こんな夜更けに一体誰だろう……ってこのセリフもしかしてフラグ?
本日4連投(3/4)
夜、書庫に忍び込む。
書庫は、鍵こそかかっていないもののお父様の執務室の隣。普段なら気付かれずに入り込むのは難しい。
しかしチャンスが訪れた。両親とお兄様が王都に出かけたのだ。しかも何人ものメイドや執事を伴って。
一気に屋敷の人口密度が下がったのだ。ここは行くしかない!
夜中に忍び込むところまではうまく行った。灯りの魔導具も持ち込めた。
しかし教本が見つからない。いきなり躓いた。
原因は簡単。私のボキャブラリーが貧困すぎるのだ。本のタイトルの発音は分かる。でも意味が分からない。こんなところに落とし穴があったとは……やるな異世界。言語チートが切実に欲しい。
仕方が無いのでまず辞書を探し出し、タイトルの意味を調べるところから始めなければならなかった。
一番分厚いのが辞書! という推測が当たり、辞書は直ぐに見つかった。
次はタイトルの把握だ。「魔法」という単語だけは分かるのでそれが入ったタイトルを片っ端から調べた。
見出しシステムは前世の国語辞典と同じだったので多少楽だったけど説明文自体にも分からない単語が多く、ひたすら単語を引くだけで気力の限界が来る。3才の子供の体なのであまり起きていられないのだ。
昼はメイドさんの誰かがいつも見ているし、午前中は勉強の時間、午後は子供同士で遊ぶので調べ物は出来ない。
一緒に遊ぶのはまずヴォルフくん。それに王都に行かなかったお姉様とその乳兄弟や年の近い使用人の子供達だ。
子供同士で過ごす時間も大切なのだ。子供らしさを学ぶ上で重要だし、全力で動き回るのは体力づくりのために必要だし、体を動かすのは純粋に楽しいしね。もしかして私の精神年齢、転生直後より大分下がっているかも。
勿論遊んでいる最中もずっと魔力をぐるぐるしている。しかし何の効果も感じられない。感覚が鋭くなるわけでもなく、足が早くなるわけでもなく、スタミナがアップするわけでもないのだ。やはりちゃんと調べないとダメだ。
幸い両親は王都に行っているためしばらく帰ってこない。片道20日程度、向こうで2~30日程度の予定。余裕があるといえばあるが、ぼーっとしているとあっという間に過ぎてしまう、そんな長さだ。
だから気合を入れて夜の書庫探索を頑張った。それはもう頑張ったのだ。
何度か書庫の中で眠ってしまいそうになったこともあった。しかし書庫に出入りしている事がばれて万が一鍵でもかけられたら詰んでしまう。だから気合で廊下の、トイレの前まで移動した。トイレに起きて寝落ちというストーリーだ。部屋にもトイレはあるんだけど寝ぼけていた事にした。
そして遂に! 教本に使えそうなのを見つけたのだ。しかも三冊も! どうも初心者向けは無い様で三冊とも理論書だ。流石に一冊でも読みこなすのはまだ無理そうだけど、目次を見て拾い読みしてなんとか練習方法を推測しよう!
ちなみに両親の帰宅予定日はもう明後日だ! なんかもう余裕がないぞ!
何故こんなにギリギリになるまで見つからなかったか。答えは簡単。本のタイトルに「魔法」が入っていなかったから。
「魔術大全」「魔導概論」「■■■■■(意味不明)の魔術書」……なんで素直に「魔法」と書いてくれないんだ。意味大して変わらないじゃないか。
因みに「魔術書」だけが手書きの写本だ。もしかすると超貴重な文献かもしれない。汚さないようにしないと。
「魔術大全」のタイプ別索引をみて、どんなタイプがあるのか調べる。
放出、強化、魔力体、■■(意味不明)、複合……「炎」とか「風」とかじゃないの? 意味の取れないタイプは何なんだろう。辞書に載ってはいるけど、その説明がさらに意味不明。中身を見てもよく分からない。とりあえず無視しよう。放出は攻撃魔法っぽい。属性魔法はこの中だろうか。強化はそのまま。魔力体は魔力を実体化? 複合はそれらの組み合わせ。ふむ。目標が「死なない」なので覚えるのは強化、しかも身体強化一択だ。
回復魔法とかがあったらそっちでも良かったんだけど見つからなかった。意味の分からない部分に書いているのか、それとも僧侶しか習得できない系なのだろうか。そういえば回復魔法を教会が独占している、という異世界物もあったっけ。
ともかく身体強化だ。
まず「魔術大全」……ふむふむ、まず体の丈夫さを上げて、その上で力を上げると。順番を間違えると、体が、ええと……力に耐えられず、かな? 力に耐えられず死ぬ。(こええ~) 必要な魔力のヘンチョウは……ヘンチョウって何? 辞書を開く。……変調、魔法用語では…魔力を目的に応じてヘンシツ……変質させること! これか! 足りなかったのは!
普段はもう眠くなっている頃合いだが今日は目が冴えている。まだまだいけそうだ。
変調の仕方は辞書には載っていない。「魔術大全」にもない。「魔導概論」には……あった! でも分かりにくいな。最初から順に読めば分かるように出来ているのだろうけど、そんな事をしている暇は無い。三冊目の「魔術書」もチェック……うわぁ、あるにはあるけどもっと訳分からない。というか知らない単語のカーニバルだ。もうお手上げ。両手を上げて、踊る阿呆に見る阿呆……大分ハイになってるな私。気を取り直して「概論」を読もう。
二冊の本と辞書を行ったりきたりしながら読み進めていると、外から馬の嘶きが聞こえてきた。
今まで毎晩夜更かししていたのに屋外の物音を聞いたのはこれが初めてだ。こんな夜更けに一体誰だろう……ってこのセリフもしかしてフラグ? 「窓に! 窓に!」とかと同じでお話が終わっちゃうやつ!? でも口に出してないからセーフ!!
きっとお父様とお母様が早めに帰りついただけだ。そうに違いない。確認するには窓……怖いよ、窓! 余計なこと考えるんじゃなかった。
今窓は木の板で閉じられている。ここは私の部屋と同じ2階だが向きは反対側、門の方を向いていて窓の真下は車寄せだ。馬や馬車が来ても何の不思議も無い。(時刻はおかしいけど) 大丈夫、ここは剣と魔法の世界。宇宙的恐怖なんか無いはず……でもさっきの音、本当に馬だったのだろうか? この窓は壁に空いたただの穴。外との区切りは木の板だけだ。もし外にナニカがいたら……!!
結局窓を開けてみるどころか板に耳をつける勇気すら涌かず、急いで本を片付けると部屋に戻って頭から布団を被った。
程なくして廊下が騒がしくなる。
どこか遠くで鐘の打ち鳴らされる音もする。
部屋の戸が開けられ誰かが慌しく入ってきた。
「フレンお嬢様、起きてください! 今すぐ逃げなければなりません!」