01
あらためまして。
私ナターシャは前世の記憶を思い出した訳ですが特別何かが起こった訳ではなかった。と言いたかったのですが。
「それで先生?娘は…」
ベッドに入ったままで身体を起こした私に手を翳した初老の男性を囲むように家族達が心配そうな顔で見ている。はて、この男性は誰だ?
記憶にない顔を見つめれば少し眉を寄せた男性は顎に手を当てつつ私をジッと見つめながら口を開いた。
「珍しいことですが御息女は多属性の魔力をお持ちのようですな。判別の儀式の時に魔力が干渉し合って反発したのでしょう。慣れないことに驚いたのと魔力を出し切っただけですのですぐに回復なさるでしょう」
「よかった…!」
ほっと色々な息を吐く音が聞こえて慕われているのだと私も内心ほっとした。知らないところで破滅エンドだなんて堪ったものじゃない。
「しかし多属性となると早めに魔力調整をされた方がよろしいでしょうな。魔力を解放してしまった以上暴走がないとは言い切れません」
難しい顔の先生に重い空気が伸し掛かる。魔力暴走は子供の頃に起こる事が多く被害は様々だが感情の起伏によって起こる事が多く誰かと共に居る時が全てと言っていい。
つまり被害は周りはもちろん自分にも起こる。
え、待って。そんな死亡フラグすぐ立ちます?平凡に生きたいんですよ、私は!
「勿論すぐに手配させよう。モーリー至急動いてくれ」
お父様が部屋の入り口付近に立っていたモーリーに指示を出せば心得ているとばかりに執事長の彼は退出した。それを見送りながら兄様が忌々しげに口を開く。
「ナーシャの光を目撃した人数は多く嗅ぎつけた奴達が面会を申し込んで来ています。すぐに家庭教師を探すことも気づくでしょう。そうなれば…」
そんな悩まし気に見つめないで兄様!新しい道を歩いてしまう!やめて!!
「かわいいナーシャをそんな輩に渡すものですか!」
姉様がギュッと抱きしめつつそう宣言する。顔に胸が!胸がぁ!へへへ…
「当面の婚約打診は体調不良で断り続けよう」
「それがいいですわ」
お父様の言葉に頷くお母様達。そんな婚約打診だなんて大袈裟な。伯爵といっても商会経営を行なっている当家の歴史は浅く政略結婚よりも恋愛結婚が多い。そんな家の未子の女の私には政略的な価値も無いし貴族位が高いなら有るかもしれないが6歳になったばかりの子供に婚約者だなんてほぼ有り得ない。
身内からの激甘な過大評価に内心苦笑いしていた翌日。
私の認識が甘かったのだと気づくことになるとは思わなかった。