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6話 彼氏疑惑

 数時間後。

 太陽──この世界のそれを、そう呼んでいいかは分からないが、それが丁度空の中心に移動してきた時間帯に俺の乗る馬車は目的地にたどり着いた。


「ふぅ、お疲れ様です。手を貸しましょうか?」

「だ、大丈夫です。一人で降りられますよ」


 流石に馬車に乗る、降りるぐらい一度その構造を知ってしまえば幼児にもできる。

 俺は苦笑しつつスイの申し出を断ると馬車をおりた。


「うわ、ほんとにトーラだな……」


 まるでゲームのモデルになった場所、いわゆる聖地と呼ばれるような場所に来たような気分だった。

 トーラは人の数はそう多くなく田舎と言える場所だ。

 地面もさほど整備されてなく家もまばらにしかたっていない。


「ここがトーラギルドです。ついてきてください」


 この村で一番大きな建築物。それがトーラギルドだった。

 田舎の建築物らしく木造でできている。やや汚れが目立っており古い建物だということがうかがえる。

 入口をあけてみると中にはいくつかテーブルが置かれていて奥にはカウンターがあり中年の女性が何人かで書類を受け取りしている姿が見えてきた。


「おぉ!? スイではないか。久しぶりだのぉ」


 と、建物に入るや否や、一人の男が近づいてきた。

 頭には男につけてもあまり需要が無さそうな猫耳がついている。

 獣人族──ゲームに登場する亜人の一種で、耳と尾がある以外はさほど人間の見た目と異ならない。

 背はかなり高く2メートル弱。体格は一言で言えばマッチョ。見た目の年齢は五十ぐらいか。顎には無精ひげが生えている。


「お久しぶりです、師匠」


 その男に声をかけられるとスイはぴしっと姿勢を正して頭を下げる。

 それを見て俺もその男がどういう人物か理解した。スイにならって軽く頭を下げる。

 だがその男の目に俺の姿は入っていないようだった。


「ナッハハハ、もう師匠はやめろと言ったはずだ。お前の方が強いのだからな」

「そんなことは。ダブルクラスの師匠の方が、総合的には強いかと」

「ナハハ、そういうことにしておいてやろう」


 男は豪快に笑いながらスイの肩をぽんと叩く。


「それでどうだ。例の依頼を受けたときいたぞ。こなせそうか」

「いえ……恥ずかしながらやはり私では力及ばず、でして。道中で修行をする事を兼ねまして師匠に助力をお願いしたくこちらに寄らせていただいたのですが……」


 俺には分からない話を始める二人。


 ──あれ、ボクやっぱり見えてないんですかね?


「むぅ、スイがてこずる相手にワシが力になれるとは思えんがのぉ……」

「そんなことはありません。ロイヤルガードに匹敵するその力は本物です」

「ナッハハハハハ、そう言ってくれるのはありがたいのぉ」

「ところで師匠、紹介したい人がいるのですが」


 と、スイが俺の方に視線を移す。それを見て思わずびくりと体が震えた。

 さっきまで空気だったため急に話題をふられるとは思わなかったのだ。

 だが、それに対する男の対応に、もう一度びくりと俺は体を震わせることになる。


「なっ、なに!」


 男と視線が交わった瞬間、その顔色が変わった。

 まるで信じられないものでも見たかのようなものに──


「おいっ! スイが男を紹介したいだってよ!!」


 直後、男はいきなり大声をあげる。

 刹那、集まる周囲の視線。そしてドタバタと誰かが走る音が響く。


「マジっすか! 先輩きてたんっすか? つか、男っすか!?」


 男と同じく、猫耳の獣人族の少女があわただしくかけよってくる。

 音の正体はこの子だったようだ。他にも何人かが近くに寄ってきて俺の様子をじろじろと伺い始めてきた。


 ──なんだ、どうなっている?


「男って……あっ! 違いますっ! 違いま――」

「ばっか、お前! なんで早く報告しなかった! 一大事じゃねぇか! めでてぇなあ、おい!!」

「先輩! ついに彼氏ゲットっすか! しかもイケメンッ! くぅ~っ、マジうらやましいっす!!」

「ちがっ、ちょ、ちがっ……は、話を……」


 俺は何が何だか分からずその場で硬直してしまう。

 視界に映るのは顔を真っ赤にしながら恥ずかしがるスイ。

 その様子がさらに勘違いを呼んだのか男はなにやら拍手をはじめる。

 それに合わせてその少女を含めギルド全体の人々が拍手をし始めた。


「いやぁ、めでてぇ、めでてぇ! ナッハハハ」

「おめでとっす! 先輩!」

「彼氏ー、スイちゃんを大事にしろよー!」

「スイを泣かせたらゆるさねっからなぁ」

「おめでとう! おめでとう!!」

「コングラッチュレーション……おめでとう……!」


 そんな拍手喝采を受け、顔を真っ赤にしながら剣を握りしめるスイ。

 その手はぷるぷると震えている。


──これは、まずい。


 直感がよぎる。

 今すぐこの場を逃げなければ危険だと。

 すぐさま振り返り、今入ってきた扉から速やかに外へ出る。


「話を……きいてくださあああああああああああああああああああああい!!!!」


 外に出て扉を閉めた直後、中から何やら轟音が響いてきた。

 ……何か悲鳴がきこえるが振り返ってはいけない。今は時間が必要なのだ。

 俺はそう自分に言い聞かせ空を見上げた。


「綺麗な空だな……」


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