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98話 ジャンク品

「それにしてもアイネちゃんってモテるねぇ。今日だけでアプローチしてきた人、三人でしょ?」


 クエスト掲示板からある程度離れた壁によりかかりながら一休みをしているとトワがそんな事を言ってきた。


「ははは……一つ、人じゃないのが混じってるっす……」


 アイネがあまり嬉しくなさそうに苦笑いをする。

 ……とはいえ、だ。たしかにドン・コボルトを人間扱いするのはおかしいと思う。

 しかし、やはりこの世界の美的感覚でもアイネは可愛いのだろう。

 あまりにもスイが嫌われている様子を見ていたせいで俺の美的感覚が狂っているのかもしれないと疑っていたがそんなことはないようだ。


 ──でも、あの二人はロリコンだったんだろうな。多分……


 まぁ好みは人それぞれだ。

 正直、俺もアイネの事は可愛いと思ってしまっているだけにあまり人のことはいえないのでそこには触れないでおく。


「……リーダーはウチにアプローチしないんすか? ウチ、モテるみたいっすよ?」


 ふと、アイネが俺の腕をつかみながら、くいくいと手でひいてきた。


 ──まぁモテるだろうな。あぁモテるだろうとも。


 男心を殺しに来るような上目使い。

 わざとやっている訳ではなさそうなのが天才的に見える。


「えっ、あ……」


 だが情けないことにアプローチと言われても何をすればいいのか分からない。

 さっきの男達の真似をするのは絶対に間違っているだろうし参考にできるものがなかった。

 キザな台詞の一つや二つを簡単に言える程、俺の頭は柔らかくはない。


「アハハ、多分リーダー君は草食系だねぇ」

「ん、そうなんすか? ウチは肉の方が好きだけどなぁ」

「まぁアイネちゃんは肉食系だよね」

「でもウチは偏食じゃないっすよ。ははっ」


 カラカラと笑いあう二人。全く会話がかみ合っていないのに何故だか意気投合している雰囲気だ。


「そ、それはともかく……どうするか。そろそろ入口にいっておくか?」


 ふと、入口の方に視線を移す。

 スイと別れてからそれなりに時間は潰したはずだ。

 さっきの騒動を見るに、彼女を入口付近に一人で待たすのは色々とトラブルが起きそうな気がする。


「うーん、微妙にまだ早い気も……」


 俺の言葉にトワが微妙だと言いたげに首を傾げた。


「ならもうちょっとだけギルドの中見てみるのはどうっすか? ポーション以外にも何か売ってるかも」


 どうも俺の不安が時間を長く感じさせているらしい。

 アイネもトワに同調するような表情を見せている。


「それなら入口に近い辺りで何か探してみるのはどうだ。スイを待たせたくはないからさ」


 とはいえ、やはりスイを一人で放置はしたくない。

 あの視線を一人で受け続けるというのはかなり堪えるもののはずだ。


「オッケー。なら……」


 俺の言葉を受けてトワが周囲を見渡すために高く飛び上がる。

 しばらくすると入口付近の入口を指さしながら急降下してきた。


「あっ、あっちの方に何かお店あるみたい。寄ってみる?」

「ナイスッ! 行きましょ、リーダー」


 アイネが、ぐいっと俺のコートの裾を引っ張ってくる。


「わ、分かったから……そんな引っ張るなって……」

「あはは、すいませんっ」


 ちろり、と舌を出すと今度は俺の手首をそっとつかんできた。


 ──それはそれで恥ずかしいんだけどな……




「どれどれ……ん、ジャンク売り場……?」


 人を分けて進んだ先にはさっきのポーション売り場とは雰囲気の異なる店があった。

 トーラに居たときに魔物の素材で出来た楽器屋を訪れた事があるが、あの店の雰囲気に近い。

 無造作に置かれた品物が人を遠ざけているように見える。


「なにこれ、変なのばっか売ってるよ」


 多数の小さな机の上にいくつもの商品がぎゅうぎゅう詰めに並べられている。

 それぞれに目を通してみるが何に使うのか分からないような得体のしれないものばかりだった。


「ん? ジャンク品に興味があるのか。君達みたいな若い人たちが珍しいな。しかも魔術師に……ん、妖精……?」


 その中心に立つ三十代ぐらいの男が訝しげに俺達を見つめてくる。どうやら彼が店主のようだ。

 そんな彼の対応などスルーして、トワが店主の近くへと飛んでいく。


「ねぇねぇ、これ何に使うの?」


 目の前に現れた妖精を前に目を丸くする店主。


「お、おう……ここにあるのはな、使うもんじゃねえんだ。ただの飾りさ。ほら、お土産みたいなもんだ」


 どうもトワのフレンドリーさにゴリ押しされたらしい。

 最初は戸惑った様子を見せていたが割とスムーズに会話が進んでいった。


「へぇ。でもこの石なんて真っ黒だけど?」

「お守りみたいに使うヤツもいるからな。ジャンク品の価値なんざ、自分でも作るもんよ」

「おぉ。奥深いっすねぇー」


 アイネがぱちぱちと軽く拍手をすると店主は誇らしげに胸を張った。

 どこか丸投げされたような気になるが彼の言うことも分からなくはない。


「ねぇねぇ、リーダーだったらこの石にどんな価値を与えるんすか?」


 と、アイネが俺の目の前に手を差し出してきた。

 その手の平の上には小さなクリスタルが置かれている。その色は真っ黒に染まっていて──


「……ん、まてっ! それって!!」


 思わず息をのんだ。

 その形、色には見覚えがある。……いや、見覚えなんてレベルではない。


「ど、どしたんすか?」

「これは──召喚クリスタルじゃないかっ!」


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