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4話「魔王様は駄々っ子」

 


 ティムズとアルムスについて魔王城の最上階、魔王の執務室へと向かう。

 何故私が?と首を傾げるが


「ミヤは僕ら二人の秘書だろ?こういう時にこそ頑張ってもらわなきゃ」

「ぐぅ」


 そういわれてしまえば抵抗する理由がない。


「魔王、宰相のティムズが参りました」

「魔王、大将軍のアルムスが参りました」


 ほうほう。二人の肩書きをここで初めて知る。

 名乗る肩書きもない下働きの私は小さくお辞儀だけをして二人に続いて部屋に入る。



 部屋の中は見事に荒れ果てていた。ティムズの部屋のように書類があふれているわけでもなく、アルムスの部屋のようにただただ汚れているわけでもなく。そう、強いて言うなら。


「台風一過」


 部屋の家具と言う家具は倒され一部は破壊されカーテンは破れ物が散乱している。

 その荒れ果てた部屋のど真ん中に大きな椅子があり、そこに絶世のイケメンがいた。黒髪に金色の瞳。絶妙かつ完璧な配置をした造形のイケメンが座っている。呆然と見とれる私に気が付いているのかいないのか、ものすごく不機嫌なオーラをせおってぎらぎらと怒りのオーラをたぎらせていた。


「我が王よ、何があったのです」

「何があったのではない」


 二人の呼びかけに応えたということは、彼が魔王なのだろう。不機嫌の塊のような魔王は深くため息を吐くと苛立たしげに叫んだ。


「ミラのやつ、俺が用意したネックレスじゃ気に入らないとかぬかしやがる!どれだけ苦労して手に入れたとおもってんだ!!」


 魔王の発言の意味が分からずぽかんとした私の気配を察知したのか、ティムズがこっそり耳打ちして教えてくれる。


「ミラというのは魔王のお気に入りの歌姫で、今度開かれる宴で使うアクセサリを魔王にねだっていたのですよ」


 なるほど。そのおねだりに応えたけど、お気に召さなかったのが気に食わなくてごねてるのね。駄々っ子かよ。

 どんな大問題が起きたのかと身構えていたの馬鹿らしくて脱力する。

 魔族を治める魔王と言うからどんな敏腕なのかと期待していたが、どうやらそうではないらしい。

 二人がおろおろと魔王をなだめすかしているが、魔王はぶすくれたままだ。このままでは二人の仕事に差し障る。


「差し出がましいようですが、魔王様。どのようなネックレスを贈られたのですが?」


 突然発言した私に部屋の空気が凍る。

 これまで私の存在などかけらも気にしていなかった魔王が視線を向けてきた。駄々っ子とはいえ魔王は魔王。その眼力に一瞬負けそうになるが、こんなことでひるんでいては私がすたる。仮にも前世では敏腕秘書として腕を鳴らしてきたのだ。


「なんだお前は」

「ティムズとアルムスの・・・秘書です」

「秘書だぁ?なんだそれは」

「色々と仕事の手伝いをする仕事です」

「下働きか」

「いいえ、秘書です」


 私の堂々とした態度に魔王は少し驚いた様子で不機嫌オーラを引っ込める。


「で、その秘書とやらが何の用だ」

「私の仕事は皆さんの仕事ややりたいことが円滑に回るようにすることです」

「・・・ほう?」

「魔王様が用意したネックレスがどのようなものだったのか教えていただければ、対策の練りようがあります」

「お前の言ってることはちっとも分らんが、とにかくネックレスを見せればいいんだな」

「よろしくおねがいします」


 魔王が手を挙げると、どこからともなく大きなクッションを抱えた小さな竜が現れた。クッションの上にはぎらぎらと輝く大ぶりのネックレス。中央には炎のような真っ赤な宝石。周りにも色とりどりの宝石がちりばめられものすごい存在感だ。


