『Z』
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しかしフォークが無くなってしまった。
手掴みでケーキを食べるのは流石にはしたない。本物の中世ヨーロッパなら問題ないのかもしれないけどここではマナー違反だ。
ウェイターに頼もう、とおもって周囲を見回したとき
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドドドドドドドンッ!!
凄い音と共に上から何かが立て続けに落ちてきた。しかも会場中に。
落ちてきたのは青白い人型の何かだ。
そいつらがのそりと立ち上がる。
普通の大人より二回り大きい。見た目は粘土で適当に作った人形みたいだ。なんか湿った感じで変な具合にデコボコしてるし腕が妙に長い。顔はというと、目と口にあたる部分がすり鉢状に窪んでいるだけ。これは……
「『Z』だ!! 『Z』が落ちてきた!!」
「キャアアアアア!!!」
「何でこんな所に!」
「衛兵は何をしている!!」
「魔封じを解いてくれ!」
「逃げろ!!」
「扉が!扉が閉まってる!!」
「ふはははは!! 我が恨み、思い知ったか!!」
悲鳴や怒号、人々が逃げ惑う中、なんか犯人っぽいやつが高笑いしている。挨拶回りの時に見た顔だ。たしかリタリエ男爵。実直そうな人に見えたんだけど……
近くに落ちた一体がゆっくり歩き出した。これが『Z』……緩慢な動作だ。人類を滅ぼしかけているとは思えないほどのっそりしている。
魔力は……見えない。真っ黒、というか周囲の魔力を吸収している感じだ。これだと魔力探知でもちゃんと見えないんじゃないかな。
『Z』は目の前の私には目もくれず移動していく。その先は……お姉様!? お姉様がへたり込んでいる! 他の子達もだ!
私はとっさに身体強化を発動すると、手にしていた銀のケーキ皿を刀代わりに『Z』の腰を切りつけた。
魔封じの所為か皿を強靭化出来なかったもののかなり深くスパッと切れた。
粘土を切ったような感じだ。切り口まで粘土の様で血も体液も出てこない。
そして直ぐに切り口が塞がり、『Z』は何事も無かったかのように移動を再開した。何これ。
とにかく動きを止めるために片足を切り落とす。
流石にバランスが取れないようでそのまま転んだのだけど……直ぐ足が生え始めた。切り落とした足の切り口からも何か胴体っぽいものが生えてきている。もしかして切ったら増えるの? プラナリアですか?
「こぶし以下のサイズに切り刻むか焼き尽くすんだ! でないと増え続けるぞ!」
誰かがアドバイスをくれる。でもそんな事言われてもどうしたら……
そもそも増えた質量は何処から来るの? 魔法? と思ってよく見ると『Z』の下の絨毯に大きな穴が開いていて、その下の床が削れている。
もしかして床や絨毯で体を修復している? しかも床は自動修復が働いているらしく削れる端から元に戻っている。つまり『Z』の再生には材料が必要なんだけど、床に居る限り無制限に供給される。これだといくらでも再生できてしまうだろう。
と言うことはもしかして空中に浮かせられれば再生を止められるかも。例えば持ち上げれば……ってアレを触るの? 無理無理! 触ったらどうなるか分からないし、そもそも空気から体を作り始めるかも知れないし。
焼き尽くすのはもっと無理。初歩的な攻撃魔法は覚えているけど魔封じされているから発動できない。
こうして思案しているうちにも『Z』は足を生やし終えて今にも立ち上がりそうだ。
やっぱり頑張って地道に切り刻むしかないのかな……あ、そうだ!
近くにあった頑丈そうで大きなテーブルの脚を掴み、そのまま持ち上げる。
狙うは移動を再開した『Z』。その上にハエタタキの如く振り下ろす! バシン!!
少しはみ出したので位置を調整してもう一度、バシン!! さらに潰した状態でグリグリ。
そしてテーブルをどけるとあら不思議、伸ばした粘土のような伸し『Z』に早変わり。
伸し『Z』は黒っぽくぼそぼそになり、復活してくる気配は無かった。テーブル上面にへばり付いている分も同じだ。切り刻む代わりにすり潰しても良いみたい。ついでに力加減も丁度良かったようだ。テーブルの脚は折れていないし天板も砕けても削れてもいない。魔封じの影響で強靭化をかけられずちょっと心配だったのだけど大丈夫そうだ。
これでもし『Z』の再生能力が超強力で一瞬で床やテーブルが『Z』に吸収されてたら失敗したんだろうけど、流石にそこまでの再生能力ではなかったようだ。
足側から再生中だった『Z』も同じ要領で処理する。辺りを見回すが他にこちらに向かって来ている『Z』はもう居ないようだ。
「お姉様、もう大丈夫です。今のうちに避難して下さい」
膝をついて目線を合わせお姉様に声をかけると、いきなり抱きつかれた。
「お、お姉様!?」
「うええええええええん! フレンちゃん、ごめんなさい! ごめんなさいいい!!」
怖かったから抱きついてきたのかと思いきや泣きながら謝るお姉様。何がなんだか訳が分からない。
怪我させるといけないので身体強化を解除しておく。
その間にも回りからは悲鳴や怒号が続いている。このままだとまた別の『Z』に襲われるかもしれない。
「お姉様。大丈夫。大丈夫ですから」
お姉様をそっと抱きしめ、金色の髪を撫でながら声をかける。
「大丈夫ですから、立って、安全なところに逃げてください。私にはまだやる事があります」
身体強化が発動しないように慎重にお姉様を立たせる。
どこに逃がそう。
お父様達と合流できればと思ったんだけど近くにはいないみたい。
入り口の大きな扉は何故か閉じられている。何人もの人が前でおろおろしている所を見ると開かないのだろう。
こじ開けようか、と考えたところでゾンビ映画のワンシーンが頭を過る。
外に逃げようと扉を開けると大量のゾンビが待ち構えているやつだ。開けたとたんになだれ込んできて大混乱。もしそうなったら収拾がつかない。
外を確認する方法があればいいのだけれど、そもそも『Z』の魔力は見えないのだ。ていうか外からの魔力が全く感知できない。魔力が遮蔽されているのか生きている人がいないのか。
怖いから大扉を開けるのはやめよう。
ホールの奥側の様子は大量の『Z』が壁になって見えないがパニックが起きているようだ。「怪我人がいるんだ! 通してくれ!」「邪魔だ!」「うわっ! もう『Z』がそこまで!」なんて声が聞こえる。
向こうがどうなっているのかも気になるけど、まずはお姉様たちの安全確保だ。
逃がすならこっちの壁際、料理のテーブルの向こう側かな? 『Z』が3体ほど居るけどそいつらを倒せば大丈夫だろう。
身体強化を再発動、左手で長すぎるスカートをたくし上げ右手でテーブルを構える。
そして『Z』を文字通り叩き潰しながらお姉様たちのグループを壁際に誘導する。
周りの『Z』も一通り潰して回った。これでこっちに来そうなヤツはもう居ない。この辺りはしばらく安全だろう。




