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3/3

社会崩壊ーー天敵現る

前作では好評だった苔視点

(三人称視点)


その惑星は青かった。

透き通った水がそこかしこにながれ、そこに住んでいた高度な文明を持った知的生命体は軒並み滅び、かつての世界を取り戻した。

古代から長らくひっそりと生きながらえてきた苔たち。

気温の変化や地形の変動により繁栄したり滅びて行く動植物を横目に、増えることも減ることもなくただ命を継いで来た。

彼らにその記憶はなかったが、この世界が創世された際に最初に生まれた一つであった彼ら苔は長い間、仲良く慎ましく暮らしていた。

害虫は高度文明時代に撒かれた強力な薬により種を途絶えることになったが、特に害を及ぼさなかった苔は踏まれる以外には放置されてきた。


その姿を変えずずっと生きてきた彼らに変化があったのは魔転暦元年のことである。

突如として上空から惑星に降り注いだ高濃度魔力により惑星は汚染され、磁場や力場が狂い青い惑星はあっという間に死の星へと変化した。

この高濃度魔力は惑星の法則を変えただけにとどまらなかった。電波障害により眠っていたはずの高度文明の遺跡から暴走した兵器が飛び出し、無人の世界でロボットたちが激しい戦争を始めたのだ。

擬似的にしか知能を持たないロボットたちは見境なく動くものや体温を持つものを攻撃し滅ぼした。

まず最初に動物が滅んだ。哺乳類も、爬虫類も魚類もなにもかもが滅んだ。一匹残らず命を潰され、地には屍の絨毯が出来た。

病原菌が大繁殖し海には微生物が溢れ水は汚染され、空気は淀んだ。

次は植物だった。風に揺られた草が、雨にさらされた木がさあさあと動くたびに、ロボットたちは敵と判断し焼却した。

世界は火の海となった。

地上では腐敗してガスの溜まっていた動物の死骸に炎が次々と引火した。

硬い木はロボットにぶつかり折れた、柔らか過ぎた草は踏み潰されて枯れた、乾燥した植物は自然発火し、なにもかも炭となった。

次はロボットだった。太陽光や保存されたエネルギーによって動力を賄われていた彼らは、次第に資源不足で動かなくなった。メンテナンスもされず隙間には燃やした動植物の灰が詰まり、高濃度の魔力と地上からもうもうと立ち上がる煙によって通信が途絶え動かなくなった。

敵ロボットと遭遇し壊されたものも多かった。

遺跡の崩壊によって埋もれたものもあった。


空は厚い雲に覆われた。

遺跡は破壊され壊れた遺跡からばら撒かれた黒い建材は砂や岩のようになって地面を覆った。

ロボットたちの自爆により水は蒸発した。地面から立ち上る煙と、蒸発した水は陽が届かぬほどに雲に厚みを持たせ、生き残った数少ない生物を死滅させていった。


高濃度魔力を浴びた生物は身体を変異させた、しかしその変化も虚しくロボットたちの戦争に巻き込まれ滅びた。

しかし、苔は生き残った。

もともと少ない光でも生きていけた苔たちは高濃度魔力によって変異した彼らは、暗闇でも生きれる変化、空気の薄い世界でも生きられる構造を手に入れた。

全ての生物が滅びた世界で、苔だけが生き残った。

ならば何が起こるか、天敵はおらず、過酷な環境に適応した彼らは大繁殖した。

繁殖と変異を繰り返して行くうちに脳細胞のようにつながっていた苔たちに、自我が目覚める。


動物のように自我を持ち、物事を考え、自らの存在について考え始めた。

動くことはできなかったが、触手を持った種類が出始めたことにより、触手と触手を絡ませ情報を交換するものが現れた。

惑星を覆うように繁栄した苔は最初は一つの大きな意思によって動いていたが、株分けによりいくつかに分かれやがて社会を築いた。


それは人間や動物と言った肉体的な社会構造ではない。精神ネットから築きあげられたアストラ界世界から成り立っており、精神体を持ってして個々を認識した。

見た目では苔が沢山生えている、としか見えないこの苔たちも、アストラ界では数億の個々に分かれ支配階級が方針を決定し、労働階級が考え計算するなど人間と似た社会構造を持っていた。



そもそも苔という生き物は根が繋がっており繁殖した個体が別の株から出ることはない。

この苔たちの変異を簡単に言うと、この星の苔は一つの株が長い年月とファンタジーなパワーにより大繁殖した結果と言える。ロボットや遺跡から湧き出した謎の液体を養分に、薄暗いこの世界で苔たちは繁殖し、再びこの星を緑の惑星に変えたのだ。