「・・・ミラ、というお方はどんなお姿なのですか?」

「ミラを知らんのか?この町一番の歌姫だぞ」

「生憎存じ上げません」

「変な奴だな。おい、誰かミラの写し絵を見せてやれ」


 アルムスが懐から小さな絵を取り出した。なんだよお前持ってるのかよ、まさかファンなの?というツッコミを飲み込んで見せてもらう。

 ゆるくウエーブがかかった赤い髪に透けるような白い肌。華奢な細見の体型をした天使のような魔族の少女がそこにいた。


「・・・なるほど」

「何かわかったのか?」

「まず魔王様、このネックレスではだめです」

「あ?」


 魔王を包むオーラが一気に濃くなる。アルムスとティムズも焦った様子だが私は構わず続けた。


「このネックレスは大変すばらしいです。特にこの赤い宝石はふたつとないものだと私にもわかります」

「・・・当然だ。俺が手に入れたものだからな」

「でも、このネックレスはミラさんには似合いません」

「なんだと?こんなに素晴らしいのにか!!」

「素晴らしすぎてミラさんには重いのです」


 アルムスの手から写し絵を奪い取ると魔王の眼前に突き出す。


「まず、ミラさんのように存在がはかなげで美しい人にたくさんの宝石は必要ありません。こんなにたくさんの宝石を付けた大きな物をつけていてはミラさんの魅力がかすんでネックレスの方が目立ってしまいます」


 一気にまくしたてれば魔王は不機嫌のオーラをひっこめてじっと写し絵とネックレスを見比べる。


「・・・たしかに」

「それぞれは確かに素晴らしいですが、二つ同時にあっては輝きが相殺されてしまいます。アクセサリはつける人を輝かせてこそです」

「お前の言いたいことは何となくわかった。しかし、せっかく用意したのに無下にされたのだぞ。腹が立つ」

「そこは魔王様が余裕を見せるべきところです」

「・・・・・・」


 納得したのか納得してないのか不機嫌顔ではあるがオーラは随分とおとなしくなった。


「そこで提案です」


 にっこりと私がほほ笑めば魔王がぱちくりと目を瞬かせる。


「真ん中の宝石以外は全部取っ払いましょう」

「なに!!」

「もったいないですが、沢山の種類がゴテゴテとついていてはどれがメインか伝わりません。せっかくこんなに素敵で完璧な魔王様が手に入れた宝石なのですから、これひとつが輝けばいいのでは?」

「・・・うむ」

「大ぶりの宝石一つのネックレス。素敵じゃありませんか!外した宝石はそのままミラさんに渡してドレスの飾りにでもしてもらえばいいんですよ」


 きっとその方が彼女のセンスでどうにでもできるだろう。


「彼女が身に付けるのは魔王様が用意した宝石ひとつ!素敵じゃありませんか?」


 私の提案に魔王はしばらく考えていたが、にやりと口元を緩ませると満足げに鼻を鳴らした。


「よし、ではそのように」


 パチン、と指を慣らせばネックレスと竜が消えた。恐らく新しい細工を加えるのだろう。


「お前、面白いやつだな。ええと、秘書だったな」

「はい、秘書のミヤと申します」

「じゃあ、お前は今日から俺の秘書になれ」

「は???」


 私だけでなくティムズもアルムスも予想外だったのだろう、三人で目を丸くして間抜け面をしてしまう。


「お前たちもそれでいいだろう?」

「・・・魔王がそう望まれるのでしたら」


 おいおいおい、そんなに簡単に私の配置換えとかしちゃうの??うそでしょ??

 状況についていけない私をよそ目に魔王はなんだかご機嫌だ。


「よし秘書よ。手始めにこの部屋の模様替えをしておけ。俺は出かける」

「え?ちょっとお待ちください」


 ちょっと、と言ったところで魔王の姿は既になくお待ちくださいという情けない私の声だけが広い魔王の部屋に響いた。



「早かれ遅かれ、ミヤの存在がわかればこうなっていたような気がします」

「まあ魔王が望まれたことだ。がんばれ。仕事がないときはこれまで通りに頼むぜ」

「・・・ブラックにもほどがあるわ」



 こうして、私の魔王秘書ライフが幕を開けたのだった。




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