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90話 変な話し

「スローガル家は代々優秀な冒険者を出していてね……中でも炎属性の魔物について精通していることで有名なの。ライルさんならサラマンダーを倒せる。皆もそう思ってる。でも、私がクエストを受けたことでライルさんは別の街に遠征にいったんだ」


 一度そこで言葉を切ると、スイは後ろからでもはっきりと分かるぐらい大きなため息をついた。


「……私はこの街を任されている。それなのに、その責任を果たせないでいるんだよ。責任も果たさず自分の都合で名誉だけに固執する。加えて王に対する横領なんて超重罪を犯した犯罪者の家系。そんな相手、好きになれるわけないでしょう?」


 自虐的にハハハと笑うスイの声が聞こえてきた。

 彼女が今どんな表情をしているのか。それがはっきりと想像できる程の力ない声。


「先輩……」

「実際、私じゃ勝てない相手だからリーダーについてきてもらった訳だから。やっぱり無責任なんじゃないかな。私って……」


 スイはあまりに冷たく単調な声色で、まるで他人事のようにやや早口に言葉を続けている。

 多分……いや、間違いなく、これはただの強がりだ。

 外見だけでも堂々と毅然とした態度を保っていなければこんな視線には耐えられないのだろう。

 アイネも同じような事を思ったらしい。スイに対する視線が憐みのものに変わっている。


 ──それにしても、無責任、か……


 そんな風に思いつめる彼女の姿は痛々しくて見てられない。



 ──もしかして、ただこのままクエストを達成しても……



「ねぇ、答えたくないならいいんだけどさ。スイちゃんの親って今何やってんの?」


 ふと、トワが唐突に声をあげる。

 あまりに直球的な質問に思わず息をのんだ。

 普通そういう質問は、はばかられるようなものだと思うのだが──

 ぴたりと足を止め、スイが振り返る。


「父親は処刑され、母親は奴隷に落とされました。詳しくは知りません」

「そんな……」


 アイネが口元に手をおさえるのが見えた。

 俺も出てきた単語の物騒さに吐き気に近い感覚を覚える。


「ははっ、そんな顔しないでください。大丈夫ですよ。実は親の顔もうろ覚えなんです。私、六歳の時に師匠のところに弟子入りしてずっとトーラに住んでいましたから……」


 異様な緊張感に耐え切れなくなったのか、スイが困ったように笑みを見せてきた。

 それを見て、アイネの頬が少し緩んだ。


「……まぁ、先輩、実質ウチのお姉ちゃんみたいなもんっすからね」

「ふふっ、そうだね。育ての親は師匠だったから」


 二人が笑いあうことで緊張の雰囲気が少しずつ緩んでいく。

 しかし、それを許さないと言わんばかりにトワが声をあげた。


「──なんか変な話しだね」


 極めて抑揚のないトワの声。二人が怪訝な顔でトワを見る。


「ん、どういうことっすか……?」

「あぁ、別に二人の関係のことを言っているわけじゃないよ。スイちゃんの親って貴族だったんでしょ。そんなにお金に困るものなの? なんで王の財産を横領なんて超級のリスク、背負う必要があるわけ?」


 ──言われてみれば、たしかに……


 とはいえその疑問を解決できるような情報なんてあるはずもなく。


「そういわれれば、たしかに変かも……?」

「…………」


 周囲が妙な沈黙に包まれた。

 トワが申し訳なさそうに手を前にあわせる。


「……ごめんね。答えてくれてありがとう。あんまり好奇心で深入りするものじゃないよね」


 そう言いながらトワは俺の肩から飛び立って皆に頭をさげる。いつもの飄々とした態度は無い。


「い、いえ……大丈夫ですよ。さっきも言った通り親のことは殆ど覚えていないので悲しいとかいう感情はありません」

「そっか」


むしろ急に向けられた真摯な態度にスイの方が恐縮してしるようだった。

トワは顔をあげると安心したように僅かに笑みをみせる。


「そろそろ着きますよ。あれがシュルージュギルドです」


 雰囲気を変えようとしたのだろう。スイがこの街にきてから一番明るい声色でそう言い放つ。

 彼女が振り返った先には一際目立つ大きな石の建物があった。


「おぉー、でかいっすねぇ。やっぱ違うなー」


 アイネがその建物の方向へと走り出す。

 スイはそんなアイネを見るとくすり、と笑いながらアイネの方へと歩き出した。

 俺も彼女達の後を追おうと足を踏み出そうとする。


「ねえ、リーダー君。今の話し、ちゃんと覚えておいたほうがいいかもよ」


 そんな時だった。俺の左肩に降りたトワが、ふと話しかけてくる。


「どういうことだ……?」


 意図的なのだろうか。彼女を見てもトワは視線を返してこなかった。

 トワはじっとスイのことを見つめている。


「んー……将来のために一応伝えておくよ。ボクには、なんとなく分かるんだよね」


 そこで一度言葉を切り、人差し指で三回自分の右頬を軽く叩く。

 そして、わずかに首を傾げた後にゆっくりと俺を見上げてきた。


「醜い人間のにおい……が、さ」


 ──また、だ。


 背中に悪寒のようなものを感じる。

 表面上は笑顔のはずなのだが、その瞳から感じるのは冷たさだけ。


「トワ……?」

「ふふっ、そんな顔しないで。リーダー君は全然そんなにおいしないから」


 だがそれも一瞬の出来事だった。

 まるで幻でも見ていたかのように、気づけばトワはいつも通りの笑顔を見せていた。


「リーダー? 何してるんすか?」


 立ち止まる俺をスイとアイネが怪訝な表情で見つめている。


「悪い、すぐ行く」


 意識を変えようと頬を叩く。

 とりあえず目下の目標はサラマンダーの討伐だ。

 俺は彼女達に歩を合わせるために走り出した。


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