しかし、雨の代わりに降り注ぐ灰が緑を灰色に覆い、再び赤と黒しか無い星となった。

人間とは思考構造が全く違う苔たちは高速で情報をやり取りをした。

人間が一度何かを考え口から言葉を出しそれを聞いた他人が耳から聞いて理解とすれば、苔はスーパーコンピュータごとく、はたまた脳細胞同士のように連結した脳が次々に思考を飛ばし凄まじい数の脳が同時にものを考え情報を処理することにより、人間社会より優れた社会体制を手に入れていた。

苔以外には理解できないが、この惑星で栄えたどんな文明よりも苔の文明力は高かった。

それから、時間とともに更なる変異を遂げ、自我に目覚めてから2000年が過ぎる頃には600億もの苔たちが高度な社会を築き上げていた。


国、国境、宗教、そんなものは存在しなかった。彼らの社会は目に見えない精神世界にあるおかげで見た目の酷美や種類に囚われることなく、争うこともなく、お互いに尊重し理解してうまく社会を回していた。先程支配階級と言ったのは人間の言葉で表しただけであり、実際のところ長く生きて知識を蓄積した個が経験からこれからの方針を導きだし、その他がそれに従うという社会であるからだ。


稀に考えの違いで紛争が起こることもあったが、過去の文明のように星を荒らすような災害には達しなかった。

まぁ最もたる要因は彼らが苔であり動けなかったからであろう。

動けない苔に道具は使えず、せいぜい嫌がらせで栄養の供給をしない程度である。


苔の社会はとても興味深く、一般市民から支配階級まで光合成をすることと魔力を取り込むという義務がある。

支配階級の苔は基本的に初期に目覚めた者たちであるが中には優れた知能を持つという理由で成り上がったものもいる。

ここで苔の社会の役割りのあり方を説明しようと思う。


一般の苔、彼らは支配階級の考えた物事を共有しながら話し合いより具体的な答えを出したり知識を共有して保存しておくのが仕事だ。

わかりやすく言えば、コンピュータを沢山繋げて高速で計算させたり、メモリにデータを保存したりコピーしてバックアップしたりすることに似ている。


支配階級の苔は様々な物事に関してものを述べるのが仕事だ。

それから一般の苔たちの指揮をとることも行っている。


彼ら、苔の社会は単純であるが理想的な社会だ。

敵もいない、病気もならない、もし身体を失っても思考する個としては精神体であるがいえ、他の苔の身体に宿ることも出来る。さらには、ほかの戦争も起こらない、嗜好品など必要せず、欲望は薄く平和だ。

