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これはきっとアレだ、異世界転生

新連載です。本日4連投(1/4)

 気が付くと私は何か柔らかい物の上に寝ていた。

 目の前は濃い霧がかかったかのようで良く見えない。体を起こそうとしても殆ど動けない。

(誰か! 誰か居ませんか!)

 そう言おうとしたのに口から出たのは「ほえぇぇぇ、ふあぁぁぁ!」という赤ちゃんの声。


 その声を聞きつけたのか大きな影が現れ、私を抱き上げた。

「――――――――――――」

 何か話しかけてくる。聞き取れない言葉だが優しげな口調だ。ぷんと香る甘いミルクの匂い。

 これはきっとアレだ、異世界転生――って異世界かどうかはまだ分からないか、とにかく転生だ。


 前世の私は日本国内ではそこそこ名の通った地方大学の3年生だった。研究室が決まり、そのまま歓迎会という名の飲み会に連れて行かれたところで記憶が途絶えている。

 やっぱりその後死んじゃったんだろうな。死因はなんだろう。酔っぱらって交通事故? それとも急性アルコール中毒?

 思い出されるのは優しい両親、生意気な妹、友人たち……きっと悲しんでいるだろう。もう会えないんだ、そう思うと無性に悲しくなって思わず泣き始めてしまった。

 すぐに大きな影が私をあやし始める。

「――――――――――――」

 背中をとんとん叩きながら安心させるように話しかけてくる。そうされているうち感情の(たかぶ)りが薄れていき、いつの間にか眠っていた。




 日付の感覚なんか無いけど、もう何日も経った気がする。

 赤ちゃんライフはある意味拷問だ。自力で動けないのが辛い。そして暇だ。やることといえば食事(おっぱい)睡眠(おねむ)排泄(おもらし)だけ。スマホ欲しい。でもまだ目がよく見えないからあっても意味無いけど。たしか新生児の視力はとっても悪いはずだから、今よく見えないのは問題ないはず。そのうち普通に見えるようになるんだよね。ならなかったら泣くぞ。


 そういうわけで、ついに私は決意した。何を? 勿論転生者の75%以上(※当社調べ)がやるアレだ!


 まずは小手調べ。

ステータスオープン(あぅあぅおゎぁ~あ~)!」

……

…………

……………………

「|ステータスオープン《あうぁぅあ~おゎあぅぁ~》!」

……

…………

……………………

…………………………………………


 何もおこらなかった。やっぱりちゃんと現地語で唱えないとだめ? それともそもそもステータス制じゃ無い?

 ま、いいや。元々そんなに期待してなかったし。絶対必要ってわけでもないしね。

 こらそこ、酸っぱいブドウとか言わない!


 ステータスが見えないならこっちも望み薄かな。でも一応トライ!

鑑定(あぅぅぁ~)!」

……

…………

……………………

 やっぱダメかー。


 次が本命。

魔力感知(あぅうあぅぁぅ~)!」

……

…………

……………………

…………………………………………


 むむっ、魔力が見つからない。異世界転生者の80%以上(※当社調べ)が体内に魔力を感じるのに。

 もしかしてここは魔法の無い世界? それとも私に魔法の才能が無い? そんなバカな! きっと私の努力が足りないんだ! もう一度!


魔力感知(あぅ~あぅふぅ~)!」

……

…………

……………………

…………………………………………あ


 なんか感じた……ような気がする!

 よしもう一度!

魔力感知(あぅ~あぅふぅ~)!」

……なんか在る。臍の下辺りになんか在る! これがきっと魔力! ワンダホー!! やっぱりここは魔法の有る異世界だったんだ!!

 あとはこの魔力を体内で循環させればいいはず。小説投稿サイトの異世界転生物を数多読み込んだ私に死角は無い!

魔力循環(あぅ~あぅう~)!」

…ぐぅ

動かそうとしたところで意識が暗転した……




 その後何度か試してみて分かった。体内魔力は下手に動かそうとすると水に落ちた墨汁の滴のようにあっという間に拡散してしまうのだ。そうなると気を失ってしまう。魔力切れ、というヤツなのだろう。

 唯一使える時計――腹時計――で計った感じでは、意識のない時間はそんなに長くないようだ。これなら母親に心配かけずに訓練出来る。一人でいる時間を目いっぱい使って色々試してみよう。


 それから食事(おっぱい)の時間を何回も何回も経た頃、やっと上手く動かすコツを掴んだ。と言っても魔力の消耗が少しゆっくりになった程度でまだまだ上達の余地はあるけど、すぐ気絶しなくなっただけでも大きな進歩だ。もしステータスが見えたらスキル「魔力操作I」が生えているに違いない。

 魔力量自体も成長しているんだよね。最初はほとんど感じられないほど少なかった魔力が今ははっきりと分かるほどになったのだ。

 多くの異世界物では魔力切れでMP上限が上がっていたが、この世界でもそうなのだろう。(魔力切れで死んじゃう話も有ったような気もするけど今生きてるからセーフ!!)

