダメだ! 帰れっっ!!!)」 


 はい、ダメでした。

 頑なに拒否された。残るは説得(物理)ぐらいだけど、流石に子育て中の母熊と拳で語り合う訳にはいかない。残念だけど今日のところは諦めよう。


「分かりました。今日は帰りますね。また近いうちにお邪魔します」

「グアアッッ!!!(二度と来んなっっ!!!)」 


 クマ語のスキルが生えた気がする。気のせいだろうけど。




 クマ姐さんの種族はブレイズベアというらしい。

 口から火球を吐くだけじゃなく全身を灼熱の炎で包む事が出来るのか。やっぱりいつもは私に付き合ってくれてたんだね。毛皮には高い耐熱性があり、それを目的に人間に狩られることもある。雑食だけど、魔物の常として魔素が十分なら食事をそれほど必要としない。ふむふむ。好物はハチミツ。ここは前世のクマと一緒だね。気が荒く、特に子育て中の母熊には要注意。うん、知ってる。冬眠に関する記述はなし、と。


 今私は書庫でクマ姐さん達のことを調べている。もちろん子熊ちゃんたちと触れ合う方法を見つけ出すためだ。

 今回はちゃんとお父様に許可を貰っている(目的は誤魔化したけど)ので今は昼間。灯り無しでも本が読めるのはありがたい。

 それ以上にありがたいのがお目付け役で付いてきているスージーだ。スージーはここ数年色々勉強しているので分からない事を教えてもらえたり出来るのだ。

 以前タイトルすら完全には読めなかった「魔術書」についても教えてもらえた。「セリストとミルの魔術書」と読むらしい。(ただの人名だった……) 九百年以上前の高名な魔術師二人の共著だ。ただし原書の写本ではなく六百年ぐらい前に古代語から当時の言葉――今となっては古語だけど――に翻訳したものらしい。表記法も当然その時代のもので現代のそれとは多少違う。六百年前というと現代日本からみて室町時代か。そりゃ読めなくてもしょうがないよね。

 それにしても古代の魔術書か……私の体質を克服するヒントがあるだろうか。あるかもしれない、いやきっとある。何しろ大抵の異世界物(当社調べ)では魔術は古代の方が進んでいるのだ。きっと見つかる。

 書庫に「王国式呪文全書」があるのも見つけた。前に探した時には背表紙の文字が擦り切れていたので見落としていたらしい。しかも“王国式”の所までは何とか読めるので中身も確認しなかったのだろう。呪文に王国式だの帝国式だのがあるなんて思わないよね、普通。

 それにしても擦り切れるほど読むなんてきっとご先祖様達もこの本で苦労したんだろう。でも呪文はともかく魔法自体は「魔術大全」に全て載っているので必要になるまで放置だ。

 そういえば「魔術大全」の読めなかった魔法のタイプも分かった。(こっちは授業の時アンリ先生に聞いた) 「時空」だ。

 何と「時空」! 転生者の必須魔法「収納」とか「転移」とかがあるに違いない。時間巻き戻し魔法があれば回復魔法の代わりに使えるかもしれない。ついに来た!


 でも今は後回し。まずは子熊ちゃんだ。子熊の時期は短いのだ。


 魔物の生態に関する本を始め畜産の本だの開拓記だの関係ありそうな本を探しては拾い読みしているのだけど、なかなかいい情報に行き当たらない。ググったりヤフったりしたい。出来れば一発なのに、今は自分で見つけ出すしかない。


 餌付けしちゃうと人間はエサをくれるものと覚えて人里に来ちゃいそうだし、そうなると駆除対象にされてしまうだろう。

 睡眠魔法その他で同意なくモフるは私のモフり道に反する。

 とりあえずこの前は小光球で子熊ちゃんたちをビックリさせちゃったから暗視の魔法を練習しないと。これはもう「魔術大全」で見つけてあるので後は練習あるのみ。


 あとは……一体何をしたらいいんだろう。


 今までは私が一方的にちょっかいをかけ続けていただけの関係だった。そこから適度な距離感を持った、でもモフらせてもらえる関係に――いかん、言葉にすると不可能事にしか思えない。

 テンプレだと冒険者に狙われたクマ姐さん一家を私が颯爽と助ける――なんて展開になるけど、実際にはまず起こんないよねそんなの。

 それに魔封じされた状況ならともかく相手が魔法を使ってきたら勝てるかどうか分からないし、そもそも領主の娘である私が魔獣の味方をしたら問題になりそうな気がする。

 大体あの森って立ち入り禁止だったりしないのかな、と思ってスージーに聞いたら知っていた。開墾や定住は禁止だけど狩りや採集に行くのはOKなんだって。

 やっぱり領主の娘が狩りをジャマするのは問題ありそうだ。正攻法で仲良くならないと。


 何日書庫を探してもいい情報に行き当たらず、そうこうしているうちにそれ所ではなくなってしまった。重大事件が発生したのだ。


 ある日トニーがスージーと連れ立ってやって来てこう言った。

「スージーとの結婚を認めて欲しいっす!」


 ええええーーーっっ!!


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