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77話 問いかけ ★

 夜。俺達は別々のテントで寝ることになった。

 昨日俺達が寝たテントよりもさらに狭く、完全な一人用のものだ。

 トワをコートの中におしこめた後、沈黙が支配してから数十分。

 俺はなかなか寝付けずに茫然とテントの天井を眺める。


「もしもーし、もしもーし……」


 そんな中、テントの外から声が聞こえてきた。


「ん?」


 寝返りをうちながらテントの方に視線をうつす。

 すると、そこにはネグリジェに身を包んだアイネの姿があった。

 おさげの三つ編みがほどけ、綺麗に髪がおろされている。


「やっ」


 右手を頭のよこにつけ敬礼のようなポーズをするアイネ。


「アイネッ!?」


 驚き、思わず飛び起きる。

 するとアイネが人差し指を唇の前でたてた。


「しーっ! トワちゃんが起きちゃうっす」

「あ、そうか……」


 コートの方に目をうつす。反応は全くない。

 どうやら起こしてはいないようだった。

 ……少なくとも外観上は。


「いや……どうした。寝れないのか?」


 立ち上がり、アイネの方に歩み寄る。

 この世界にも月や星が存在する。

その光でアイネがうっすらと頬を染めていることに気が付いた。


「ふふっ、リーダーも同じじゃないっすか。もう寝てるかと思ったのに」

「あまり場所を移して寝ることに慣れてなくさ。テントで寝る経験なんて全然ないんだよ」

「そうなんすか? 大変っすね」


 アイネはそう言いながらくすりと笑う。

 そして少し自虐的な笑みをみせながら言葉を続けた。


「ウチは昼寝のせいで目がちょっとさめちゃって。なかなか寝付けないんすよ」


 確かにアイネは馬車に乗っている時に何度かうたた寝をしていた。

 そのせいで少しリズムが狂ってしまっているらしい。


「それでも早く寝たほうがいいぞ。夜更かししたらまた明日に響くだろうし」

「うーん、確かに……でも……」


 俺の言葉にアイネは不満そうに口をとがらす。

 そのまま甘えるように俺に対し上目使いをみせてきた。


「今なら二人で話せるかもって、思ったから……」


 アイネの言葉で心臓がとくん、と鼓動する。

 この雰囲気はつい最近も体験したものだった。

 どう反応したらいいか分からず動きをかためていると──


「うりゃっ」


 アイネが俺の腕を引っ張ってきた。

 少しバランスを崩して一歩足を前に踏み出す。

 するとアイネはそのまま俺の背中に手をまわし、ぎゅっと自分の方へ俺を抱き寄せてきた。


「ん~っ、やっぱりリーダーはいい匂い……」


 胸に顔をうずめながら、アイネが息を大きく吸う。

 アイネの体の感触と体温のぬくもりが、俺の体の中から力を奪っていくような感覚がした。

 高まっていく心臓の鼓動をおさめるために俺は努めて淡々とした声で話す。


「……この服、オートウォッシュがかかっているようだからな」

「だからそういう意味じゃないって言ってるじゃないすか」


 いじわるっす、と不満げに言いながらもアイネの表情はとても優しい。

 そのあからさま過ぎる好意が照れ臭すぎて、俺はアイネの肩を反射的につかんでしまった。


「アイネ……、そ、そろそろ……」


 アイネの肩を前に押し出し離れるように合図する。


「いや」


だがアイネはそれに反抗するように背中にまわした力を強めてきた。


「おいっ……トワが起きるだろ……」


 トワには前にもこういうところを見られている。

 アイネはそのことを知らないのだろうが今もトワが見ているかもしれないと思うと、とてつもない焦りが生まれてきた。


「なら、ウチのテントに来る……?」

「えっ……」


 アイネがわざとらしく首を傾ける。

 そのままじーっと俺の事を見つめてきた。

 一瞬、ぐらりときたがなんとか理性を持ち直す。


「……からかうな、バカ」


 仕返しのつもりでアイネに軽くデコピンをしてやった。


「あにゃっ」


 ぴくりとアイネの耳がはねた。じろり、と半目で俺のことを軽く睨んでくる。


「むぅ、分かったっすよ。あーぁ……」


 アイネはため息をつきながら俺から手を離す。

 一歩下がり寂しそうに俺の事を見上げてきた。

少し罪悪感を覚えてしまう。

 

「まぁでも、また抱っこしてくださいね。リーダー」


 だがすぐにアイネはにっこりと笑みをみせてきた。

 その無邪気な表情につられて、俺も頬の筋肉が緩むのを感じた。


「あ、あぁ……分かったよ……」

「ふふっ、おやすみっ」


 そう挨拶するとアイネはスタッと踵を返し向かい側にある自分のテントへと移動する。

 テントに入る際、もう一度目が合った。手を振ってくるアイネに手を振りかえす。

 

「ふぅ……」


 ──まさか、自分がこんなに女の子に慕われるなんてな。


 ニヤニヤしそうな頬をおさえながら俺もテントの中に戻る。

 すると──


「やっ、お楽しみだったね」

「……トワ」


 俺のテントに戻るとトワがテントの中央でふわりと浮かんでいる姿が目に入ってきた。


 ──やはり、起きてたのか。

 

「あれ、驚かないの?」

「なんとなく予感はしていたからな」


 この点については、もはや今更驚くまでもない。

 めちゃくちゃ恥ずかしいのは事実だが、表に出したら余計恥ずかしくなってくる。

 俺は淡々とテントの中に座った。


「アハハッ、でも安心していいよ。『あまり』よく見てないから」

「そうか……」


 トワが強調してきた部分には敢えて反応しないでおいた。


 ──こういう時、気づかないふりぐらいしてくれてもいいのではないだろうか


「どう? だっこ、気持ちよかった?」

「…………」


 俺も人の事はいえないと思うが、ここまでズケズケと聞いてくる程デリカシーについて疎くはないと思う。

 恥ずかしいとかそういうのを通り過ぎて呆れてしまった。


「えー、沈黙? なんでそんな顔してるの? 嬉しくなかったの?」

「お前に気づかれて恥ずかしいだけだよ……」

「ほんと? ほんとにそれだけ?」


 トワが俺の顔の前でぶんぶん飛び回る。


 ──ハエか、お前は。


 うざったい感じもしたのだが、そのコミカルな動きが少し面白い。


「ふふっ……まったく、うるさいなぁ……」

「えー、ひどくない?」


 トワが不満げに唇をとがらせながら俺の膝元に着地する。


「まぁいい。もう寝ようぜ。そこにいると潰しちまうぞ」


 そう言いながらロングコートの方を指さす。

 彼女がそこにいては寝返りが怖くて眠ることができない。

 だが、トワは反抗的に俺の膝によじのぼるとそこを蹴り、一気に飛翔する。

 そして俺の顔の目の前にまで移動すると神妙な顔つきで俺のことを見つめてきた。


「……ね。アイネちゃんのこと、どう思ってるの?」


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