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74話 簡易キャンプ

「あ、見えてきました。あそこで今日は泊まります」


 アンラッキーの反動だろうか、あれから魔物とは一回も遭遇していない。

 それはそれで退屈しはじめてきて、俺もアイネもウトウトと船をこいでいた時のことだった。

日が少し落ち始めたころ、スイは唐突にそんな事を言い始める。

 どういうことか、と前方に注意を向けてみると草原の中にいくつかのテントやレンガの建物が簡単な柵に囲まれている場所が目に入ってきた。

 キャンプ場と言うべきなのだろうか。


「あれ? まだ夜になってないけどいいの?」


 トワが訝しげにスイの顔を見上げる。

 俺もそこは気になっていた。昨日は日が落ちてから泊まった気がするのだが。


「はい。魔除けの簡易結界が張られているのは道中あそこぐらいしかないので。ここを無視すると危険な場所で野宿することになります。馬達も休ませないといけませんしね」


 だがすぐにその疑問も解決してしまう。

 どうもキャンプする場所を選んでいるようだった。


「へー、もうテントとか色々張られてるんすね。人もいるのかな」

「トーラの方に向かう人は殆どいないから利用者は誰もいないと思うよ。警備兵さんはいると思うけど」


 柵の近くまで移動してきた俺は入口と思われる場所で馬車をとめる。

 すると近くのテントから四十ぐらいの男が一人出てきて、ふらりとこちらに近づいてきた。


「こんにちは。三人で利用したいのですが、大丈夫ですか?」

「おや……冒険者か? ん、アンタ……一週間ぐらい前にも来たよな」

「はい。またお世話になります。それでその、利用は大丈夫ですか?」


 気怠そうにぼりぼりと頭をかきながら男が大きくあくびをする。


「見りゃわかるだろ。ガラガラだよ」


 辺りには男が入っていたテントを含め十個近いテントが張られ、その向こう側に二つの煉瓦の建物が申し訳程度に立てられている。

 当然、その中の人の姿など分かるはずもないが、どれからも人の気配は感じられない。

 不気味な程に静かな場所だった。


「じゃあお願いします。これを」

「ん。じゃあ後は好きにしてくれ」


 俺が場所に気を取られている間にスイが男に何かを渡していることに気が付く。

 どうもお金を払っているらしい。銀貨のようなものがちらりと見えた。

 男はそれを受け取ると気怠そうにテントの中へ入っていく。

 そんなやりとりを見たアイネが少し不満げに声をあげた。


「あれ? お金がかかるんすか?」

「一応だけど生活に必要な施設があるからね。その利用料だよ」

「俺達の利用料は?」

「私が出しておいたから大丈夫です。トワの分は入ってないですし、大した料金でもないので気にしないでください」


 スイはさも当たり前のようにそう答えながら馬車を発進させる。


 ──いや、それは申し訳ないのでは?


 そんな事を考えた瞬間に気づいた。俺は全くの無一文であることに。

 スイにお金を返したくても、それができない。

 

「ふふっ、心配しないでください。一応、お金には困ってないですから」


 そんな俺の内心を察したのだろう。スイがくすりと笑いながら話しかけてきた。

 そしてテントの裏にある馬車を止めるためのスペースと思わしき場所まで移動したのを確認するとスイは馬車を制止させる。


「んじゃ、ゴチになりまーっす」


 アイネは後輩という立場もあってこういうのに慣れているのだろうか。

 敬礼のようなポーズをとり軽く流している。


 ──まぁ、寄生する相手が親から少女に変わっただけだ。今更胸を痛めてどうする。


 彼女がいいと言っているのだからここは無理にでも開き直ることにした。

 そうでもしなければ無駄に気まずくなるだけだろう。うむ。仕方ない。仕方ないんだ……


「そういえば、ここにはお風呂がありますよ。昨日入れなかった分、今日はゆっくりできますね」


 ふと、スイが馬車から降りながらそんな朗報を告げてくる。


「マジっすか? やったー!」


 アイネが俺の心を代弁するかのように両手をあげて喜びを体で表現する。


「少し早いかもしれませんが、私は馬達の世話をしないといけないので。どうぞ行ってきてください」


 手伝おうか、とも言いかけたが馬の世話に関しては何をどうしたらいいのかさっぱりだ。

 有難迷惑になる未来しか見えないのでここは彼女の言葉に素直に従うことにした。


「じゃあ入ってこようかな。やることなさそうだし」

「りょーかいっす。じゃあリーダー、行きましょう」


 そう言いながらアイネが俺の右腕をつかんでくる。

 それを見てスイが半目になる。


「……アイネ、言っておくけど男湯と女湯は別だからね?」

「いくらなんでも、そんなの分かってるっすよ!」


 耳と尾をピンと立て、少し前かがみになるアイネ。

 口をいーっと横に結んでスイに不満をアピールしている。

 そんな二人をよそに、俺の左肩に乗ったトワが真剣な表情に俺に話しかけてきた。


「……妖精は人間でいう男と女、どっちに分類されると思う?」

「お前は女湯な。ついてくるなよ。ふりじゃないからな?」


 考えなくても分かると思うのだが、これいかに。


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