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72話 お試し魔法

 ともかく、相手はかなり多い。二手に分かれているせいで全員を全て倒すことはできそうにないが魔法ならまとめて倒すことができるだろう。

 練習がてら俺がゲームで一番よく使っていた魔法のエフェクトをイメージしてみることにした。


 ──確か敵の足元に魔法陣が出現して爆発を起こすというものだったはず……


 体の内側から外へと風が吹き出していくような感覚を覚える。

 この後は何度か経験した通りだ。右腕を前に突き出し、コボルトの群れに狙いを定める。

 その直後、その場所に赤い魔法陣が展開され、爆発音とともに高さ十メートル程の火柱が出現した。

 

「ひゃっ!」


 スイが小さな悲鳴をあげる。それと同じタイミングでトワが服の中から飛び出してきた。


「うっひゃーっ、派手だねぇっ。さすがイケメン!」

「トワ……いい加減イケメンをひっぱるのやめてくれ……」

「えー、リーダー君はイケメンなのに」


 ──根負けしてしまった……


 しかし、黙っていてもずっと引っ張りそうなのでもう仕方ない。

 対抗してトワにイケメンの類義語を言いまくり煽ってやろうかと思ったがイケメンの女バージョンってなんなのだろう。


 ──イケガールは違うよな、絶対……


「うわーっ、あれリーダーの魔法っすかー!? すごーっ!!」


 後ろからアイネの声がきこえてきた。

 馬達の鳴き声もかなり大きく響いている。どうも俺の魔法で驚かせてしまったらしい。


 コボルトの群れの下から出現した火柱は完全にコボルト達の姿を覆い隠している。

 しばらくすると強大な破裂音と共に火柱が周囲に爆発し、消滅した。

 当然、コボルト達の姿は見当たらない。跡形もなく消し飛んだようだ。


「お。結構射程長いんだな。この距離でも使えるのか」


 映画の爆発シーンでも見ているかのような凄まじい炎だったが意外に俺自身は驚かなかった。

 ゲームより派手なエフェクトに見えたが――もう、こういうことに関して驚くのに疲れてしまっているのだろう。

それよりも、それとは別に少し胸が痛むのを感じていた。


 ──大丈夫だとは思うがあれがもし人だったら……


 というか、魔物だとはいえ生き物をまとめて殺戮するという行為自体がそこまで気持ちの良いものではない。

 ゲームではある意味他人事というか、所詮はデータという感覚でいられたのだが……

 

「ん……!? やばいっ、あれじゃ大火災になるんじゃないか!?」


 ふと、茫然とコボルト達が居た場所を見つめていた俺だったがすぐに我に返る。

 ここは草原だ。コボルト達が居た場所から炎が周囲に伝い始めている。


「うーん……それは大丈夫だと思いますよ。魔力や気で出来た炎ってすぐに消えちゃいますから」


 だがスイがかなり落ち着いた様子を見せているのでとりあえずほっとした。

 その言葉通り、炎は水をかけられたかのようにふっと消えてしまう。

 流石に焼けつくされた草は元通りとはいかなかったが火災になる心配はなさそうだった。

 

「……リーダーの攻撃魔法は初めて見ましたが……サラマンダーの攻撃よりも遥かに強力ですね。これなら……しなんて……くても…………」


 自嘲気味に力なく笑うスイ。その顔がどこか悲しげに見えた。


「……?」


 彼女が何を言っていたのかうまく聞き取れなかったが少なくとも単純に褒められているようには思えない。

 その微妙なニュアンスに首を傾げていると──


「あの魔法はなんていう魔法なんですか?」


 彼女の表情はいつのまにか、いつもの穏やかな笑顔に戻っていた。


 ──気のせいだったのかな?


 深く考えることでもなさそうなのでその点についてはスルーすることにした。


「クリムゾンバースト。結構使い勝手がいいんだよ」


 クリムゾンバーストは中級の火属性魔法だが威力が高くある程度連発でき、しかも範囲もそこそこあるため非常に使い勝手が良い。

 魔術師の中では定番スキルで、火属性が良く通る土属性の敵がいるかどうかは魔術師が狩り場を選ぶのにまずチェックする程だった。

 そんなことを思い出しているとスイが質問を投げかけてきた。


「あれ? その魔法は使ったことがあるのですか?」

「うーん、なんていうかそれは……」


 かなり答えづらいスイの質問をきいて思い出す。

 俺は今まで戦えないと思い込んでいたのだ。そうだとすればさっきの発言は違和感を与えたに違いない。

 かといってゲームで良く使っていた魔法です、なんて答えるわけにもいかない。


「……あっ、でもあっちのコボルト達はこちらに向かってきますね。敵意は衰えていないみたいです」


 どうやって答えたらいいものかと考えていたらスイが話題を変えてきた。

 俺に気を遣ってくれたのかもしれない。


「なんでっ!? 普通、リーダー君の魔法見たら逃げるんじゃないの?」


 トワが震えた声をあげながら再び俺のコートにもぐりこんでくる。


 ──忙しいやつだな、お前……


 内心でそんな事を考えながらもう片方の群れに視線をうつす。

 もう片方のコボルトの群れはこちらに向かって走り続けている。

 こちらまでの距離は百メートル程にまで詰められていた。


「おそらく、リーダーの魔法だと認識してないのでしょう。『良くわからないけど爆発した』ぐらいにしか思ってないのでは。遠目にみても詠唱をしている様子が無かったせいかもしれません」

「あの爆発って……普通じゃないでしょ……」

「それはたしかに」


 トワの言葉にスイが呆れたように笑みをみせる。


「どうしましょうか。もはや私の出る幕はなさそうなんですが……ちょっと、予想以上にリーダーの魔法が強くて……まぁレベル2400ですし、当然と言えば当然なんですが……」

「うーん、ちょっと近くなってきたし任せていいか? 馬も驚いているみたいだし」


 別にもう一度魔法を使うのはかまわないのだが馬達が驚く姿をさっき見てしまったため、どこか躊躇してしまっていた。

 スイも同じ考えに至ったのか、一度馬車の方を見るとこくりとうなずく。


「分かりました。行きますね」


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― 新着の感想 ―
[一言] コレちょっと予想以上だな…(^^;)下手したら魔王と恐れられかねん
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