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妖怪「馬車担ぎ」の所為なのですってか?

評価・ブックマーク有難うございます。

今回、多少残酷な描写があります。ご注意ください。

 この世界には日付を7日で区切る「週」という単位は無く、代わりに「(じゅん)」という10日区切りの単位を使っている。上旬・中旬・下旬の旬だ。

 捜査から裁判まですべて終わったのは事件から2旬後、つまり20日後だった。前世だったらスピード結審もいい所だけどこの国では長引いた方だとか。


 時間がかかったのは複数の貴族家が絡んでいたのと今回新たに表沙汰になった別の事件を一緒に審理したためらしい。さらに善後策やら警備体制の見直しやらも同時並行でやったのだそうだ。もちろんその裏で派閥間の暗闘があったことは想像に難くない。


 ともかく大審院の場で国王陛下が沙汰を下し今回の事件は決着した。

 大審院に出席できるのは爵位持ちの貴族のみ。うちではお父様だけだ。

 お父様は家族で情報を共有すべきだと考えたのだろう。全員を集め事の次第を説明した。


 『Z』によるテロ事件の主犯は王妃派のリタリエ男爵とその父の前男爵、それと亡くなった男爵夫人の弟、つまり義弟の3人。

 その3人に加え第一王子派のアトロス子爵という人物も裁かれた。2年前のシャドウクーガー事件、リタリエ男爵達がテロを起こすそもそもの動機になった事件の犯人としてだ。


 アトロス子爵って誰? と思ったら私が盗賊に襲われそうになった土地の領主だった。

 アトロス子爵はカイケー伯爵家から観賞用シャドウクーガー(避妊手術済み)30頭を買い取りリタリエ家に(けしか)けたのだそうだ。

 あんなでかい魔獣をどうやって十頭単位で運び込んだんだろう、と一瞬疑問に思ったけどそういえばやつらは眠らせると“影化”で平べったくなるんだった。毛皮状態ならこっそり運び込むのも難しくなさそうだ。

 4年前シャドウクーガー20頭で私たちを襲ったのも子爵だと判明した。

 私を誘拐させようとしたのもコイツ。誘拐後は私の予想通り誘拐犯諸共殺すつもりだったそうだ。

 どちらも動機は嫌がらせのため。お父様達が第一王子派にとって邪魔な地位にいたので嫌がらせをして折れるか暴発するかさせようとしたのだとか。折れて軍門に降ればよし、暴発すればそれを理由に派閥の力で排除できる。どちらにせよその功績で派閥内での地位が向上する、という図式だったらしい。


 結果的にその目論見は外れ、因果が巡って本人にとっては最悪の形で報いが来た。

 背後関係を示す証拠が見つからなかったのでアトロス子爵が主犯とされた。カイケー伯爵家が裏で糸を引いていたらしいのだけど、まるで証拠が見つからなかったのだそうだ。


 アトロス子爵の顛末を聞いている間、お兄様が見たこともない般若のような形相をしていた。

 どう見ても「ざまぁ」って顔じゃないよね。怒り?悲しみ? 普段あまり感情を表に出さないお兄様のむき出しの情念に戸惑う。

 お兄様と子爵の間に一体何があったんだろう。気になるけどお兄様はその手の事は教えてくれないんだよなぁ。

 お母様が心配そうにお兄様を見ている。何か知っていそうだけど……


 尚、犯人をアトロス子爵と特定するのにうちにいる元誘拐犯、ボブとトニーの証言も役に立った。というか何年も前からその証言を元に捜査を進めていたらしい。

 そしてその捜査の過程で子爵と領兵が副業で盗賊をやっていたのも明らかになったそうだ。

 獲物を探すのも警備に当たっている領兵。目撃されないように適当な理由をつけて通行を規制したり魔物の襲撃に見せかけたり、通行記録を改竄して襲われた人たちが領の外に出て行ったかのようにも装ったりもしていたらしい。襲撃の頻度も少なめにしてその分「確実で美味しそうな獲物」を厳選していたとか。万が一逃げられて役所に訴え出られた場合でも討伐に出向くのは領兵。そりゃ発覚しないよね。

 最近は「馬車担ぎ」の噂を流して隠れ蓑にしようとしていたそうだ。旅人が行方不明になるのは妖怪「馬車担ぎ」の所為なのですってか? 