 どんどん魔力を動かして魔力切れも起こして熟練度とMP上限を稼ごう! レベル上げの時間だ! 暇だし!


 さらに何度も何度も食事(おっぱい)の時間が過ぎたころ、ついに魔力を消耗させずに動かせるようになった。速度も出せる。サイクロンクリーナーの如き勢いでぐるぐるしても大丈夫なのだ。

 きっと「魔力操作Ⅱ」くらいだね。

 さらに空中を漂う魔力の素――魔素を沢山取り込んで自分の魔力を増やすやり方も見つけた。これをやると魔力の回復だけでなくMP上限まで上がっていくっぽいのだ。MP上限というより魔力の密度かな。気絶しなくてもいいのが嬉しい。

 次は魔力を全身に行き渡らせて、その状態でぐるぐる回すのが目標だ。これがまた難しいのだが、ここまでできて初めて魔力循環と呼べるだろう。異世界物の多数派(当社調べ)では魔力循環は魔法の前提、基礎の基礎だ……ということはもしかしてまだ「魔力操作I」も生えてない? いや、あんなに大変だったのだ。魔力循環ができれば「魔力操作III」ということにしよう。そうしよう。決まり!




 暇に飽かして訓練を続け、大分魔力量も増えてきた。魔力も何とか少しずつ回せるようになってきた。

 体の方も(おそらく順調に)成長してきている。

 魔法の訓練と並行して出来る限り体を動かしているしね。手足をパタパタさせたり体をひねったりしているだけだけど、最近ついに寝返りに成功したのだ!


 私の名前も分かった。「フレン」というらしい。前世の感覚に照らしても違和感の無い名前で良かった。万が一「ゲレゲレ」とかだったら立ち直れないところだった。

 男っぽい名前なのが気になるけど、女の子なのは沐浴の時に目で見て確認済みだ。

 そう、視力が良くなってきたのだ!(良かった!)


 人の顔も区別できるようになってきた。それまでも匂いや声で区別出来ていたんだけど、見えてくるとまた違うよね。


 いつもお乳をくれるのが乳母のロッテさん。髪が白いけど白髪って訳じゃないみたい。肌も真っ白。20代前半くらいだろうか。優しげなお姉さんって感じだ。なにかあったらすぐ来てくれる。よく赤ちゃんを連れているんだけど乳母子(めのとご)ってやつかな。

 お母さんもロッテさんと同年代。名前は名乗ってくれないので分からない。私に話しかけているときは「ママでちゅよー」とか言っているのだろうし、ロッテさんは「奥様」と呼びかけている感じだ。

 金髪のきりっとした美人でスタイルも凄くいい。遺伝子はちゃんと仕事をしてくれるだろうか? 前世の私はお子様体形で、大学生なのに小人料金で新幹線に乗っても怪しまれないほどだったのだ。勿論やってませんよ、物の例えです。(建前) 今世ではお母さんの遺伝子に期待だ。


 よく来てくれるのはこの二人+赤ちゃんだ。あとメイドさんが何人か。


 リアルメイドさんですよ! アキバ系でないちゃんとしたメイド服を着たメイドさん! それが何人も居るところを見ると今世の親はそこそこ地位のある人物なのだろう。


 部屋からもそれが分かる。私がいる部屋は前世で暮らしていたワンルームより確実に数倍は広い。天井には精緻な幾何学模様がびっしり書き込んであるし、妙に高級感溢れるクローゼットや偉い人用ですかって感じの机まである。それが私一人の部屋らしいのだ。なんてお金持ち。


 そのお金持ちそうなお父さんはというと、時折来る真っ赤な髪の背の高いイケメンがそうなのだろう。頻繁には来ないけど愛情が無いないからではないようだ。その証拠にいつもでれでれした顔で優しく話しかけてくるし(多分「パパでちゅよー」とか言ってる)、誰かが呼びに来るかなにかするまでいつまででも抱っこしてくれる。

 あとお父さんよりは頻繁に来るのが金髪の幼児二人、多分兄と姉だ。従兄弟とかかもしれないけど。


 この人たちが今世の家族。

 前世の家族にはきっと悲しい思いをさせてしまったんだろうけど、今の家の人たちにはそんな思いをさせないよう頑張ろう。


 ここはきっと剣と魔法の世界。一歩町から出ると恐ろしい魔物が跋扈しているはず。(決め付け) そんな世界で生き抜くためにも、まずは魔法だ。簡単に死んでしまわないよう、魔法の実力をつけるのだ。


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