色々出来るように
用語の統一の為名称を修正しました。(2021/02/14)
魔法検知器→魔法感知器
何はともあれ服と靴を強靭化できるようになり、洗浄魔法も習得した後は身体強化状態での体の動かし方を訓練するため夜な夜な森へと出かけた。
勿論衛兵さん達が屋敷の周りを巡回している。誘拐事件以降警備が厳しくなったので人数も多い。でも私は魔力感知で位置を把握できる。一方衛兵さん達には私の魔力が見えない。
魔法感知器も監視範囲を敷地全体に広げたそうだけど、何故か私の身体強化や魔力纏いは引っ掛からない。
このアドバンテージを生かせばこっそり出入り可能なのだ。
初めのうち、夜の森は恐ろしかった。伸し掛かるような針葉樹の巨木の背後に深い深い闇が壁のように聳えているのだ。何より『Z』の大群が森からうぞうぞ出てくるところを覚えている。
でも訓練しないという選択肢はない。強化したまま動けなければ話にならないのだ。
だから最初は森に入ってすぐ、屋敷からの視線がギリギリ遮られる場所で訓練していた。
でもそんな場所だとだとあまり大きな音を出せないし見つかってしまいそうになったこともある。それで訓練場所を少し森の中に入った所に移したのだけど、少し入っただけなのにもう何の光も届かない真っ暗闇なのだ。
実際のところ物にぶつかったって怪我することはないし動物や魔物等は居れば魔力で分かるので本来怖がる必要は無い。
でも真っ暗なのはやっぱり怖い。だから魔力感知で徹底的に辺りを探った。徹底的に探り続けた。もう体を動かす訓練をしているんだか魔力感知の訓練をしているんだか分からないような状態だった。
そして気が付くと魔力感知能力が物凄く上がっていた。
動物に加え、最初は全く分からなかった木々や草の放つ微弱な魔力もハッキリ視えるようになったのだ。
実際、もう特に集中しなくても木の枝や茂みの形も分かるし種類の区別もなんとなく分かる。近づいて集中すれば針葉樹の葉一本一本まで見分けられるのだ。もう目で見ているのに近い。
いや魔力感知のほうが凄いかもしれない。視野が全方向に広がっているので例えば後ろに気配を感じても振り返る必要が無い。(頭を洗っているときなんか特に便利だ) しかも魔力は物を透過するので隠れた生き物も見つけられるのだ。
森の中はどの方角を見ても生命の魔力に溢れている。だからもう森の奥でも暗闇の恐怖なんて感じなくなった。岩なんかは視えないけどぶつかっても怪我しないしね。
どっちかって言うと森の外の方が視えるものが少なくて怖いくらいだ。
訓練場所はだんだん屋敷から離れていった。
ただし奥に行き過ぎると川に行き当たる。南北に流れる大きな川だ。
川の向こう岸は夜目にも白い化石のような木々。話に聞く『Z』の領域の石樹だろう。
それを監視するため、こちらの岸には川に沿って点々と魔法騎士団の砦がある。そこに近づきすぎると見つかりそうなので川に平行してずっと南下した所、屋敷から遠く砦からも離れた辺りが主な訓練場所だ。
魔物と戦ったりもした。大概の場合は出合い頭の衝突事故だけど。
体を動かす訓練をする傍ら魔力操作も色々試してみた。
そして結果、なんと手足の先に集めた魔力で岩を砕けるようになった。きっと芝刈り魔法の本来の使い方だね。しかも3mくらいは飛ばせるのだ。
魔力を渦巻き状にして飛ばすのがコツだ。飛ばした魔力は何かに当たるか渦巻きを維持できなくなるまで飛んでいく。
初めての遠距離魔法……って言うには距離がしょぼいけど、でも格ゲーの必殺技みたいでかっこいい。
ちゃんとした名前があるのかもしれないけど、遠当てと名付けた。
初めて遠当てが出来た日、嬉しくて思わず崖目がけて連打して連打して崖崩れを誘発してしまったのはナイショだ。
しかもこの遠当て、結構チートなのだ。
まず飛ばした魔力の渦巻きは自分でも感知できない。標的に当たったり渦がほどけたりしたときに初めて分かるのだ。やっぱり他人が私の魔力を感知できないのはいつも循環している所為なのだろう。その特徴が乗っているので視えないのだ。
さらに遠当ては普通の魔法と違い魔力の変調なしに出せるのだ。実はこれも結構すごい。
普通の魔法を発動する場合、元の魔力を変調する必要がある。その時に魔力がなんというか「煌めく」のだ。実際に光っているのではない。魔力の単純な放出ともまた違うのだけど、強い何かが感じられるのだ。
他の人が魔法を使うのを見ていると必ず煌めく。私も洗浄魔法なんかを使うと煌めく。何故か身体強化の時だけは起こらないんだけど、ほかの人のを見てると身体強化中はずっと煌めいている。
つまり、普通は魔法を使うと魔力が煌めいてかなり目立つのだ。そしてそれはけっこう遠くからでもはっきり感知できる。間に壁があっても関係ないし、背後だろうと直ぐ分かる。
でも遠当ては変調の必要がない。魔力が煌めかない。だからこっそり発動できるのだ。
つまり遠当ては発動に気付かれない上に当たるまで見えないのだ。かなりのチート技だと思う。
水上歩行も出来るようになった。足先に集めた魔力で一歩ごとに水面を爆発させて歩くのだ。音が五月蝿いのとスカートが爆風で地下鉄の上のモンロー状態になってしまうのが玉に瑕。
空中歩行にも挑戦したけどこちらは残念ながら無理だった。空気が上手く爆発してくれないのだ。
色々出来るようになって調子に乗っていたある日、事件は起こった。