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12話「魔王が転職させにきた」



「クソとはなんだクソとは!俺は魔王だぞ!!」


ガンギレしている魔王は、私が使っていた魔道具とは違う強力な魔法で己の気配を完全に人間に換えていた。

しかし目立つ恐ろしいほどの美形は相変わらずだ。

金色だった瞳が琥珀色に輝いて私を見ている。


「だってクソですもの。力が強いのは認めますけど、それ以外はてんでダメでしたし」

「お前、そんな口が聞けたのか」

「もう部下でも秘書でもないですから」


仕えている間はそれにあった口調で相手をしていたが、今は退職しているのでへりくだる必要は全くない。

魔王としての気配を殺しているからか、魔王城で相対していた時よりも気安い感じがするものある。

さすがに寝転がったままというのは私が気になるので起き上がって向かい合う。

どっしりと私の前に腰を下ろした魔王は面白いものでも見るように私を見下ろしてくる。


「よくこの場所がわかりましたね」

「そりゃあ、魔素がないこの世界でこれだけでかい魔力の動きがあれば嫌でもわかる」


失敗した。その可能性を考えてはいなかった。

多少は探されているかもしれないという考えはあったが、来ても使い魔程度だと思っていた。

まさか魔王が直接来るなんて夢にも思っていなかった。


「一応聞きますが、何しに来たんですか」

「お前を迎えに来た」

「は?」


三文小説じゃあるまいし、まさかそんな今は使い古された俺様な発言をされるとは思わず、固まってしまった。


「お前がいなくて、こっちは大変なんだ。何に腹を立ててるかしらねぇが、欲しいものならなんでもくれてやるから戻ってこい」

「嫌です」

「なっ!!」


私の即答に心底驚いた様子で魔王が固まっている。

まさか戻ってこいの一言で私が戻るとでも思っていたのだろうか。

安く見積もりすぎだろう。


「お前、俺の誘いを断るのか」

「はい断ります」

「魔王直々だぞ」

「私は今、魔女として生活を楽しんでるんです。そちらに戻る気はありません」


消しているはずの魔王のオーラがふつふつと浮かんでくる。

しかしそんなことは知ったことか。

私だってそんな軽い気持ちで退職したわけじゃないのだ。

かなり傷ついたのだ。

あれだけ勤めていたのに、名前を忘れられた身の気持ちを多少は思い知らせてやりたい。


「大体、魔王は何故私が退職したのかわかっているのですか?」

「知るか」

「バカですか」

「なっ!!!」


バカ呼ばわりされ、魔王の額に青筋が浮かぶ。

魔力の放出はないはずなのに怒りの気配に気圧されそうだ。

が、怒っているのはこちらも同じ。


「魔王がどんなに困っていようと私には関係ありません」

「ティムズとアルムスも困っているぞ」

「・・・・知りません」


あの二人にはそれなりに愛着があるので困っていると聞くと少し心が揺らぐが、私一人抜けたくらいで困るような仕事をしているのが悪いのだ。

仕事がしやすいように体制は整えたのだが、あとは頑張ってもらいたい。


「だいたい、魔王がもう少ししっかりすればいい話でしょう」

「俺はいいんだよ、俺は」


相変わらずの俺様理論。

力が全ての魔族ではそれでいいのだろう。

私もそれでいいと思っていた。

けれど、人だった頃も自分を犠牲にして仕事に尽くしていたのだ。結果命を落とした。

もう、あんな虚無な思いをするのはこりごりだ。


「私も、私が楽しければそれでいいんです」


キッと魔王を睨みあげる。


「生きたいように生きる、それが魔族の筈。私は魔女として人間と暮らすことを決めたんです。二度と魔王城には勤めません」


そう。私は決めたのだ。

私が好きに生きると。

魔女としての生活はかなり気に入っている。

たとえ魔王だとしても邪魔はさせない。


「・・・この俺が、わざわざ来てやって頼んでるというのに、その態度とはいい度胸だ」


ざわざわと魔王の背中からどす黒いオーラが浮かんでくる。

琥珀色の瞳が金色に染まり始めた。


「話して言う事を聞けばいいと思っていたが、とりあえず力づくでも一度戻るぞ」

「い、いやです」

「俺に力で叶うと思ってんのか。怪我したくなければおとなしくしてろ」


やばいと本能が告げている。

一度、ここから逃げるべきかと身構えた、その時だった。



「お師匠様―!!!」

「魔女殿―!!!」



向こうから、全力疾走してくるディランとユーリの姿が。

何故、何故来たのと慌てていると、魔王が乱入者にいぶかしげに眉根を寄せた。



「なんだアレは」

「ナンデショウネ」



今は指輪をはずしているので無視してれば私とは気が付かれない筈だ。

無視してしまおうと魔王の陰にそっと隠れるが、二人は一直線に私に向かってくる。

何故だ。


「お師匠様!何やってるんですか!その目つきの悪い男は誰です!」

「魔女殿!刺客は逃げたようですね、さすがです!」