ただ人間が彼ら苔に転生するのはおススメ出来ない。

なぜなら暇過ぎるからだ。




◇◆


さて、本題に入ろう。


ーーー湿岩歴2712年


自我に目覚めてから2712年が経過した現在。

今ではすっかり古代遺跡も風化し荒野と干からびた川や海のみがのぞく死の大地となった世界は、今なお厚い雲に覆われていた。

惑星の法則の変化により、均等であったはずの重力はまばらに集中し、苔も生えない超重力地帯が出来上がっていた。

コールドスリープで眠っていた古代文明の知的生物たちも時間の流れには逆らえず漏れなく腐り溶けて遺跡の跡地からスライムのようにポコポコと湧き出していた。



その頃、苔たちは何故我々は生まれたのかという知的生命体最大の謎に答えをだしていた。

他にもこの惑星以外に住む知的生命体の可能性を証明し、魂や肉体、精神と記憶のメカニズムに手を出していた。

苔たちは動く必要がなかったこともあり、変異する中でより精神的な構造を重視して持つようになった。

テレパシー技術を習得した苔たちは惑星の裏側まで一瞬で思考を飛ばし、更なる知能を手に入れた。


あれはよく晴れた朝方のことだった。

普段地表に降り注ぐ魔力の70倍ものエネルギーを発する球体を観測したのは。

全くの想定外であり、ただわかったのは雲の上にある古代文明の残骸から何かが落ちてきたということだった。

こんなことを苔如きが理解できたのも、耳を持たない代わりに空間のありとあらゆるものを感じるセンサーを持っていたからだった。


すぐに異変を感じ対策を練ろうと動き始めた苔たちを無慈悲にも何者かが押しつぶした。

天敵もいない環境で変異し続けた苔はすっかり耐久値を失っていた。原種の苔ならば耐えることが出来るそれも、たかたが人間が軽く踏んだくらいでアッサリ潰れてしまった。


突如として情報が取れなくなった苔たちは波紋のように混乱が広がり情報が麻痺した。

何が起こったのか、自分はどうなってしまうのか、苔たちは怯えて必死にこの状況から抜け出す方法を模索した。


そして彼らは気づいた。


気づいてしまった。

苔は移動出来ないことに。

むしり取る謎の存在。

かつて存在した動物という種を忘れた彼らに、一方的に踏み潰し引き千切ってゆくそれはとてつもない恐怖だった。

そしてどこからともなく聞こえてくる断末魔に震え上がる苔たち。


日没までに8000もの苔が死亡した。


そして命からがら脱出した苔は伝えた。

「かの化け物は我々に気づいていない。

、呼び方にも応じず、ただ我々を殺す殺意を持った化け物である」


「そして、恐るべきことに我々を食べる。」……と。


苔喰いの化け物。

なんと恐ろしいことだろうか。

今すぐにでも逃げたい。

だが苔だ。

動けるはずもない。


動けないことで起こらなかった争いに動けないことに感謝していたが、今は誰もが呪いたい気分だった。


用語・概念補足(何かあったらコメントください追加します)


この世界

→この世界については、作中で明らかになっていきます。


この世界の元の住民

→様々な知的生命体が生まれ滅びました。

苔たちが繁栄する前までいた知的生命体はロボット兵器や建造物を作れることから地球の人間に似た文化を持っていたようです。正体については今後作中で判明するでしょう。

コールドスリープ技術により眠っていた多くの住民のほとんどが施設の停止により腐ってしまったようですが……


この世界にあった文明

→ロボット、魔力という言葉があるように科学と魔法が融合したような文明だった?今はまだ不明



魔転歴

→苔たちが自我を得たとされる最初の年。

ちなみに上空からばら撒かれた高濃度魔力により知能を得たがそのせいで古代文明の兵器が暴走し、惑星はえらいことになった。


魔力

→魔法、魔術などが存在する世界の用語。

地球でも○○の魔力がというが意味が違う。

地球での意味は魅力的なものにそそのさかれる様を指すが、ファンタジー世界ではガソリンや天然ガスのようなイメージ。他の言い方をすると、()、チャクラなど


高濃度魔力

→魔力を精錬したもの、原油を精錬するようなものだが、高濃度魔力の性質はウランなどの放射能鉱物に似ている。


電波障害

→電波の障害のこと。地球だと太陽フレアにより放出された宇宙線によって電波が乱される。

太陽フレアの影響について知りたい人は自分で調べてみてください


テレパシー

→超能力・ES・SAI・異能、と呼ばれる魔法でも科学でもない特殊な力がある世界での一つの力。昔から定番の能力。

火炎能力・テレパシー・念力能力など

テレパシーとは自分が思ったこと考えたこと、場合によっては見たものを他人の頭の中に送る能力。スマホのメール送信みたいなもの。


高度文明

→高度な文明、金属を加工したり農業を行なったりできる知的生命体の文化的コミュニティ


古代文明

→古代の文明。大概の作品においてわざわざ古代文明と称されるものが登場する場合、現代では追いつけないほどの技術を持っていたり(オーパーツ)、重大な秘密があったりする。


遺跡

→文明の残りカス。滅びた文明の遺産。


精神体

→人間の身体を肉体、精神つまり魂や思考、人格から構成された自身の肉体とは少し違う身体を精神体という。

要はマト○ックス

幽体離脱するのはこの精神体。


アストラ界

→外国の宗教や、魔法や魔術を嗜んでいると良く見たり聞いたりする言葉。

いわゆる精神世界のこと。

第六感などもこのアストラ界に通じるという。

精神によって構築された世界であり、現実世界では見えないものが見えたり、存在したり、壁や床など関係なくすり抜けたりできる。ちなみに肉体がどれだけ離れていてもアストラ界には距離は存在しない。

最新作の新しいスター○ォーズで登場したフォースの共鳴するシーンが一番近い。


精神ネットワーク

→同調した精神体達により作られたネットワーク。コンピュータ同士が情報をやり取りするように、精神体をもつ知的生命体同士の思想のやりとり。


変異

→進化の過程を飛び越して変わること。

突然変異など。

文字に書いてごとく、変化して元とは異なったものになること。

地球でいうと、ウイルスによって甘い果実を作る林檎が生まれたり、放射能によって足や手が普通より多い動物が生まれる等

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