 実はこのファンタジーな世界にも怪談は存在する。

 例えば王宮には有名な「リース女王の怨霊」なんていう怪談がある。僭王カイに全てを奪われ8才で毒殺されたリース女王。彼女は怨霊となって今も自室に留まり侵入する不遜な者たちに呪いを与えるのだとか。

 もちろん眉唾物とされていて前世と同様良識的な人は信じない。私も信じない。その部屋に泊まれと言われたら全力でお断りするけど。

 ともかくアトロス子爵は怪談のその胡散臭さを利用しようとしたらしい。最近行方不明が増えたという噂が立ったのでその信憑性を落とすために噂を怪談に作り変えようとしたのだ。「見た」という部下、というか手下の話を聞いて思いついたんだって。一体何を見たんだろうね。ワタシ知ラナイナァ。

 それはともかく今まで証拠が見つからず捜査が行き詰っていたのだけど、今回強力な捜査権が与えられたので屋敷(ヤサ)強制捜査(ガサいれ)したところ「たまたま」証拠が見つかったんだとか。


 話をリタリエ男爵に戻すと、ホールの天井に仕掛けを施すことが出来たのは王宮勤めだった義弟が手引きしたかららしい。

 男爵たちは『Z』を閉じ込めておくためにアダマンタイトで内張りした筒を多数用意。『Z』のカケラを封入し時限装置をつけてパーティーの最中に中身を天井裏に出すようにしたのだそうだ。『Z』のカケラは天井材を吸収して体を再構成、そのまま落ちてくるというシンプルな仕掛けだ。

 その数全部で243個。それをたった3人で夜な夜な設置していったそうだ。

 男爵の王都屋敷からは装置をテストするための設備も見つかった。そして屋敷のほかの部分はほぼ空っぽ、使用人もいなかったそうだ。売れるものは全て売り払って計画のための資金にしたんだとか。

 なんというか、執念である。

 なかなか魔封じが解除されなかったりホールの大扉が異常に早く閉められたりしたのは男爵の義弟の仕業だった。かなりあちこちに出入りできる役職だったそうで予め封魔装置の制御盤に細工をし、元々閉め切っていた脇の扉はかっちり施錠しておき、事件当時はホール入り口で待機していて速攻で正面の大扉を閉めたそうだ。閉める決断が異様に早かったのはそういうわけだった。通用口を放置したのはその方がパニックが激しくなるからだって。

 事実、落ちてきた『Z』による怪我人より避難中の押し合いで大怪我した人の方が遥かに多かったそうだ。


 最終的にリタリエ男爵側は主犯3人と事情を知って協力していた魔導技師等の合計6人が腰斬。一方のアトロス子爵は余罪が積みあがって23人が火刑と決まった。

 リタリエ家が少なくアトロス家が多いのは少人数で陰謀を進めた者と家を挙げて後ろ暗い稼業を行っていた者の差だそうだ。一方リタリエ家の罪の方が重いので苦しみがより長く続く腰斬刑になったとのこと。

 両家とも断絶となり、夫々の所領は国に接収されることとなった。


 その他にも関係者が色々と処罰されたらしい。知った名前だと近衛騎士団のレンヤ十士長が責任を取って騎士団を去ったそうだ。あの人別に悪くなかったと思うんだけど……


 判決を下した王様は「怨みに報いるには徳を以ってせよという。既に罪は罰せられたのだ。この上は復讐に復讐を重ねるような真似は慎むように」と仰ったとか。いい加減派閥争いはやめてほしいんだろうね。


 でもあまりお父様には響かなかったみたい。話は第一王子派との勢力争いの現状に移っていった。


 お父様の解説によると、勢力争いの観点からは一見両者痛み分けのように見えるけど実は第一王子派の勝ちなのだそうだ。2つの領地に派遣される行政官が2人共第一王子派だかららしい。

 リタリエ領は主要街道からは外れた位置にあるのでそこまで大きな負けではないとか何とか。


 くだらない。


 盗賊をしていたアトロス子爵はともかく、リタリエ男爵は勢力争いがなければテロなんて起こさなかったのだ。

 誰が次期国王になろうが構わない、とは言わない。言わないが第一王子と第二王子はまだ子供と赤ちゃんだぞ。どっちが国王に向いているかなんでまだ分からないだろう。こう言ってはなんだけど第二王子なんて育つかどうかすら分からないのだ。

 そんな状態で王太子を決めるなんて私利私欲のため以外にどんな理由があるというのか。国のためでも民のためでもない、そんなものに巻き込まれて人が死んだり怪我したりしているのだ。やるせない。

 大体人類は『Z』に圧迫されて大陸の西側に押し込められているのではないのか。そんな状態で何で内輪で争えるんだ。


 そんなモヤモヤした気分を抱えながらエーコ領への帰路に就いた。家族皆でだ。処刑は見なかった。街道は解け始めた雪でぐちゃぐちゃだった。


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