「・・・おい、お前の事みたいだぞ」

「知りません。私はあなたたちの事など知りません」


自分の陰に隠れられているというのに、さっきまでの不機嫌はどこへやら、何故か楽しそうな魔王が二人を指さす。


「なら俺が追い払ってやろう」

「だ、ダメッ!!」


それは駄目だと慌てて二人をかばえば、今度は二人が嬉しそうに目を輝かせる。


「やっぱりお師匠様だ」

「魔女殿の真の姿、大変可愛らしいですね」

「な、なんで」


何故もっと驚くとかしないのか。

私が戸惑っているとユーリもディランも肩をすくめる。


「僕がお師匠様を間違えるとでも?声でわかりますし、大体、何年あの姿のままだったと思うんですか。仮の姿だってことくらい気が付いてましたよ」


成長したね、ユーリ。


「魔女殿のオーラは見間違えません。魔族は成長が遅いので姿を変えているとは思っていましたが、予想以上でした」


侮れない元聖騎士。なにが予想以上なのだ。


「おい、俺を無視するな。ミヤ、なんだこいつらは」

「魔王には関係ありません・・・って、名前?!」


不意過ぎるタイミングで名前を呼ばれて心底動揺する。


「あ?ミヤだろうお前の名前。この前ティムズに聞いたぞ」

「はぁ、そうですか」


私がいなくなってからようやく知ったというわけか。

呼ばれてしまえば私を駆り立てていた怒りが何となくだが溶けていく気がする。

許すわけではないけれども。


「ミヤ?お師匠様の名前はミリヤムだ!早くこっちに隠れてください。」

「それが本当の名前ですか?・・・というか、今、魔王と?」


ユーリが魔王の傍から私をかばうように引き寄せ後ろに隠す。

指輪で姿を偽っている時は同じくらいの目線だったのに、本当の姿ではユーリの背中に私がすっぽりと隠れてしまう。

本当に大きくなったなぁユーリ。

そしてディランが拾って欲しくない単語に思いきり反応してる。

いつの間にか剣に手が伸びている。


「・・・それは俺の秘書だ、返せ小僧」


さっきまで妙にご機嫌だった魔王が一気に氷点下の表情でユーリを睨む。

可愛い弟子の成長に和んでいた私だったが、その弟子が危機だ。


「ユーリ!大丈夫だから!むしろ、あなたが私に隠れてなさい!」


いそいでかばうように二人の前に出て両手を広げる。

小さな体なので盾にはならないが、逃げる時間を稼ぐくらいならできるだろう。

魔王といえども人間の暮らす場所では本来の力が出せない筈だ。

さっき魔法を使過ぎたとはいえ、まだ多少の余力はある。


「ほう?俺とやろうってか?」

「少なくとも、この子たちには関係ない話です。その凶悪なオーラは消してください」

「お前が帰ってくるなら見逃してやる」

「それ以外で」

「チッ」


心底面倒くさそうな様子なのに何故ここまで私にこだわるのか。

そんなに魔王城が大変なのだろうか。

一瞬だけ再雇用の考えが浮かばなくもなかったが、名前を憶えられたくらいで元鞘に収まるなんて安い女になるのは御免だ。


「どんなに言われても、魔王に仕える気はもうありません。魔王の秘書はもうこりごりです」

「・・・秘書じゃないならいいのか」

「他ににどんな役職が?有能な部下ならティムズとアルムスがいるから十分でしょう」

「部下じゃないならいいんだな?」


妙に真剣な表情で魔王が私に近寄ってくる。

なんだかさっきとは別の意味で気圧されそうだ。


「少し、よろしいですか」


そんな私と魔王の間にすっと入り込んだのはディラン。

ユーリは私を抱き抱えるようにして、また魔王の視界から隠してしまう。


「どけ」

「いいえ、どけません。どんな関係かは知りませんが、魔女殿は私にとっては一生仕えたいと思った方、そう簡単に渡すわけにはいきません」

「なんだと・・・?」

「そうだ!お師匠様は僕の大切な人だ!お前なんかに渡すか!!」

「誰だか知らねぇが、死にたくなければソレを返せ」


またも魔王のオーラがドス黒く染まる。

このままじゃ二人が危険だ。


「いいのですか?あなたが本当に魔王なら、ここで魔法を使うのは協定違反では?」


私からは見えないが魔王のオーラが止まったのが伝わってくる。

協定違反?なんのことだ?


「お前、アイツらの加護持ちか」

「ええ、何の因果かまさか本当に魔王と対峙する日が来るとは」


ディランが剣を抜く。


「今は身分を捨てていますが、神族に加護を受けた聖騎士としての役目を果たすという使命は捨てていません」


いつもより五割増しでキラキラとしたオーラを放つディラン。


「俺とやろうってのか?」

「本意ではありませんが」


にらみ合う二人。

私を離そうとしないユーリを何とか押さえつけて、急いで間に入る。


「ちょ、ちょっとストップ!おねがいだから一回ストップ!」



私を中心に睨み合う三人。

何でこんな状況になっているのか誰か説明してほしい。



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