手の施しようがありません
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翌日、初日の応接室でお父様と共にトゥーリ先生から検査結果を伝えられた。
「結論から申し上げます。残念ながら手の施しようがありません」
トゥーリ先生が宣告する。
「そうですか……」
お父様が沈痛な面持ちで答える。
医学所の先生方が知恵の限りをつくして調べた結果、身体強化の封印は無理だと分かったらしい。
私の魔力は常に身体強化用に変調しかかっている状態で、強化が常時発動していないのが不思議なくらいなんだそうな。それで一瞬で発動できる、若しくはつい発動しちゃうと。「身体強化を解除できなくなる腕輪なら簡単です」だって。意味ねー。
「魔力効率もほぼ理論上の最大値ですな。まるで無駄がありません。魔力の消費量が自然回復量に比べごくわずかなので、何時まででも身体強化を維持し続けられる上、他の魔法も同時に使うことが出来るでしょう。
それから強化率。こちらも凄い数値ですな。高すぎて概算値しか得られませんでしたが、約500倍です」
500倍……ってどれ位なんだろ。
前世で考えると、たしか乗用車が2トンに届くか届かないか位だったよね。仮に2トンとして500で割ると4キロ。乗用車が体感で4キロ以下になるのか。そりゃ凄い。
「……ご、ひゃく……?」
あれ、お父様が酷くショックを受けている。なぜ?
「念のため申し上げておきますと、余程適性のある者が訓練を重ねても通常は50倍に届きません。お嬢さんは正に身体強化の申し子ですな」
おおぅ、私の強化は鍛えた人の強化の10倍ってこと? そりゃまたチートだね。
「魔力の質もいいですな。通常の判定基準に当てはめるならA++。ただし特異な魔力なので機械的に判定基準を適用していいのかどうかは分かりません。あくまでも参考程度に聞いて下さい。
しかし不思議なことに魔力の生体放射はどうやっても計測できませんでした。身体強化時の変調放射もです」
生体放射とは生き物の周りに見える魔力、変調放射とは魔法を使う時に出る「煌めき」のことらしい。
「ただ変調放射に関して言えば一応の説明はつきます。強化系は制御が完全な場合放射が出ません。ですからお嬢さんの身体強化は既にその域に達しているのかもしれません。魔力が特異なのであくまでも仮説ですが。
それから魔力感知能力も突出していますな。人間や大型動物の生体放射を感知できる人はある程度いるのですがお嬢さんは植物のそれを感知できています。これが出来る人はまず居ません。100年記録を遡ってみたのですが他に2例しか確認できませんでした。それに関連して感知距離と精度に関しても超人的です」
これは明らかに夜の森での訓練が原因だね。
その後、魔封じが効かないのは身体強化だけで他の魔法はちゃんと封印できること、魔力は外部から感知できないけれど既に人類トップクラスに迫る量があると思われること等の説明を受け、お開きになった。
あ、検査食をキチンと食べたことも褒められたよ。ちゃんと食べる人は少ないんだって。そりゃそうだろう、あの不味さだと。
一方で魔力循環に関しては全く触れられなかった。運良く気付かれなかったみたいだ。外から見えない所為かな。
お父様はトゥーリ先生に口止めをした後、深刻な顔で「帰ったら話がある」と言ってきた。一体何だろう。
「一生結婚できないものと覚悟しなさい」
王都屋敷のお父様の執務室で、とんでもない覚悟を要求された。
「何故ですかお父様」
「初夜の床……うむむ、なんと言ったらいいか、ともかく間違って結婚相手を抱き潰してしまうかもしれないからだ」
「……なるほど」
思わず納得してしまう完璧な理由。確かに身体強化が暴発したら……
あれ、眩暈がする、と思ったらいつの間にか座り込んでいた。どうやら私、結構ショックだったみたい。
「私とてこんなことは言いたくない」
お父様が跪いて私の顔を覗きこんでいる。近い! こんなに近づいたのは何年ぶりだろう。
「だがフレン、お前の身体強化は危険すぎるのだ。いつ暴走するか分からない上に強化率が高すぎる。たとえ身体強化して備えている相手だろうと易々と怪我させることが出来てしまう。聡いお前なら分かるな」
そう、制御し切れないこの力はチートでなく呪い。手の届く範囲に気まぐれな破壊をもたらす呪いだ。傍にいたい相手ほど傍にいられない。いちゃいけないんだ。
気付かなかった、ううん、気付いていながら目を逸らしていた事実を突きつけられた。
私は歩く爆弾なのだ。