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87話 理由

 光が失われ、視界が元に戻っていく。馬車のあるファルルドの森へと帰ってきた。


「ふふっ、よかったっすね? ちゃんと返ってきて」


 そう言いながらアイネが顔を覗き込んできた。

 俺の手には以前アイネがくれたオカリナが一つ。


「あぁ。アイネのおかげだな。あんなにスムーズに返してくれるなんて思わなかったぞ」


 ドンはあれからアイネの話しを素直にきいてくれた。

 一度ドンが集落に戻った後、オカリナを手渡され今へと至る。

 やはりスティールキャットが俺から盗んだものらしい。

 俺達がコボルトを倒しまくっていたので復讐とかされるのではないかと思ったがアイネのおかげで誤魔化した気がする。


「もう、ひやひやしたよ……」


 スイが呆れたように笑う。

 アイネがえっへんと胸を張った。


「へへ、でもどうっすか? ちゃんとウチも強くなったって、伝わった?」

「……そうだね。伝わったよ。トーラではちゃんと貴方のことを見ていなかったのかも……」


 対照的にスイは恥ずかしそうに顔を俯かせる。

 少しの間、そのままでいるとスイは改めてアイネの方に視線を移した。


「ごめんねアイネ……私、もしかしたらアイネに凄く失礼なことをしていたのかもしれない。貴方はただの『守る相手』じゃない。もっと対等な、私達の『仲間』なんだよね」


 不意に真面目なトーンでそんなことを言われたせいだろう。

 アイネがきょとん、と目を丸くする。


「へへーっ、そう改めて言われると恥ずかしいっすね」

「……ううん、ちゃんと言わせて。改めて、よろしく」


 穏やかにほほ笑みながらスイが手を差し伸べる。

 すると、アイネも満面の笑みを浮かべた。


「うっす!」


 握手する二人。

ドンを通じてみて俺もはっきりと認識したがスイとアイネの力量差は歴然だ。

 それでもアイネは誇らしげな表情を見せていた。


「まぁ一件落着ってことで。どう? 今日中にシュルージュには着くのかな」


 トワがパチンと手を叩いて話しに入ってくる。

 やたら静かだと思っていたら、どうやら空気を読んでいたらしい。


「そ、そうですね。日は落ちるかもしれませんが、大丈夫そうですよ」

「じゃあとっとと行きましょっか! ほら、馬車のりましょっ!」


 背中を見せて馬車の方に歩き出すアイネ。

 その姿を見て、さっきアイネが言った言葉を思い出した



 ──断るならせめてウチが向かい合うのが礼儀でしょっ


 ……ふと、考える。

 この言葉は俺への願いの裏返しだったのではないだろうか。

 受け入れるにせよ断るにせよ、自分自身が向かい合う。

 それがアイネへの、自分を好きになってくれた人への、せめてもの礼儀。


「あの、リーダー……」


 と、スイの言葉で我に返った。

 スイがこちらをじっと見つめている。


「……なぜ、分かったんですか?」

「え?」


 言葉の意味が分からず首を傾げる。 


「最後に、アイネが計算してたって……なぜわかったんですか?」

「あぁ、それか」


 おそらく気功縛・白刃取りを使うまでのアイネの行動のことを言っているのだろう。


「アイネ、前に自分で言ってたじゃないか。『女は拳でしょっ!』って」

「えっ?」

「剣はともかく、斧を使う才能が無いとも言ってたよな。確かおとといの夜……」


 トーラから出た日の夜に、この場所でテントを張り寝た時のことだ。

 スイに、手遊びに無理矢理付き合わされた記憶の方が強いのだが、たしかにそんなことを話していたはずだ。

 トワがアイネに武器を使わないのか、と話題を振ったことがきっかけだったと記憶している。


「あぁ、確かにそんなこと……」


 スイも思い出したのだろう。

 少し上の方に視線を移してこくこくと頷く。


「それなのに、わざわざドンの斧を拾っていったんだ。わざとやってるとしか思えないだろ」

「あっ――!」


 そこまで言えばスイにも理由が分かったようだった。

 ジリ貧になりつつあるとはいえ、才能が無いと言い切る武器を手に取るなんて普通ならばするはずがない。

 それを敢えて手に取った姿を見て俺は、気功縛のことの事を思い出したのだ。



「なるほど。少し分かったかもしれません……そういうところ、なのかもしれませんね……」



 ふと、スイがくすりと笑う。


「ん、何が?」


 ──そういうところ?


 意味が分からず反射的にそう聞いてしまう。


「ふふっ……ただの独り言です。気にしないでください」

「……?」


 だが答える気はないらしい。

 はぐらかすように苦笑いをみせる。


「ごめんなさい、引き留めて。さっ、行きましょう?」


 とはいえ特に詮索することでもないだろう。

 それに俺達はまだ目的を達していない。ただ寄り道をしただけだ。

 むしろこれからが本番だと言っていい。


「そうだな、行こうか」


 この世界で最初に馬車に乗った時のように、俺はスイの後を追いかけて行った。


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