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出発

 夜更けの森でクマ君に出会った。大分奥まったところにある少し開けた場所でだ。

 私は生成りのワンピースの上に赤いフード付きケープを纏った赤ずきんちゃん風の出で立ち。目深にフードを被って万が一他人に見られても大丈夫なようにしている。フードが赤い髪と同色なのも、髪色を分かりづらくするため。万一髪が外にこぼれてもぱっと見フードの一部に見えるんじゃないかな、見えたらいいな、というのが理由だ。夜出歩くときはいつもこのスタイルだ。

「クマ君ごきげんよう。好い晩ですね」

 ほぼ真っ暗闇の中に彼はいた。

 ぼんやりとした光道――この惑星をめぐる環のことだ――に照らされ肉眼では辛うじてシルエットが分かる程度。でも魔力感知では生命力に溢れた魔力がくっきりと視えるので見落とすことはない。


 彼はのっそりとこちらに振り向き、徐(おもむろ)に頬を膨らませると魔力を煌めかせながら口から火の玉を飛ばしてきた。全力ではなさそうだけどそれでも私の頭ぐらいのサイズがある。そして闇に慣れた目にはとても眩しい。

 私はそれを両手で掴み取るとえいっと投げ返した。魔力を纏っているお陰で熱くもなんともないのだ。

 返って来たのをクマ君が面倒くさそうに前足でぺいっと払うと、火の玉は近くの地面に当たって爆散した。辺りが再び闇に沈む。彼の赤茶色の毛皮も見えなくなる。

 その闇の中、魔力を頼りに一気にクマ君に駆け寄る。魔力で見るクマ君はオレンジ色に輝いていてとても綺麗だ。

 彼は口を大きく開けて私を出迎える。

 ガブリと来るのをサイドステップで躱し、脇腹を押してクマ君を転がす。

 一回転半したクマ君は頭を振って立ち上がると威嚇の声を上げた。身長は4mほど。巨大なシルエットが夜空に浮かぶ。

 こちらも身構える。


「迷惑でしょうけど今日も付き合ってもらいますね」




 季節が移ろい冬から春へ、春から夏へと変わり、私も一つ年をとって7才になったがお父様は王都に行ったきり一向に帰ってこなかった。

 その代わり毎年王都に行っていたお母様とお兄様はずっと領内に居る。


 今のところこちらには何の襲撃も無い。


 とはいえ油断は出来ないので私はイノシシ君やクマ君(なんか冬眠しないらしい)、新たに出会ったオオトカゲ君とも夜な夜なキャッキャウフフと女子力(物理)を磨きつづけた。(巨大ムカデ君にも出会ったのだけどこちらは全力でお断りした。足が多いのは前世から苦手なのだ)

 身体強化の調整が出来るようになったのが大きい。間違って相手に怪我させる心配なく長時間訓練できるようになった。

 私にはスタミナが足りない、という問題も新たに発覚したけど、毎晩の逢瀬(物理)でそれも大分改善された。体を動かすって大事だよね。

 どこが引篭もりなのかって? 昼間はきちんと離れに引篭もってましたよ。

 授業の無い時間は基本的に読書。魔法書もだけど歴史書や博物誌から文学まで幅広く手を出した。

 この世界の事を知りたいし、それにボキャブラリーを増やさなきゃならないからね。

 世の転生者は時間があれば食べ物チートで色々開発するんだろうけど残念ながら前世の私は基本的に食べるの専門、コンビニに頼って生きてきたのでその手の知識は皆無なのだ。マヨネーズなら辛うじて作れそうだけど特にいらないし。

 あ、ポテチだけは作ってもらったっけ。あれは大成功だった。あまりの美味しさについつい喜びの舞を舞ってしまったほどだ。

 家族にも評判がよかったらしい。何しろうちの定番おやつの一角に食い込んだのだ。


 第一王子派との勢力争いがどう展開したのかは分からないが夏の終わりのある日、第一王子が立太子される事になったとの知らせが届いた。お父様が手紙で知らせてきたのだ。

 こちらの派閥は負けたらしい。

 不謹慎だけどちょっと安心した。家としてはこの先どうなるか分からないけど、お父様の単身赴任は一先ず終わりなのだ。


 お父様の指示で家族全員王都に行くことになった。立太子の祝賀パーティーと、王妃の子が無事生まれればその誕生祝いがある。それに出席するためだそうだ。


 日程は半年近く先の真冬だけど私だけすぐに出発する。医学所で検査を受けるためだ。お陰でパーティー用のドレスは王都で仕立てることになった。ちょっと役得。きっと王都に店を出す仕立屋なら腕はトップクラスのはずだからね。(お兄様やお姉様はこちらで仕立てて王都に持ってくるのだ)


 一頭立ての小さめの箱馬車で出発。

 御者と護衛はトニーとボブが務める。私の希望通りなんだけど正直認められるとは思わなかった。これって二人がお母様達に信用されたってことだよね。二人ともいつの間に……

 後はメイドのスージーと私。いつもの四人+馬で王都までの旅。

 隣町より遠い所に行ったことがないからちょっと楽しみ。


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